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追放された蘇生術師の、死なない異世界放浪記  作者: ココアの丘
第3章 迷宮の踏破者篇
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「小部屋」の攻略

 共闘の約束をした後、ぼくたちは水から上がった近くにある通路を、上りの傾斜がついている方向に向けて歩き始めた。

 が、これはすぐに引き返すことになった。その先が、行き止まりになっていたからだ。落盤か何かがあって、道が途中で通れなくなった感じだったな。以来三日間、ぼくたちは同じ道を歩き続けている。小部屋への分岐以外の分かれ道はなかったからだ。そして、道が途中で上り坂になる、なんてこともなかったから、この間ぼくたちはずっと下り坂を歩いていた。

 普通に考えれば、迷宮の深い部分へ向かっていることになる。何回か戦闘があったし、分岐点では慎重に時間をかけて調べていたので、距離的にはそんなに進んでいるわけではない。それでもそろそろ、出口に向けて、つまり迷宮が浅くなる方向へ行きたいところだった。

 ただ、心配なこともあった。


「この先は、出てくる魔物は強くなるんだろうね」

「それはしかたがない。深い階層にいれば、いずれは出会う敵なんだから」

 迷宮の深いところに出たはずなのに、ぼくたちが出会った敵はスモールアラネアやビッグアラネアといった、どちらかと言えば小型の魔物ばかりだった。これは、通路が行き止まりになっていたことと関係がありそうだ。つまり、通路の先から入ってくる魔物つまりはエサがいない、あまりおいしくない場所だから、強い魔物はいなかったんだろう。その意味では、最初にあの道に出ることができたのは、運が良かったのかもしれない。

 だけど、出口に通じる道に出たら、話は違ってくるはずだ。グレーターアラネアやレッドポイズンアラネアといった、より強い魔物が出てきても、おかしくはない。


 ぼくが少し考えていると、アネットがこんな提案をしてきた。

「心配なら、一度、上位の魔物と戦ってみるかい」

「戦ってみる? どうやって」

「『小部屋』の中に入るんだ。あそこならおそらく、グレーターアラネア級の魔物がいるだろう」

「あ、なるほどね」

 これまで、分岐点の先が小部屋とわかったら、そこで回れ右して引き返していた。無駄な戦いを回避するためだ。けど、戦闘の経験を積んでおきたいのなら、あえて入ってみる手はあるだろう。

「それなら、できるだけ小さくて、魔物の数が少なそうな部屋がいいな。三つ前に通り過ぎたところなんてどう? 通路の左にあったやつ」

「あれね。うん、いいんじゃないかな」

 アネットは答えると、さっそく立ち上がろうとした。が、バランスを崩してしまい、斜め後ろに倒れ込んだ。ぼくは驚いて、彼女に駆け寄った。

「どうしたの? どこか、ケガでもしてた?」

「ああ、すまない。どうもまだ、本調子ではないみたいだ。ケガはしていないから、だいじょうぶ」

「しかたがないよ、ちょっと前に大けがをしたばかりなんだから。どうしよう、一日くらい、どこかで休んでおく?」

 アネットは首を振った。

「いや、それほどのことではないよ。それより、先に進もう。どちらにしろ迷宮の中では、安心して休める場所なんてないんだから」


 ぼくたちは来た道を引き返して、三つ前の分岐点まで戻った。ここを右に折れれば、目的の小部屋だ。小部屋の入り口近くまで進んで(もちろん、隠密スキルはオンにしてある)、ぼくとアネットが探知スキルで中を探ったところ、大きめの反応が一つと中くらいの反応が二つ、そして十個ほどの小さな反応があった。

 普通の小部屋だと二十匹くらいはいるのが普通なので、その半分くらいの数だな。おそらく、グレーターアラネア一匹とビッグアラネアが二匹、残りはスモールアラネアだろう。また、反応の散らばり具合からすると、小部屋はちょっと歪な円形で、半径十五メートルくらいの大きさらしかった。

 アネットによると、大きな反応が母親で、残りはその子供だろうとのことだった。こちらのクモは地球のそれとは違って、家族で一つの社会のようなものを作って生活しているらしい。このあたりはクモというより、どっちかというとアリに似ている。


 ぼくたちはいったん、分岐点まで引き返した。攻撃手順の相談を終えると、ぼくは小剣を取り出して、アネットに手渡した。

「はい、これ」

「え? どうしたの、これ」

「ナイフ以外も使えるよね? 三メタ級の大物が相手だと、さすがにナイフでは力不足だろ」

「いやそうじゃなくて。君、こんなもの持っていたっけ?」

「いや、さっき拾った。たぶん、このあたりまで冒険者が来ていたんじゃないかな」

 これはもちろん嘘で、実際にはマジックバッグにしまってあったものだ。さすがにアネットも疑わしそうな顔になったけど、ぼくは問答無用で、小剣を彼女に押しつけた。

「じゃあ、そろそろ、いくよ」

 ぼくが告げると、アネットは不承不承といった表情でうなずいた。再び小部屋の入り口まで進み、左右に分かれて、壁に張り付く。そしてハンドサインの合図で、二人同時に突入した。

「投擲!」

「ギギ──」

 ぼくは例によって拾ってあった石を、アネットは小剣の装備で使わなくなったナイフを、それぞれ投擲した。狙いは二匹のビッグアラネア。真っ先にグレーターアラネアをつぶした方がいいのかとも考えたけど、一撃で仕留められるかどうかがわからない。そこで、確実に数を減らせそうな、ビッグアラネアを標的にすることにしたんだ。


 アネットのナイフは、またもや魔物の急所を直撃した。ビッグアラネアは声を上げることもなく、裏返しにひっくり返る。ぼくの石も、もう一匹の大きな腹部に命中して、見事に穴を開けたんだけど、出てきた体液の色がちょっと違った。さっきのやつは黄色かったのに、今度のは赤黒い色が混じっていた。

 良く見るとアラネアの体全体が、少し赤味がかかっている。あ、こいつ、ポイズンアラネアだな。お城から持ってきた薬の中には毒消しもあるにはあるけど、毒を吐かれたりしたら、やっぱり面倒だ。もう一発、予備に持っていた石を投げつけて、今度は胸部にぶち当てた。横倒しになったところに近づいて、もう一太刀浴びせる。

 切り口から大量の体液が噴き出して、アラネアは動かなくなった。

「グギギギギ──」

 小部屋の奥の方にいた、部屋の主と思われる大型のクモが、うなり声を上げた。ビッグアラネアよりも一回り大きく、体長は三メートルを超えている。やはり、グレーターアラネアだった。

 ぼくは、部屋のあちこちからこちらに向かってくるスモールアラネアを無視して、まっすぐにグレーターアラネアへ向かっていった。ビッグアラネアを倒した後は、アネットはスモールアラネア、ぼくはグレーターアラネアを相手にすると決めてあったからだ。大きな魔物の相手は、体力や筋力に勝るぼくがすべきだろう。

 ちらりとアネットの方を見ると、彼女はすさまじい早業で小剣を操り、石を投げつけて、スモールアラネアを次々と倒していた。

 と、ちょっとよそ見している間に、グレーターアラネアが突進してきた。子供を殺されて、怒っているんだろうか。とはいえ、そのスピードはそれほどではない。わりと簡単にかわすことができた。巨体だから迫力はあるけど、ここまで大きくなると、機動力は落ちるんだろうな。ぼくによけられたアラネアは、急ブレーキをかけると体を横に回転させてぼくに向き直り、今度は大きくジャンプして、上から押しつぶそうとしてきた。

 この攻撃も、ぼくは余裕でよけた。そのついでに、小剣で相手の腹を切ることまでできた。姿勢が制御できない空中でお腹を見せるのは、やっぱり悪手だよね。



 前回、空行を多めに入れてみたのですが、特にご意見もいただかなかったので、やっぱり元に戻します(やってみたら修正するのがけっこう面倒くさかった、というのもある。100話以上投稿しているので、当たり前なんですが)。今後は、投稿済みの文を見直す時に、改行を大目にするよう心掛けようと思っています。

 なんだかばたばたしてしまって、すみません。


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