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追放された蘇生術師の、死なない異世界放浪記  作者: ココアの丘
第1章 王都追放篇
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食堂に入る方法

 次の日、ぼくを除く三班の三人は、ふたたび二班と対戦形式の訓練をさせられたらしい。

 前日との違いは、相手が死ぬような攻撃が禁止されたことと、当面は突き技は控えるよう言われたことくらい。ぼくも、その日は休ませてもらえたけど、その翌日には、訓練に復帰するよう命じられた。あんな大けがのあとだから無理です、と断ろうとしたんだけど、手当が早かったからダメージもそれほどないはずだ、で通されてしまった。確かに、体力的にはそこまでしんどくはない。けど、精神的なものがあるでしょうが。

 それ以降、ぼくたち三班はさんざんに打ちのめされてはポーションを飲んだりかけてもらったり、部屋に運ばれてルイーズのお世話になる、という日が続いた。矢田部とぼくのことがあったからか、二班の連中もそこまでむちゃな攻撃はしてこなかった。けど、当たり前だけど、剣があたればめっちゃ痛いし、ケガもしてしまう。木剣の攻撃力って、けっこう馬鹿にできない。


 ただ、新田は格闘家だけあってちゃんと動けてはいたし、黒木は適当なところでうまく自分から倒れていた。大高は魔術師ということもあってか、教官役のジルベールも、それほどの無理はさせていなかった。ということで、倒れてルイーズの世話になるのは、主にぼくの役割みたいになってしまった。

 ルイーズがかいがいしく世話をしてくれるので、もしかしたら四人の誰かに気があるのでは……なんてことを、黒木が言ってたな。けど、彼女との話でよく聞かれたのは、勇者様と聖女様はどんな人で、今はどうしているのか、という内容だった。やっぱり彼女も、勇者と聖女のファンらしい。

 まあ、落ちこぼれたちの動向なんて、知りたい人はいないもんな。


 ◇


 その日は、四人全員が気を失ったり動けなくなったりしたため、二班の連中にかつがれるようにして、自分たちの部屋まで戻ってきた。ポーションを飲んだりかけたりで、なんとか痛みが取れ、動けるようになったんだけど、気がつくとお腹が鳴っている。

 ぼくはベッドに寝たまま、今日もぼくらの周りでこまめに働いてくれている、ルイーズに声をかけた。

「今、何時?」

「えっと、七時を少し過ぎています」

「もう七時なの?……あ、夕飯、終っちゃったのか」

 ぼくは身を起こして、壁に掛かった時計を見た。灯りの魔道具や日常魔法の「ライト」はあるけど、この世界では灯りは貴重品だ。そのため、夜が早い。夕飯は五時頃に食べてしまうのが一般的で、ぼくたちが使っている騎士団用の食堂も、五時から六時までが利用時間とされていた。七時では、もうとっくに終わっている。

 ちなみに、時計も高級品なんだけど、ここは王城内と言うことで、各部屋に一つ、大きめの掛け時計が用意されていた。動力は電池やゼンマイではなく、魔石だそうだ。


「えー、夕飯抜きかよ」

 この会話を聞いて、ぼくと同じくベッドで横になっていた黒木が、情けない声を上げた。

「こっちは一日中しごかれて、動けなくなってるんだぜ。こんなんじゃ明日は動けねーよ」

「この国のために訓練をして、倒れたんだ。食事くらい、食わせてもらって当然だろ」

「わたくし、この間も一食、食べ損ねたんですがなあ……どうにかならないでしょうか」

 黒木に続き、新田と大高にも不満そうな声を上げられて、ルイーズは困り顔で小さく首をかしげた。べつに、彼女に文句を言っているわけではないんだけどね。

「ジルベールさんに頼んでみるか?」

「どうでしょう。あの方は訓練が終わってしまうと、わりと冷たいですからな。あんまり、話とかもしてくれませんし」

 大高が首を振った。これはジルベールの人柄と言うより、三班が見捨てられている、ってことなのかもしれないけど。

「じゃあ、食堂に忍び込んでみるか? コックはもういないだろうけど、残り物ならあるかもしれない。何も食わないよりはマシだろう」

「俺は以前にも行ったことがあるけど、あそこは営業時間が終わると、鍵がかけられるぞ」

「鍵っていっても、食堂のドアの鍵なんて、どうせたいしたものじゃないだろ。宇藤って、ジョブはシーフだったよな? あいつあたりに頼んで、外してもらえば──」

「やめとけって。放課後の学校に、ふざけて入るのとは違うんだ。もしもばれたら、たぶん、やばいことになる」

 黒木の続けざまの提案に、新田が首を振った。

 あの食堂を使っているのは、この城で働く騎士や役人たちだ。王城での地位はあんまり高くないかもしれないけど、中には爵位を持っている人もいるそうだし、たぶん社会的には、上位の人たちだろう。セキュリティ上の備え(もしかしたら魔法的な)くらいはあるかもしれない。そんなところに鍵を破って入ろうとするのは、たしかにやばそうだった。


 四人でうーんとうなっていると、くいくい、とシャツの袖が引っ張られた。ルイーズだった。何か言いたそうに、ぼくの方を見ている。

「どうしたの?」

「あの……」

「なに? 食堂に入る、いい方法でもあるの?」

 少しの間、ルイーズはぼくの袖を持ったままもじもじしていたが、

「そうではないんです。ただ、皆さんが使っているのとは別の、私たちが使う食堂なら──」

「え! 入れるの」

「はい。そもそも、鍵なんてありませんから。料理が残っているかどうかは、わかりませんけど……」

 それを聞いたぼくたちは、一も二もなく、そこへ食べ物を探しに行くことにした。


 ぼくたちはルイーズに連れられて、使用人向けの食堂へ向かった。夕食後は割り当てられた部屋にいるように、と言われていたこともあるので、薄暗い廊下をこそこそと移動していく。進むにつれて、廊下からだんだんと装飾のたぐいが減り、魔道具の灯りの間隔が広くなっていった。

 途中、一人のメイドさんとすれ違ったけれど、彼女はルイーズと軽く挨拶を交わしただけで、特に何も言わなかった。暗くなってきたので、ルイーズは手にしていた携帯用の燭台(これも魔道具)の光をともした。


 そうやって移動すること数分。おそらくは城の端っこの方、客用ではなく使用人用の区画の中に、その食堂はあった。

 ルイーズのいったとおり、入り口に鍵などはかかっていなかった。静かにドアをあけると、真っ暗な部屋が、魔道具の光で微かに照らされた。思っていたよりも手狭な部屋に、椅子とテーブルがぎゅうぎゅうに詰めて置かれている。高校の学食も狭かったけど、あれよりもさらに密度は高そうだ。

 ルイーズは壁沿いを奥に進んで、料理の受け渡しをするのだろうカウンターを通り過ぎ、その脇にある小さなドアを開けた。その奥は、こちらは思ったより大きな厨房になっていた。ルイーズは燭台を調理台の上に置いて、ささやくような声で言った。

「ここです。何か残っていればいいんですけど」



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