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古代のエイリアン  作者: 毒腹
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5...同一人物の集団




サーモンは大きな水樽から汲み上げた水をバサバサと被っていた。

部屋の居間では幼馴染の女が子供達とサイコロを転がして遊んでいる。それは村で人気のボードゲームらしかった。

幼い子供を膝に抱えてサイコロを転がしてはコマを動かし一喜一憂していた。

ジャーキーの村に来てから三日目になる。

サーモンは相変わらず何も選べずにいた。

水浴びをしてから少し夜風に当たろうと外に出るとジャーキーが待ち構えていた。

どの持ち場のジャーキーかはわからない。


「よう、タダ飯食い。少し付き合えよ。」


ジャーキーはそう言って夜の森へと親指を向けてサーモンを呼び出した。ジャーキーが向かったのは川に面した切り立った崖の上だった。川を挟んだ向こう岸に焚き火の明かりがチラホラと燃えている。サーモンの出身村が見える。

松明を持って村を眺めていると弓矢がサーモンの頬を掠めるように放たれて木に突き刺さった。

ジッと目を凝らして飛んできた方向を眺めると家屋の上から傭兵崩れがこちらを牽制するように手で何かジェスチャーをして怒りを表していた。

見たところ傭兵崩れは幼馴染の伴侶の男だった。


「ずっとあの調子だ。あちらの俺いわく、連れ戻すために支配地域を広げるかどうか話してるって話しだぜ。あちらの俺はそれに賛成だって言ってる。」


「困ったな。あの男は彼女に暴力を振るってる。」


「ならアイツだけ殺すか?」


「お前の村は占領されても?…彼らがお前の子供達を許容できるとは思えないが。」


占領時に非力な老人や病人は真っ先に殺されていた。

文化レベル的に占領時の傭兵崩れの者達はサーモンの村の者達より遥かに程度が低く余裕もなかった。


「別に構いはしないさ、俺は東の村に逃げるからな。」


「また村人の皮を剥いで中身を食うのか?」


「俺は食っちゃいない。食ったのはあっちだろ。」


ケタケタとジャーキーは笑う。

どう言う事情かは知らないがそうなったら奇形の子供達の置き去りも辞さないらしい。

解放軍かジャーキーか女達がどちらを選ぶかは知らないが傭兵崩れを選べば奇形の子供達に命はなかった。


「戦わないのか。彼らはお前の子供達だろう?」


「他者のピエロは奴らにこそ必要なものだろ。」


「奴らは殺すだろうな。慈善活動なんてクソの役にも立たないからな。自分達の奇形児には愛を向けろと強いても他者のそれには愛を向けない。」


「まあ、言っちゃ何だがお互い様だ。殺せば殺す、潰せば潰す。それに試したい。奇形のガキどもを奴らが食えば俺みたいに俺のガキは分裂すんのかって」


「傭兵崩れは食わないと思うぞ。食料は不足していない。」


どうやらジャーキーが複数居ると言う事態は、食われることに関係しているらしい。子供達にその能力が遺伝しているかどうかジャーキーにはわからない故に試したいのか。

ジャーキーの剥いだ生皮を見せてあげると誇らしげに言っていた子供達だ。サーモンは遺伝していないと思った。何故ならジャーキーはあの歳の頃から奇妙なことをちょくちょく行っていた。

聞いた話だとジャーキーは昔村が飢饉に見舞われた時に川流しにあったそうだ。だがジャーキーはワニの背に乗って帰ってきたと言う伝承があった。お陰でその後に生まれる子供達の川流しは取りやめになって、サーモンも無事に生きていた。


「お前は傭兵崩れの動向がわかるんだろう?なら、まだ放っておいても良いかもな。ただ、お前が連れてきた女達は返してやった方がいいな。それとも、あちらの村に引き取って貰うかだ。」


「何故?」


「女に飢えた村をわざわざ襲う馬鹿はいないだろう。奴らに俺達に相応しい女を献上して貰うとかな。」


「奴らが女を虐待したらどうするんだ?」


「少なくともお前よりはマシだと思うね。気に食わないからと唇を縫ったりするのはよくない。」


「女は毎日殴らないとキツネになるって聞いたぞ。」


「一生独身でいろ。お前はその方がいいよ。」


「まあ、俺の子供はもう十分いるしな。これだけ奇形が溢れ返ったら俺もその方がいい気がしている。」


「お前は聞き分けが良くて助かるよ。」


ジャーキーが複数で奇形の子供達の面倒を見なければならない事態になったが、まあ自業自得だろうとサーモンは思った。


「そうだな、ガキどもに俺の手足を食わせれば問題はないか。」


「ぶっ!?」


あっという間にジャーキーは解決策を捻り出した。

つまりあの子供達を食人村の奴らのように皮にすると言うことだ。

そうしてジャーキーは更に増えるつもりらしい。

頼もしいとは思うが、子供達の立場になると空恐ろしかった。

皮にされて椅子の背もたれに敷かれるのはどんな気分だろう。

お肉を詰め戻されると生き返るらしいので難を逃れるまではそうして生存していくのも良いと思うがどうだろう。

危機的状況の最中はジャーキーが身代わりを請け負うと言うことだ。気掛かりなのがジャーキーがちゃんと難を逃れた暁にはお肉を詰め戻してくれるかだ。

約束を反故にして蘇らせないと言うのも十分考えられた。

嫁さんや使用人がいないから仕方ないと言った具合で。



サーモンはその夜、悪夢を見た。

皮だけにされて泣いている子供達にジャーキーはバーカバーカと言って取り囲んで小躍りしている夢だった。

まだ余裕がないので、まだまだ余裕がないのでぇ〜と言っていた。

サーモンは驚きのあまり目を開けて寝ていた気がするのだが目を開けた。

サーモンはジャーキーを傭兵崩れ達の国に流し込みたいと思った。

とても健康で人を皮にする奴らだ。

だが思うに傭兵崩れ達の国は傭兵崩れ達を排出するほど人口過多で排出は受け入れさせても受け取りはしないように思えた。

そうなるとやはり合戦が必要だろうか。

交渉して受け取らないのなら殴り倒して受け取らせる他ない。





翌日、サーモンはジャーキー達に連れられて狩りに向かうことになった。物凄いチームプレイで次々に森の動物達を屠って行くジャーキーにサーモンは連れられて向かったのは良いが、特に手伝うことは何もなさそうだった。


「てか、傭兵の奴らマジで攻めてきたらどうすんだ?やっちまって良いのか?本国から仲間呼ばれない?」


「攻めて来られても手が出せないって悩みどころだよな。奴らはガラス細工のように繊細だから〜。お客様として慎重な扱いを〜。」


「ある意味それも差別!」


「まあ、欲しいもんがあれば正式に決闘で勝ち取りにくりゃ良いけど、おおむね先進国の奴らは王様立ててても決闘に使わない。」


「だからやっぱホラ、力じゃねえんじゃねーの。オレらの王様の使い方が間違ってる!?」


「てか非力な王様囲っても暴力統治やぶさかじゃねえって言うし、オレらみたいな繋がりってやっぱ大事なんじゃねえの?王様もオレらの肉の一部みてえなもんだし。」


「王様じゃなくて村長だろ。」


「村長役のオレらだな。」


ジャーキー達の生態は特殊すぎた。

ちなみにサーモンの国にいたジャーキーはもう1人の自分に日夜こっ酷く暴力を振るっていた。

暴力的な繋がりに思えたがアレは平和だったんだろうかとサーモンは気が遠くなった。


「んで、もし傭兵の奴らが王様立てて決闘やるって言い出したらどうすんだよ?王様代行とか言うパターンも十分考えられる。」


「倒してもお宝貰えない永遠の闘争!?何匹倒さなきゃなんねえんだ?」


「多分、奴らが抱えてる兵士の数だけ。」


「うわー命の無駄遣い!」


木々の上で雑談しながら狩りを行うジャーキー達を見上げて、サーモンは積み上げられた鹿や熊などを見て、もう充分なんじゃないのかと思う。

目に映る限りの森の動物達を弓で狩り続けている。


「お、おいジャーキー。もう良いだろ。これ以上は余るし生態系に問題が…!」


「孫の代、ひ孫の代まではまだまだだろ。」


おいおいおいおい、とサーモンは思う。

冗談で言っているんだよなと思う。

資源を自分達の子孫のためにどれだけ獲り貯めれば気が済むのかと。

やはりジャーキーは特殊だ。

オレ達とは違うとサーモンは痛いくらい痛感していた。


「とらなくても敵に回るしだったらとっといて正解だろ。」


「そーそー何でも取っとくのが良いだろ。なくなったら勝てそうな敵の国に取りに行きゃ良いし。」


「しゃーねえよ。オレら虐げられてるし暴食もやぶさかじゃない生理現象。」


「癒されねえよな。身の危険感じるし何もかも取っときたい。」


「何かめちゃくちゃ社会的、文化的思考じゃねえ?」


「オレらが見てきた敵の文化も取り込んでめっちゃ柔軟だろ?」


「奴らがそれを先進的と言うのでー!」


サーモンは彼らの愚痴混じりの雑談を聞いて、何となくジャーキーについて理解できてきた気がした。

彼らは何というかあらゆるものを軽蔑しているような気がした。

何をもリスペクトすることなく相手の行動を鏡のように真似て過剰に実行する性質の者達だった。

特にイケナイ部分を好んで真似ていた。

建前を飾り立てる僧侶の話しすら全く耳に入らない。

サーモンは余り関わると自爆を強いられ自暴自棄でスコップで自分の墓穴を掘らされるんじゃないかと恐怖を覚えるようになった。





...>>



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