2-4.勇者戦
前回のあらすじ
魔族と人族は実は裏で繋がっていた事実を知った。
「その通りだよ。どうだ? 絶望したか?」
俺はアンダーとの会話を思い出していた。
その会話を思い出していても違和感は無い。
本当に戦いを望んでいるようには思えない。
そして勇者が言っていることが本当だという確証は無い。
そう考えていると俺は口から声が出てしまうほどに笑っていた。
「何がおかしいんだよ! それとも絶望のあまり理性が飛んじまったのか?」
「違うぞ、勇者。お前は何か勘違いしているんじゃないのか。まさか、俺が魔族がかわいそうだから救うために戦っているとでも思っているのか?」
何を俺は勘違いしていたんだ。
あの女かなり感情操作が上手いようだな。
危うく目的を忘れるところだった。
「それ以外に戦う理由があるのか?」
勇者は思っていた反応と違うため、顔から冷や汗が垂れる。
そんな問いをした勇者にはさっきまでの優越感は無かった。
「俺は傭兵だからな。理由なんか無くても依頼があれば殺す。ただそれだけだ」
ゲイルの顔は吹っ切れたような笑みをしていた。
まるでこれからの戦いを楽しもうとしているかのように。
「だったらその薄っぺらい理由でこの僕を殺してみろよ!」
勇者がゲイルに向かって行こうとした時にラキアが勇者の前に出て勇者を制止した。
「勇者様。この私に考えがありますわ。ここは私に任せていただけないかしら?」
ラキアは胸に手を当て、自信満々に勇者に言った。
「勝算はあるのかラキア」
「もちろんですわ。もうすでに魔王の弱点が一つわかりましたの」
「さすがラキア。天才魔導士の名は伊達じゃないな」
「ありがとうございます。そのご期待に必ず答えてみせますわ」
ラキアはゆっくり歩き、ゲイルの前に立った。
「弱点だと? そんなもの見せた覚えはないのだがな」
「それは、この攻撃を受けてみればわかる事ですわ」
ラキアは空中に高く飛び手をゲイルに向けた。
空中に石ころが出現し、石ころがつなぎ合わさってラキアの五倍ぐらい大きな魔法陣がラキアの目の前に出来上がった。
「天地創造より大地を照らす光よ、その姿を現し暗き闇夜に一筋の希望の光を紡ぎ出せ」
ラキアの詠唱後、魔法陣の前に大きな灼熱の玉が現れた。
その姿はまるで太陽のようだった。
その球体から放たれる熱によって室内は砂漠のような灼熱の温度になっていた。
「この魔法は天に浮かぶ太陽を模して作られたものですわ。温度は本物には敵いませんが、触れるものは全て融解させる程の威力。それがあれば十分ですわ」
「その魔法の使い方間違ってるんじゃないのか?」
「確かにこの魔法は、曇りや雨と言った天気を晴れに変える魔法。でも使い方次第で攻撃魔法にも変わるのですわ」
魔法の応用ということか。
攻撃用の魔法でなくても用途に応じて使えば矛にも盾にもなるということか。
俺も学ばなくてはいけないなその発想に。
「あなたに返せるかしらこの魔法。太陽球」
ラキアが魔法名を言うと灼熱の弾がゲイルに向かって飛んできた。
速度はそこまで無いもののその大きさによって逃げ道が無く、正面から当たるしかなかった。
「返せるさ。旋風」
ゲイルは緑色の魔法帯を百個重ねた。
その重ねた魔法帯からは強烈な風出ていて、風が竜巻のように渦巻いていた。
その竜巻はラキアの出した太陽球にあたり太陽球の進行を防いでいた。
「やっぱりそうなのね」
「何がやっぱりなんだよ」
「あなた、強力な魔法を使えないのでしょ?」
さすがにショボい魔法しか出していないと気づかれるか。
もっと派手な魔法があれば誤魔化せたのだが如何せん初級魔法。
そんな派手な魔法は隅々まで探しても見当たらなかった。
「それがどうした。こんな弱い魔法ではその魔法は止められないとでも言いたいのか?」
「その通りですわ。もう勝ったも同然。最後に遺言だけは聞いて差し上げますわ」
ラキアは余裕の笑みを浮かべていた。
その笑みを見たゲイルもまた笑っていた。
その笑みが崩れた瞬間を想像するだけで顔がにやけてしまう。
「お前の魔法を跳ね返した後に言ってやるよ」
「それが最後の言葉ですのね。いいでしょうもう終わらせてあげますわよ」
ラキアが手を再び前に出し、石の魔法陣に魔力を送った。
そうすると石の魔法陣は赤く輝き、灼熱の球体の向かう力が強くなりゲイルの竜巻を飲み込もうとしていた。
だが、ゲイルも同じく魔法帯に魔力を大量に送り込んでいた。
ゲイルの放つ竜巻の渦が大きくなり灼熱の球体を押し返そうとしていた。
「・・・なぜそんな魔法で私の魔法と互角に張り合えるのですか!」
ラキアは自らが放つ最大魔法があんなショボい魔法と互角に張り合っていることに焦った。
魔法単体としての性能は天と地の差、逆立ちしても勝てないぐらいの差のはずなのにこれが互角に張り合っている。
あり得ることではない。
だが、あり得ないことを現実にしているのが規格外の魔王と呼ばれる者。
弱点に見える弱い魔法がその魔王としてのセンスと力によって弱点としての意味を成していない。
その事にラキアは今更気づいた。
「知らないなら教えてやるよ。風魔法は魔力を流し続ける事で継続的に魔法を放ち続けることができる。そして一度に送る魔力量を多くすればその威力も上がっていくんだ」
「ですがその理屈なら、あなたの魔力消費は相当なはずですわ。そう長くは持たないのではなくって?」
「俺は魔王なんだ。そして魔王とは魔族の中で一番魔力量が多いものがなるらしい。この意味がお前にはわかるか?」
「・・・それがどうしたのですか?」
「魔力量はお前にも想像がつかないぐらい多いってことだ。つまりこの程度で魔力が尽きる事はない!」
ゲイルは魔法帯に込める魔力量を上げた。
そうすると魔法帯から出ていた竜巻が大きくなりラキアの太陽球を押し返し始めた。
「そんな・・・急に押し返す力が強くなって・・・」
ラキアの出した太陽球は押し返すことが出来ずラキアを飲み込んだ。
その後、太陽球は壁にあたり大きな音を立てて爆発した。
「ラキア!」
爆発による煙幕が晴れると勇者がラキアの居た場所に行きラキアを探すもそこにラキアの姿は無かった。自らの魔法に飲まれて死んでしまったのだ。