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「ーーーつまり、お前がテレビから出てきた時点で俺はお前の呪いにかかっており、その呪いが解けるまではお前は俺から離れられない、と。」


「そ、そういう事ですぅ……」


女から詳細を聞き出した青年が淡々と事実確認をし、女は申し訳なさそうに項垂れた。


「現在、俺は呪われているという自覚はあまりないのだが、何か呪いの作用はあるのか?」


「特にないです……呪い殺す前に自我を取り戻した影響だと思います。」



「…ちなみに、呪いを解くにはどうすれば良い?」


「それは……呪いを完遂させるか、怨霊を祓うしかないです。」


「呪いの完遂とは、この場合何を指す?」


「た、対象の、その……死…ですかねぇ……」


「ふむ…俺が呪い殺されればそれまでという事か。当然だが却下だな。となるともう一方だが……」


「ひぃぃぃ……私、やっぱり成仏させられちゃうんですかぁ……」


怯えて啜り泣く女を、青年は無言で見つめていた。



「一つ、確認したい。お前に俺を殺す意思はあるか?」


「……ふぇ?」


涙を流す女が、青年の言葉に首を傾げた。

青年は眼鏡を押さえながら再度問いかける。


「お前に俺を殺す意思はあるか、と聞いたんだ。俺に危害を加えるつもりはあるのか?」


「な、ないですぅ!全然全くこれっぽっちも思ってないですぅ!!」


女は藁にも縋る思いで無害アピールをする。

青年は考え事をするように顎に手をやってしきりに頷いていた。


「ふむ、そうか。」


それから暫く静寂が部屋を満たす。

女は居心地が悪そうにソワソワしていた。




「……よし、わかった。」


「っ……は、はいぃ…」


青年が不意に口を開いた。

女がビクリと肩を震わせる。


「この件に関しては……保留とする。」


「………ほ、保留…?」


「ひとまずお前を祓うのはやめておこう。とりあえずの危険は無さそうだし……なかなか面白そうだ。」


青年が薄らと笑みを浮かべた。

それを見た女が目を丸くして唖然とする。


「だが、もし害意を察した時は……わかっているな?」


「は、はぃぃぃ……あ、あのあの…ほんとに…良いんですかぁ…?」


「む、何か文句でもあるのか?」


「いえいえいえ!そういう事じゃないんですぅ!!」


青年の不満げな顔に女が慌てて首を振った。



「ただ、てっきりどこかのお坊さんを呼ばれて祓われるのだとばかり思っていたのでぇ……」


「お前が危険な存在であれば勿論そうしていた。だがお前からは不穏なものを感じなかった。俺は人を見る目には自信がある……まぁ、お前を人と言って良いのかはわからんがな。」


青年は淡々と言葉を続ける。


「それに、怨霊やら呪いやらを目の当たりにする良い機会だ。俺はそういうものに興味がある。だから、とりあえずはお前という存在を許容しよう。」


「ふ、ふぇぇぇ……ありがとうごじゃいましゅぅぅ……」


安堵から号泣する女。

青年は暫しその様子を見詰める。

そして泣き止んだタイミングで口を開いた。




「ところで、お前が俺から離れられないというのはどういう感じなんだ?」


「一定の距離以上に離れると、強制的に私の体が貴方に引っ張られるような形になります。」


「一定の距離…とは?」


「そうですねぇ……このお家の中くらいでしたら大丈夫ですけど、それ以上となると難しい気がします。」


「ふむ……」


青年は家の中を見回す。

彼の家はそれなりの築年数が経っているであろう木造アパートの一室である。

1Kでキッチンは板張りだがその奥にある部屋は畳張りの10畳。



「遠くとも10m以上は離れられないと考えるべきか。そこらへんは後で詳しく測るとして……お前は姿を消したりはできないのか?」


「できません……でも、私の姿は普通の人には見えません。」


「む、そうなのか?」


「はい。呪いの対象である貴方か、何らかの力を持っている方しか見えないです。」


「ふむ…それは都合が良いな。」


「あ、あの……」


「ん、何だ?」


女が不安そうに瞳を揺らしながら青年を見詰める。



「私、何でもします…いっぱい頑張ります…だから……だから、どうか捨てないで下さい…」


女の言葉に、青年は僅かに息を飲んだ。

だがすぐに目を逸らして鼻を鳴らす。


「ふん…俺は簡単に自分の言葉を覆したりはしない。」


「っ……はいっ!」


女は青年と会って初めて、満面の笑みを浮かべた。




「……それで、俺はお前を何と呼べば良い?」


「えっとぉ……貴方のお好きなようにどうぞ。」


「なら怨霊。」


「そ、それは嫌ですぅ!!」


「好きなようにと言っただろう?」


「そうですけどぉ…ぅぅ……」


女の泣きそうな顔に、流石に悪いと思った青年がバツの悪そうな顔で息を零した。



「……サヤ、でどうだ?」


「…ふぇ?」


「お前の名前だ。嫌なら勝手に自分で決めろ。」


「あ、あっ…い、良いです!それが良いです!私は今日からサヤですぅ!!」


女が慌てて、しかし嬉しそうに何度も頷いた。

青年はそっぽを向いたまま鼻を鳴らした。


「…お前はやっぱりお前で十分だな。そもそも俺はあまり人の名を呼んだりしない。」


「えぇ!そんなぁ……サヤって呼んで下さいよぉ!」


「断る。」


「ふぇぇぇ………あっ、ところで貴方のお名前は何て言うんですか?」


残念そうに肩を落としていたサヤが、思い出したように問いかけた。



「俺は柳双雲(やなぎそううん)だ。柳と呼んでくれ。」


「柳さん……双雲って、珍しいお名前ですねぇ。」


「一応言っておくが本名だぞ。だがあまり好きではない。」


「そうなんですかぁ……これから宜しくお願いしますね、柳さん!」


「あぁ…よろしく。」


サヤの笑顔を何故か直視できない双雲は、ぶっきらぼうに頷いた。

来年も宜しくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[一言] お祓いと言えば坊主より神職じゃない?
[一言] 執筆お疲れ様でした!よいお正月を。 坊さんみたいな名前だな(笑)
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