6...無尽蔵に増える
サーモンは目を覆いたくなった。
「ぎゃあああ痛い痛い痛いっ」
「おい、暴れんなってバラせねえだろうが!」
村に戻るとジャーキー達が1人の自分を押さえつけて石台の上で解体していた。奇形の子供達は心配そうに取り囲んでその様子を見ている。「もう、うるさいってば!」1人のジャーキーが石で作られたナイフを振り上げて、トドメにジャーキーの胸へと突き立てた。ギャっと断末魔の声を漏らして絶命したジャーキー。その肉を削いで串に刺していくジャーキーと香辛料を串肉に練り込んでいくジャーキーと首を切って血を桶に搾り出すジャーキーと火を起こして出来上がった串肉を焼いていくジャーキーがいた。
村の中央で凄まじいことが行われていると言うのに残ったジャーキーは木のベンチに寝そべって欠伸をしていたり、または狩ってきた沢山の獣の皮を剥いで保存食の干し肉を作ったりしている。
サーモンは見ていられず干し肉を作っているジャーキーの元に寄って行った。
「お、おい、食料は足りているだろう?何故仲間をバラしているんだお前たちは?」
「そりゃあ、お前、女とガキどもに食わせるからだろ?」
それはつまり嫁さんと子供達を生皮にすると言うことだった。
「本気なのか!?」
「ああ、もう時期あっこの村の兵隊どもがここにも攻めてくるみてえだし。明日の日暮あたりか。その前にこっちも頭数を揃えておきてえからな。」
「戦うのか?」
あっちは鉄の装甲を持つ全身鎧の奴らだった。いくら束になって戦ったところで勝ち目などない。
「まあ、勝ち目はなくても皮だけにしたガキどもなら持ち運びは容易だろ。こっちにはジャガーや虎の生皮も沢山あるし、ゾウがいないのが残念だけど、まあそれも追々、本気で追い出す気になったら取りに行けばいい。」
しかしゾウは草食動物で肉は食わない。どうやって取りに行くのかとサーモンは思った。それにゾウは凶暴だ。人が飼い慣らすには幼少期から育てる必要があった。けれど、もしジャーキー達がゾウを使うことが出来たら、鉄の装甲を持つ兵士達ともやり合える気がした。勝てるのか、どうなのか、サーモンはぐるぐると頭を悩ませた。サーモンの目的は1人でも多くの土着の者達を生き延びさせることだった。力が及ばないのなら不毛な争いは避けて平伏させた方がマシだ。ジャーキー達は勝てるのか?サーモンの村の女達を救出出来るのか?それが気掛かりだった。
獣の肉を竿に干しているジャーキーが思い悩むサーモンをチラリと見た。
「フッ、無駄メシ食らいの役立たずがいくら考えても無駄だぜ?何ならオレ達の肉を食ってテメーもペラペラの生皮になっちまうか?」
ジャーキーの揶揄するように言う台詞がストレートにサーモンの図星を穿っていた。反論できずに黙り込むサーモン。それをジャーキーは可笑しそうに笑って、肉を干し終わり空にしたザルを持って水場に向かって行った。
焼き上がったジャーキーの串肉は先ず初めに子供達に振る舞われ、続いて嫌がる女達にも振る舞われた。
子供の皮を破って飛び出すジャーキーを見て、女達は阿鼻叫喚の悲鳴を上げて泣き叫んで我が子の生皮を掻き抱いていた。
泣き叫び逃げようとする女達も複数人のジャーキー達に押さえつけられて肉を無理やり口に捩じ込まれて食わされて、生皮にされていた。
全ての女子供の皮を破って出てきたジャーキーは総勢300人以上の大群になっていた。
「さっきの光景を見てて思いついたんだけど、」
子供達や女達が居なくなり暇を持て余した幼馴染が、貸家に戻ったサーモンに、不意にポツリと呟いた。
「ジャーキーの血肉を、あちらの村の兵士達に食べさせれば事は早いんじゃないかしら?」
「あ、」
サーモンは幼馴染の発言に一瞬キョトンとして、それから「なるほど」と呟いた。戦う必要などない。ただ肉を食わせるなり血を飲ませればジャーキーは屈強な兵隊達をも生皮にしてしまえる。
平伏すか戦闘を行うことばかり考えていたサーモンにとってそれは盲点だった。
「確かにジャーキーの血肉を料理にでも混入して食べさせれば戦う必要はないな。あちらはまだジャーキーの生態を知らないしな。」
「あっちにいるジャーキーにそのことを指示できないかしら?」
「いいね。ならそう他のジャーキーに掛け合ってみるよ。もしかしたらテレパシーで互いに意思の疎通が出来るかもしれない。」
そう思い立って直ぐにサーモンは村長宅のジャーキーの家に向かった。扉の役割を果たす布をめくって中を覗き込むと獣の皮を床に広げたジャーキーに出迎えられた。
「はい、こちら村長、何の用だ?今は戦闘準備中だぜ。」
村長宅には無数の獣達が生きて行儀良く鎮座していた。
この獣達は。サーモンはパチクリと瞳を瞬かせた。
「この動物達は一体…。」
「オレだ。生皮にオレの血肉と共に肉を詰め戻したんだよ。お陰で屈強なマッチョだったオレの体はこんなに華奢になっちまった。」
言いながら傍にいる生きたジャガーの頬を撫でるジャーキー。
そのジャーキーの体は前に見た村長のジャーキーと比べて遥かに小さな子供のような姿になっていた。
身につけている衣服もブカブカな様子で片側の肩から衣服がズレ落ちている。
「これは…」
ジャガーにピューマに虎に大熊までが囲炉裏を囲むように鎮座していた。それも中身が全てジャーキーらしく、それぞれの獣の目でサーモンの様子を窺っている。出入り口から外を見ると同じような動物達が村の中を徘徊して、ジャーキーはと言えばどれも小さな子供の姿になっていた。
「今んとこ1人4体の獣を動かすのが精一杯かな。増殖させたのは良いけど生皮に詰め込む肉が足りてねえ。」
「いや、あの、戦闘準備中なところ申し訳ないが、聞いてくれないか?オレにいい案がある。」
「何だ?」
「幼馴染の女が言っていたことなんだが、その…あちらの村の兵士達にお前の血肉を食わせるってのはどうだ?戦わずともあちらにいるお前を使えば出来るんじゃないのか?」
「……」
ジャーキーは目を瞬かせて少しすると「しばし待て」と言って耳元を押さえてブツブツと何かを囁き出した。
「サーモンの奴が、うん、そう言ってる。」
「「「良いじゃん良いじゃんそれ!やろうぜ!」」」
複数人のジャーキーが押し合うように村長の家に駆け込んできた。狭い入り口に3人がつっかえて、残りのジャーキーもゾロゾロと集まってきた。
「戦わなくて良いんだろ!?ならやるに決まってる!」
「でもあっちのオレ次第だろ?あっちのオレはむしろ兵士達に全部統治させたいと思ってるみてえだけど?」
「アイツ、自分は兵士どもとニャンニャンやってるだけで良いからって、勝手なことを…」
「オレらだって葡萄酒飲みてえよ!本場仕込みの美味いチーズが食いてえ!」
「てか兵士達撃退したらあの村の葡萄酒もチーズもオレ達のものじゃん。お前だけ独り占め良くないってやれよオラ!」
「え、嫌だ?何言ってんだテメー!裏切りのオレか!?」
「やっぱそうなるよな。オレがあっちの村にいても同じこと言う自信あるわ。」
「くっそっww団結できねえなオレら、ダメだこりゃ」
ハアっと一呼吸おいて、ジャーキー達が立ち尽くしているサーモンを見た。
「「「「ごめん無理」」」」
「あっちのオレが動かないことにはどうしようもねえわ。だからもっと、あっちのオレの目を引くような物がこちら側にもあれば良いんだけどなぁ。あっちのオレが兵士裏切ってでも欲しくなるようなモノ……ねえな、そんなもん。」
また溜め息を吐いてジャーキー達は項垂れた様子で戦闘準備の続きを始めた。
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