第6話 超絶ラッキー
「話を元に戻すけどまあさっきカウラの言ったことは半分正解、半分不正解だ」
かなめはそのままニヤリと笑った。
「あの馬鹿がなんとか形だけとはいえ仕事ができてるのはな……」
いかにも嫌らしい笑み。かなめに今浮かんでいる表情は誠にはそうとしか見えなかった。
「本当に仕事ができてるの?」
めんどくさそうにアメリアが頭を掻く。それを見てかなめは顔を突き出し、誠達にささやきかけた。
「奴はラッキーなんだよ。それこそ天地の物理法則という奴を疑いたくなる程な」
そう言い切るとかなめはにんまりと笑った。
『ラッキー?』
誠、カウラ、アメリアの三人はかなめのあまりに意外な言葉に顔を見合わせた。
「そうだ。奴はラッキー、幸運なんだ。本当に嫌になるくらい……話は変わるが神前には言ってないがアタシは競馬が趣味でね」
「はあ」
かなめの独白に誠は生返事をする。
「なんでその話とラッキーが関係あるのよ。ああ……そう言えば誠ちゃんが配属になったころくらいから、競馬で当たったってことでおごってくれること無くなったわね」
そんなアメリアの皮肉にかなめは苦笑いを浮かべた。
「まあ、実際あれから一回も勝ってねえからな。それもこれも麗子の馬鹿がいけないんだ」
かなめは自分自身に言い聞かせるようにそう言った。
「その様子だと神前と同時に東都の司法局本局に転属してきた田安中佐と競馬に出かけるようになってから負け続けというわけか……でもそれはおかしくないか?それなら田安中佐はラッキーというより疫病神じゃないか」
冷静な表情でカウラは指摘した。かなめはその言葉に沈黙し、そのまま頭を掻く。
「まあ、奴は競馬で金を稼ごうなんて思っちゃいねえからな。一日、朝からアタシと付き合って最終レースまでアイツが買うのは多くて3レース。ひどいときは全く買わないこともある」
「なるほど。全レース勝負に出るかなめちゃんはなんやかんやで一日のトータルで大負け。ラッキーゆえに買ったレースはほとんど勝ってる田安のお嬢さんがまあそれなりに儲けてると……」
「そんな生易しいもんじゃねえ!」
アメリアの茶々にかなめは思わず机を叩いて立ち上がった。
「ああ、あの馬鹿の面を思い出して興奮しちまった。そんなもんじゃねえ。アイツのもたらす不運と幸運の連鎖はそんな甘いもんじゃねえんだ」
かなめはまるで何かにおびえてでもいるようにそう言った。
「まあ、アイツのラッキーはアタシも知ってるからな。アイツの買った馬が来るのは確実だからその馬を買おうとするが……何故か買えないんだ?」
「買えない?」
不思議そうにカウラは尋ねる。かなめは大きくうなづいた。
「そうだ。よくあるのはアイツが買う馬を間違えるんだ。これはかなりの確率だ。まったく餓鬼じゃねえんだぞ!アタシが同じ馬を買おうとすると常に間違える」
「馬鹿なんじゃないの、やっぱり」
アメリアは呆れた様子でかなめを見つめていた。
「最初から言ってるだろ?アイツは馬鹿だって。まあ、アタシも馬鹿じゃない。うまく同じ馬を買えるときもある。そういう時は決まってその馬は来る」
「なによ、勝ってるんじゃない!今度、おごりなさいよ!」
「早合点するなよアメリア。まあ、アイツは勝った訳だが……そういう時は必ず電光掲示板に『審議』の表示が出る」
「『審議』……進路妨害で失格か」
カウラはそう言ってため息をついた。
「さすがギャンブルに詳しいカウラも競馬知ってんじゃないか。その通りだ。アタシとアイツが同じ馬を駆ったときは必ずその馬は失格する」
「偶然でしょ?」
引きつった笑みを浮かべてアメリアが尋ねた。その表情を見てかなめは思わず吹き出しそうになる。
「アイツを知らないならそう思うだろうな。ただ、アタシはアイツと三つの時から付き合ってるんだ。アイツのラッキーは昔からだ。そして、それに誰も便乗できないのも同じ。アイツを知ってる奴で今でもアイツと付き合いがあるのはアタシだけじゃねえかな。一緒にいてもアイツだけ得をして周りはただ振り回されるだけだからな」
「西園寺。貴様、意外といい奴なんだな」
カウラはしみじみとそう言った。
「カウラさん。西園寺さんはいい人ですよ。カウラさんが一番分かってるじゃないですか」
「ケッ」
誠の優しいフォローの言葉にかなめはうんざりした顔をした。
「まあ田安中佐のラッキーは分かった。だが、常に勝者が田安中佐ならなんで司法局の監査室なんて閑職に飛ばされてきた?ツキがあるんだろ?田安中佐は」
まだ納得ができないという表情でカウラはそう尋ねる。かなめはその言葉に大きくため息をつくと口を開いた。