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追放された蘇生術師の、死なない異世界放浪記  作者: ココアの丘
第3章 迷宮の踏破者篇
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最大の難関

「さて。

 これから迷宮を進んでいく前に、しなければならないことがあります」

 ぼくがこう言うと、アネットは警戒した表情になった。

「しなければならないこと?」

「はい。もしかしたらこれが、最初にして最大の難関かもしれません」

「なんだよ急に、変な口調になって。何をしなければならない、って言うんだい?」

「そこに倒れてる、魔物の処理です」

 ぼくが地面に倒れているスモールアラネアを指さすと、アネットは少しあきれたように、

「あのアラネアかい? あれは放っておいても、大丈夫だろう。迷宮の中では、魔物の死体は他の魔物が片付けてくれる。アンデッドになることは、ほとんどないはずだよ」

「そうじゃありません。ぼくたちはこれから、あいつを食べなければならないんです」

 こう答えると、アネットは急にあわてたような顔になった。たぶん、地上での戦いでバリツの技が決まった時よりも、あわてていた。

「ア、アラネアを食べるだって! 君、正気なのか?」

「さっきも言っただろ。ぼくたちは、迷宮のかなり深い場所にいるらしい、って。脱出まで、何日かかるか予想できない。だったら、迷宮にいる魔物を狩って食べるしかないじゃないか。そして今、ストレア迷宮の中にいるのは、大半がアラネアの仲間なんだ」

 携行食糧は持っていたんだけれど、それを入れていたバッグは地上に置いてきてしまった。アネットの方も、さっき調べた時には、食べ物は持っていなかったし。マジックバッグの中には、携行ではない、ちゃんとした食べ物も入っているから、いざとなったらそれを食べるだろう。けどとりあえずは、マジックバッグを見せるつもりはない。いずれにしろ、この迷宮脱出が長期戦になるのなら、こいつを食べるのは避けられないことだった。

「いや、それはそうだけど、でも……」

 こう話すアネットの顔は、ひどくこわばっていた。その視線は、アラネアの死体に釘付けになっている。真っ二つになったアラネアは既に動かなくなっていたけど、切り口からは今も、黄色い体液がにじみ出ていた。

「……ボク、まだお腹減っていないから」

「だめだよ、ちゃんと食べなきゃ。特に君は、さっき大けがをしたばかりなんだから。まずは、ちゃんと栄養を取らないと」

 彼女を少しでも安心させようと、ぼくはちょっとおおげさに笑みを浮かべて、

「そんなに心配することはないよ。ぼくがいた世界では、クモを食べる人もいたんだ」

「そ、そうか。君はマレビトだったっけ。クモって、おいしいものなのか?」

「えーと、確か鳥肉みたいな味、とか言う話だったような。いや、違うか。あれはカエルだったかな」

「だったような?」

「実を言うと、ぼくは食べたことないんだ。っていうか、ぼくの住んでいた国では、食べたことのある人なんてほとんどいなかったんじゃないかな。一般には、ゲテモノ扱いされてたね」

「やっぱり、食べないんじゃないかー!」


 結局、アラネアは食べることに決まった。というか、強引に決めた。

 話の筋としては、明らかにぼくの方が正しかったからね。アネットも、内心ではそのことがわかっていたんだろう。渋々ではあったものの、ぼくの言葉に従って、一緒に魔物の死体をさばいてくれた。

「じゃあ、まずはこいつの足を折り取って……」

 とりあえずは、足のあたりの筋肉だけを食べることにした。さすがに、いきなり内臓を食べるのはハードルが高い。それに、やっぱりクモなので、毒腺みたいなものがあってそれを食べたりしら、健康上まずいだろうから。

 小さな個体だったからか、胴体から足を外すのは、わりと簡単だった。関節のところで、きれいに外れました。あとは、殻を割って、肉を取り出すだけ。うん、足だけになれば、なんとなくカニに似てる。カニだと思えば大丈夫。大きさと色と質感が、かなり違うけど。

「水で洗ってから、焼いて食べよう。ちょうど、ここには川もあるしね。調味料がないけど、しかたがない。そこは我慢しよう。アネットは『ファイア』は使えるよね?」

「……ああ、使える」

「じゃ、いっただきまーす」

 ぼくは、アネットから取り上げたナイフを使って、殻から身をえぐり取った。それを見た彼女は、微妙に嫌な顔をする。だけどしかたがない、このナイフはちょっと小さめで、この作業をするには便利そうだったんだから。取ったクモ肉を別のナイフに串刺しにしてから、ファイアの魔法で、じっくりと焼き上げる。十分に火が通ったところで、思い切ってかぶりついた。

 うん。うんうん。いけないこともない。意外に、まずくないかも。本当なら醤油かポン酢あたりが欲しいところだけど、それ無しでも食べられないことはないな。

「アネットも、食べてごらんよ。わりとおいしいよ」

「ほんと?」

「そうだね。カニの肉とカニ味噌を、一緒に食べたような感じかなあ」

 ぼくとしては、かなり褒めたつもりだった。だけどアネットの反応は、思っていたのとは違った。

「き、君というヒトは、そんなものまで食べるのか!」

 あ。こっちの世界のヒトって、カニは食べないんですね。


 最終的には、アネットもクモ肉を食べてくれました。味の感想を聞いても、答えてはくれなかったけど。


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