2-5.勇者戦
前回のあらすじ
ゲイルは勇者一行のラキア・ケンネルスを撃破したのであった
「お前は殺す! 必ず俺が殺す!」
勇者の顔は怒りと悲しみに覆われていた。
その怒りに身を任せてゲイルに飛びかかろうとした時、白い修道服を着た女の子が勇者の前に出て手を横に伸ばし勇者を制止させようとしていた。
「勇者様、落ち着いて下さい。冷静でない状態で戦っても勝ち目はありません」
「・・・リア。でもあいつはラキアを・・・」
「わかっています。私も怒りに身を任せたいです。でも、そんな状態で戦って負けたりしたら、ラキアさんの死は無駄になってしまいます」
その言葉を聞いた勇者は肩を震わせ、力任せに手を握って怒りを抑えようとしていた。
リアは怒りに満ちたその手を両手で優しく握り自分の胸の前まで動かした。
その後勇者を強く見つめた。見つめるリアの目じりには涙が浮かんでいた。
勇者はリアの懸命に我慢する姿を見て勇者はその怒りを飲み込んだ。
「く・・・、わかった。今は冷静になるよ・・・」
「別れの挨拶は済んだか?」
「済んでないさ。別れの挨拶をする前にやる事があるからな」
「やる事? ・・・ああ、命乞いか」
「違う! お前を殺す事だ!」
勇者は振り向きゲイルに襲い掛かろうと剣を両手に持ったその時、ゲイルは腰のホルスターから拳銃を抜き勇者にその銃口を向けた。
勇者には俺の魔法は効かない。
だったらこの銃で一撃で決めにいくしかない。
「違うぞ勇者。お前のやる事は命乞いしかないんだ!」
拳銃の引き金を引いた。
すると大きな発砲音と共に弾が勇者の頭めがけて飛んで行った。
勇者は何かが来ると感じ避けようとしたがもう遅かった。
銃弾は勇者の頭にたどり着き、その勇者の頭を貫いた。
勇者は銃弾の進行方向上にあおむけで倒れた。
「気付いた時にはもう遅い。それが銃って奴なんだよ」
「勇者様!!」
リアは死んだ勇者を揺さぶりながら必死に語り掛けていた。
だが、そこにあるのは死体となった勇者の姿。
いくら語り掛けてもピクリとも動くことは無い。
「そこの女。お前は逃げてもいいぞ。今回受けた依頼は勇者を殺す事だからな」
「私に勇者を守れなかった汚名を背負って生きろというのですか」
「死ぬよりマシなはずだ。何より生きていれば汚名を雪ぐチャンスなんていくらでもある。消せない汚名など無いのだ」
「それでも、このままの生きるより戦って死んだほうがマシです」
「ならばここで死んでもらおう。死体の引き取り人には勇敢に戦って死んだと伝えよう」
手に持っていた拳銃の銃口をリアに向けた。
リアはその銃口に恐れることはなく堂々とゲイルの正面に立った。
「いいえ、伝えるのはあなたではありません。ここにいる勇者様です!」
リアは白く神々しい羽根をつけた杖を手に持ち、地面に両ひざをつけて神に祈りをささげるような姿勢を取っていた。
「リア・フェールネンドの名においてその大いなるお力のお貸しください。天神奇杖アルカンズフォース・根源憑依」
リアの杖から光があふれ出てきて、その光がリアを包み込んでいった。
光が周りにはじけると周囲には白く輝く羽が舞っていた。
そして中心には光の大きな白い翼を背中から生やしたリアの姿があった。
リアは勇者に向けて手をかざした。
すると勇者の周りには光の魔法陣が出来上がり、その後ろには光の大きな十字架が立っていた。
「蘇生魔法」
リアが魔法名を言うと周囲に落ちていた翼が舞い上がり、魔法陣は光輝いた。俺はリアのその可憐な姿に見とれてしまい判断が遅れてしまった。
「まさか、勇者を生き返らせるつもりか! そうはさせんぞ! 火矢」
ゲイルの放った魔法は光の壁に飲み込まれ魔法が消失した。
「なんだと・・・魔法が届かない。ならこれならどうだ」
刻一刻と迫る勇者が蘇生する瞬間にゲイルは焦り、効くかどうかわからない拳銃でリアに狙いを定めて撃ってしまった。
撃った弾は光の壁に飲み込まれ勢いを失い地面に落下した。
「効かない・・・だと」
時間切れを宣告するかのように光の大きな十字架が消えていき、リアは翼を失い勇者の横に横たわっていた。
「勇者様・・・。後は頼みました・・・」
リアの息が途絶えると同時に勇者は起き上がった。
勇者は自分の体を触って不思議そうな顔をしていた。
「僕は死んだはず。・・・なんで?」
勇者は周りを見渡すとその隣には横たわったリアの姿があった。
勇者はリアの体を揺らしたり名前を呼んだりするも反応は無かった。
「リア! 目を覚ましてくれ。なんで・・・。まさか・・・蘇生魔法を使ったのか」
「自らの命を犠牲にして蘇生する。それが人族の限界なんだな」
「リア・・・」
勇者は仲間の死に落ち込み、生き返ったことすら後悔していた。
「仲間を全て失って戦意喪失か。仲間を失う覚悟も無く戦場に来るなんて滑稽だな」
ゲイルの言葉に勇者は反応を見せず、膝をついたまま死んだリアを見続けていた。
「・・・まあ、いい。お前はそのまま何も考えずに死ね! 仲間の死は無駄だったな」