第5話 馬鹿対策会議
第二会議室。そこで誠とカウラとアメリアはタバコの吸いだめをしているであろうかなめが来るのを待っていた。
「全く何本吸えば気が済むのよ」
アメリアがそうつぶやいた時、ドアが開かれかなめが姿を見せた。
「おう!揃ったな!」
「揃ったなじゃないわよ!かなめちゃん!一体何分待たせるつもり?」
笑顔で遅れて現れたかなめに向けてアメリアはそう叫んだ。
「言うなよ。あの馬鹿、タバコが嫌いでね。三本吸い試してきた」
「一日三本で済むのか。じゃあいつもみたいに三十分おきに吸いに行くのは止められるんだな?」
カウラが突っ込みを入れる。会議室に座る誠達三人。それを見てかなめは一番手前の上座に腰かけた。
「神前。オマエ字がうまかったろ?毛筆で『田安麗子対策本部』って書いてこの部屋の入口に張り出せ。その方が雰囲気が出る」
「何よそれ……選挙対策本部じゃあるまいし」
かなめの妄言にアメリアは大きくため息をついた。
「それより監査室長とやらは九時半には着くんだろ?」
完全にあきれ返った顔でカウラがそう言った。
「そうだ、あの馬鹿はその時間にうちの入口ゲートに到着する。時間がない、高圧電流を流した柵を設置して、その後ろには地雷原。駐車場あたりに機関銃銃座を設置すれば侵入ぐらいは防げる」
「かなめちゃん。田安中佐がそんなに怖いわけ?」
無茶苦茶を言い出すかなめをアメリアがそう言って冷やかす。かなめは諦めたというようにため息をついた。
「怖くはねえな。別にあいつが怒ろうとアタシはどうだっていいね。ただ……」
「ただ?」
言葉を急に止めたかなめをアメリアが不思議そうに見つめる。
「面倒なんだよ。オマエ等もアタシがあの馬鹿と話すところを五分も見てみろ。きっとアタシとおんなじ気分になる」
そう言うとかなめは大きくため息をついた。
「だが、西園寺。なんでそんなに田安中佐を嫌うんだ」
カウラは心底不思議そうにかなめに尋ねた。
「だから言ってるだろ?嫌いじゃなくて面倒なんだよ。まああいつの最大の特徴である馬鹿さ加減を知れば、オメエだってアタシと同じ気分になる」
そう言ってかなめは笑う。
「馬鹿、馬鹿って言うけど。一応は海軍の士官。それなりの教育だって受けてるんでしょ?うちの部隊にはトップ・オブ・馬鹿のサラがいるじゃない」
疑問に首をひねりながらアメリアが尋ねる。
サラ・グリファン中尉はアメリアの部下に当たる運航部の隊員ある。島田の彼女であるサラは空気が読めず突拍子の無い行動で隊の一同から呆れられる存在だった。
「まあ……サラは馬鹿だが……麗子とは種類の違う馬鹿なんだよ。馬鹿という言葉は本来、麗子みたいな奴を指すのに最適な言葉だ。サラを指すには馬鹿という言葉の代わりに頭が悪いという言葉がある。これからはそっちを使え」
「かなめちゃん、何それ?」
かなめの妄言にアメリアは呆れていた。誠とカウラはただ顔を見合わせる。
「麗子の奴は記憶力はいいぜ。アタシだって脳と直接外部記憶が繋がってるから話が合うけど、奴の記憶力は奴が生身の人間だと考えれば超一流だな。ただ言ってることが……」
「意味不明なんだな」
麗子の話をすると明らかに不機嫌になるかなめにカウラがそう声を掛けた。
「なんだ、カウラ。わかってるじゃないか。麗子は全く人の話を聞かないからな。聞いてもそもそも理解するつもりもないし、そんな能力もない。思い込みと直感が奴のすべて。話をしててあんなに疲れる奴は他にいねえな」
「そんなんでよく中佐が務まってるわね」
かなめの説明に再びアメリアが呆れる。
「四大公家、武家の棟梁、『将軍家』田安公爵家の当主という血筋のおかげだろ?貴族主義者が跋扈する甲武ならではの弊害だ」
そう言ってカウラは麗子を一言で切り捨てた。
「いくら貴族制とは言っても……」
「アメリア!分かってねえ!甲武のことをまるで分かってねえ!あの国はそう言う国なんだ。アイツの記憶力がもし悪くてもアイツの官位の右大臣と言うことで婿とってうまい事やるような国なんだよ!あそこは!」
かなめはそう言うと視線を誠に向けた。
「だったら西園寺さんは……」
「アタシはアタシの実力で出世する!親父が譲った貴族の位なんて知ったことか!蔭位の制?検非違使の別当?知るかそんなの!まあ、給料はそっちの方が良いから貰っといてやるなが!」
「結局自分の都合だけしか考えてないんじゃないの」
激高するかなめにアメリアは冷ややかな視線を浴びせていた。