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追放された蘇生術師の、死なない異世界放浪記  作者: ココアの丘
第3章 迷宮の踏破者篇
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夢でも見ているのかな

「《サンドウォール》」

 ぼくが土魔法を唱えると、目の前に土の壁が作り上げられていった。魔力を多めに注ぎ込み、土をできるだけ高くせり上げる。一度の魔法で、道の半分ほどの高さまで、壁でふさぐことができた。

「もう一度、《サンドウォール》」

 ぼくは土魔法を連発して、土壁をさらに高くした。ここに障害物を作って、魔物が小部屋に入ってこないようにするには、上まで完全にふさがなくてはならない。アラネアは、横壁や天井を伝ってくるからね。念入りに魔力を込めたおかげで、たった二回の魔法で、土壁で道をふさぐことができた。

「これでよし、と。いや、念のため、もう少しやっておいた方がいいかな」

 ぼくはさらにサンドウォールの魔法を繰り返して、壁を厚く、固くしておいてから、小部屋へと引き返した。


「……あれ? ここは?」

 アネットが目を覚ましたのは、翌日の昼過ぎだった。けっこう長い間眠っていたけど、顔はまだ赤い。熱は収まっていないようだ。

「おはよう。調子はどう?」

「ねえ、ここはどこなの? 発光石の灯りしかないから、まだ迷宮の中なのはわかるんだけど」

 アネットは、意識を取り戻すとすぐに、周囲の状況を確認しようとした。さすがは暗殺者、というところだろうか。ぼくは逆らわずに、

「小部屋の中だよ。ほら、二人でグレーターアラネアを倒しただろう。あの部屋の中だ」

「早くここを出ないと! 小部屋は、魔物が集まりやすいんだ。通路よりも住みやすい環境だから、魔物の間で争奪戦になる。もしも小部屋の主が倒されても、すぐに別の魔物が現れてくるんだよ。今は、主を倒した直後だから何もいないかもしれないけど、今にたくさんの魔物が集まってくる。だから──」

 アネットは頭だけを起こして、しゃべり続けた。もしかしたら、身を起こすこともできないほど、体が弱っているのかもしれない。できるだけ安心させようと、ぼくは気楽そうな調子で、

「大丈夫だよ。入り口を、土魔法でふさいでおいたから。入ってくる魔物はいない。安心して、休んでいてよ」

「土魔法で、あの大きな道を? 馬鹿な。サンドウォールでは、そんなに大きな壁は作れない」

「一度ではね。だから、何回も詠唱したんだ。いやあ、さすがにちょっと、疲れたよ」

 にっこり微笑んで答えたけど、アネットはなおも、

「でも、魔物の群れの真ん中にいることには違いない。このままでは、じり貧だ。急いで、外に向かった方が──」

「今の君は、満足に動くこともできないじゃないか。そんなことをするのは、自殺行為だよ。

 前にも言ったけど、ぼくはアネットと一緒に、迷宮を脱出したいんだ。そのためには、今はじっくり体を休めて。早く元の体調に戻るよう、努めた方がいい」


 こう説き伏せると、アネットはやっと、頭をベッドに戻してくれた。うん、やっぱり顔が赤いな。彼女のそばに行って、てのひらを額に乗せると、まだかなりの高熱だった。タオルを取り出し、「ウォーター」でぬらして、同じく生活魔法の「アイス」で出した氷をくるんでから、おでこに乗せてあげる。

 ちなみに、アイスの魔法は生活魔法の中ではレアもので、「氷魔法」スキルか、またはたくさんの魔法スキルを持っていないと、取得できないんだそうだ。まあぼくは、スキルの数だけなら、かなり持っているからね。

 アネットはおとなしく、ぼくの世話を受けていたけど、急に、きゅるる、と変な音がした。彼女のお腹が鳴ったんだ。アネットは恥ずかしそうになりながらも、にらむような目をこちらに向けてきた、ぼくはそしらぬ顔で、

「ああそうだ。ちょうど、お昼の時間なんだよ。アネットも、少しは食べた方がいい」

 ぼくはアネットの背に手をやって、彼女の体を起こした。そして後ろを向き、わき腹のマジックバッグから、さっき作っておいたスープを取り出した。振り向いて、アネットにお皿とスプーンを差し出すと、彼女は驚いた顔で、

「なにそれ、どうしたの!」

「スープだよ。体調が悪い時にクモの焼き肉は、きつそうだからね。消化のよさそうなものにした」

「そうじゃなくて、そんなもの、どこで手に入れたの?」

「まあいいから」

 半ば強引に、スープを受け取らせる。アネットは渋々といった表情で食べ始めたけど、

「この肉、アラネアじゃないよ! それに野菜も入ってる。こんな材料、どこにあったの?」

 また声を上げた。これだけ大声を出せるのなら、もしかしたら病気はもう山を越えて、回復期に入っているのかもしれないな。

「そんなこと気にしないで、とりあえず、食べてよ」

「気になるよ。ならない方がおかしい」

 答はもちろん、マジックバッグに備蓄しておいた、だ。だけどバッグのことは、まだ話したくはなかった。ちゃんとした言い訳を考えるのも面倒だったので、ぼくはにっこり笑って、こう答えた。

「拾った」

「拾ったって、君ね……。あ! よく考えたら、お皿とスプーンもだ。こんなもの、持っていなかったよね!? どうしたの、これ?」

「拾ったんだ」

 それだけ言って、ぼくは自分の分の食事を始めた。こちらもアラネアではない普通の魔物の焼き肉とパン、お皿とフォーク付き。大丈夫、まだ、マジックバッグはばれてはいない。と思う。

 そんなぼくの様子を見て、アネットも追及を諦めたんだろう。黙って、スープを飲み始めてくれた。


 食事を終えて、空になった食器を彼女から受け取った。もう一度背中に手をやって、アネットを寝かせる。布団を掛けてあげると、アネットは「ありがとう」と目をつぶった。けど、すぐにまた、ぱっちりと目を見開いて、

「あ! ベッドはいいとして、この掛け布団は?」

「えーと、拾いました」

「もう、いい」

 アネットは寝返りを打って、ぼくとは逆の側に顔を向けた。そして、ぽつりとつぶやいた。

「……ボク、夢でも見ているのかな」



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