28ー2.オーネスト領の闘技場
上空からグレイに向かって普段の倍ぐらいの大きさの炎の矢が飛んで行った。
その矢が飛んでいくスピードも普段の倍ぐらい早かった。
「上か! だがこの程度なら」
グレイは俺が作り出した炎の矢を少し苦労しながら弾いた。
「弾くのは容易じゃ」
弾かれた・・・だが、ここまでは計算通り。
「魔力の込める一瞬の隙さえあればそれでいいんだ。本命はこっちだ」
俺の手元に作り出した炎の矢は人型サイズぐらい大きく眩く光り輝いていた。
「さあこれを弾けるものなら弾いてみろよ爺さん! 魔力最大・火矢」
俺の手元から矢が発射した瞬間、目にも止まらぬスピードでグレイの元まで飛んで行った。
「これは・・・!?」
グレイに直撃した瞬間轟音と共に砂煙が吹きあがった。
「これは完全に決まったぁ!! これではさすがの軍神でも無傷ではいられないはずです!」
誰もがこれは決まったと思っていた。
だが、俺の矢はグレイには届いていなかった。
「やってしまったのお・・・」
グレイの目の前に居る大盾を持った一人の戦士によって俺の火矢は防がれていた。
その男は炎のように赤い目とオレンジ色の頭髪でスポーツ刈りの髪型が特徴的だった。
「これは・・・!? 受け止められている! 防いでいるのは六国大戦で活躍した英雄で軍神グレイ・オーネストの片腕の一人、破城盾のジェン・ゼルクネルだ!」
まだ俺の火矢は生きている。
その盾を貫こうと盾に向かって勢いを落とすことなく突き進んで行っていた。
だが、その炎の矢は突然、隣に居た女によって消された。
その女はパープルカラーの髪色でショートカットな美人なお姉さんだった。
「なかなかの魔力だけど継ぎ目がまるわかりね」
「それにもう一人も六国大戦で活躍した英雄で軍神グレイ・オーネストの片腕の一人、魔極のプラム・エンゼンだ! ここに過去の英雄が居るという事は軍神が英霊剣心デブラスネーヴァの根源憑依を使ったという事に他ならない! ・・・つまり軍神の本気が見れるという事だ!!」
「グレイ。敵はどれだ? 目の前に居るやつか?」
「敵はおらん」
ジェンがグレイの胸ぐらをつかんで睨みつけた。
「・・・どういうことだ! ・・・まさかまた茶番の為に呼んだというのか!? あれほどするなと注意しただろ! そんなに耄碌したかクソ爺!」
「まあ落ち着いてくれんかジェン。わしも驚いているんじゃよ。まさか出さないと死ぬと思ったのは久しぶりじゃからの」
ジェンはグレイの胸ぐらを掴んでいた手を離し、俺を興味津々で見てきた。
「ほお。あいつはそんなに強いのか? だったら詫びとして俺に戦わせろ!」
「ダメじゃよ。ジェンが戦ったらこの闘技場事吹き飛ばすじゃろう?」
「そうよ。脳筋に任せたら美しさの欠片も無い戦いになるじゃない。というわけで消去法で私が戦うわ」
「プラム! 抜け駆けする気か!」
「黙りなさい脳筋! 戦いには華というものが必要なのよ」
「うるさい! 戦いに華なんていらん! そこに闘志があれば十分だ!」
ジェンとプラムは互いに睨み合い、殺し合う一歩手前の所まで来ていた。
そんな時、グレイが間に入って二人をなだめていた。
「二人とも落ち着かんか・・・いいか、もう誰も戦わんでいいじゃ」
「「なんでだ(なんでよ)!」」
「わしは負けたんじゃ。あの若者と戦う前に英霊剣心デブラスネーヴァの根源憑依は使わんと言ったからの。ルール違反で負けじゃ」
「なんだと・・・!? それじゃあ」
「私達出損じゃないの!?」
「すまん! 今度呼ぶときはもっと暴れられる場所を用意するから今回は勘弁してくれんかのお」
グレイは二人に頭を下げて誠心誠意謝った。
それを見た二人はため息を吐いた。
「良いだろう。ただし約束を違えたらお前と戦いあうと思っておけ」
「仕方ないわね。ここはおとなしく引いてあげるわ」
そう言って二人は消えて行った。
出たり消えたりどういう仕組みなんだ?
「というわけでおぬしの勝ちじゃ」
グレイは不完全燃焼のような表情をしていた。
自分のミスで戦いが終わってしまったのだ。
本当はもっと力一杯戦いたかったのだろうな。
だが、それは俺も同じだ。
「おいおい爺さん・・・何を言ってんだ。戦いは始まったばかりだろ? それともこんな結末がお望みなのか?」
俺の会話を聞いた後グレイは一瞬不思議そうな顔をしたが、その後待っていたと言わんばかりのいい顔でニヤリと笑った。
「フフフッハッハッハ。・・・いいんじゃな? もう取り消せんぞ!」
「俺はあんたに勝って証明してやるよ! 誰が一番リーネの隣にふさわしいかをな!」
グレイは俺に向かって突っ込んできて俺に剣で斬りかかってきた。
俺は即座に俺自身を囲うように魔法陣を作った。
「もうあんたの攻撃は俺に届くことは無い。魔力最大・魔法障壁」
グレイの剣は俺の創り出した透明の魔法障壁によって弾かれた。
「・・・硬い!」
「どうだ爺さん。俺の魔力最大の魔法障壁は貫けないだろ!」
グレイは俺の創り出した魔法障壁に対して一カ所を集中して狙い続けた。
俺はその間に手元に魔法陣を作って魔力を送り続けていた。
俺は完全に勝ったと思っていた。
だが、グレイが攻撃を繰り返し受けた魔法障壁にひびが入り始めていた。
「過信は良くないぞ!」
「ひびが入るだと・・・!? だが爺さんが俺の魔法障壁を割る前にこの魔法を完成させれば俺の勝ちだ!」
「撃たせはせんぞ! わしのほうが先に割る!」
グレイは宣言通り俺が作り出した魔法障壁を破壊した。
魔法障壁はガラスが割れるような音を出しながら壊れていた。
そしてグレイの渾身の一撃を入れるために剣を振り上げた瞬間・・・俺の魔法が完成した。
「これで終わりだ! 魔力最大・火矢」
この至近距離の魔法を避けることが出来ずグレイはまともに受けてしまう。
そしてその魔法によってモニターに映っているグレイのシールド総量がものすごい勢いで減っていった。
「まだじゃあ!」
グレイはなんと吹き飛ばされながらも自らの得物を俺に向かって投げてきていた。
そんな予想がつかない攻撃を俺は避ける事が出来ずそのまま食らい吹き飛ばされた。
そしてモニターに映っていたシールド総量は二人とも0になっていた。
「・・・これは・・・両者シールドブレイクゥ! 判定はどうなるんでしょうか?」
司会が無線を使って確認していた中、俺達はその場で立ち上がった。
「両者立ち上がった! えー判定を確認しておりますので少々お待ちださい」
俺達は拳を固めファイティングポーズを取った。
「判定なんて・・・」
「「関係ない(んじゃ)!」」
そして俺達は殴り合うために互いに距離を詰めるために走り込んだ。
「ちょ、ちょっと待ってください! ルールわかってます!?」
司会の声は全く俺達には聞こえていなかった。
戦いによるアドレナリンが爆発し、周りは全く見えなくなっていた。
「「おおおおお!」」
俺達が互いに殴り合う距離に入った瞬間、一人の老婆が空中から俺達の間に入ってきた。
そして俺達の拳を両手で受け流した。
俺はそのまま受け流されたが、グレイは受け流された途中で腹に膝蹴りを食らった後そのまま空中コンボを決められ頭から地面に向かって落ちて倒れた。
そしてその老婆はグレイの胸ぐらをつかんで睨みつけていた。
「あんた! 何やってんだい! ルールがあってこその闘技場は輝くって言ったのを忘れたのかい! ルールを作った人間が破ったら示しがつかないじゃないの!」
「ア、アリシア・・・。だ、だが、これは男同士の戦いじゃ。ルールなんてものは・・・」
「言い訳無用!」
グレイはアリシアに胸ぐらをつかまれたまま場外に出て行ってしまった。
「えー、軍神は最も怒らせてはいけない人を怒らせてしまった為連れて行かれました。そして誠に不本意なのですが両者ルール無視により失格。よって勝者は無しです・・・」
「「「・・・」」」
さっきまで盛り上がっていた会場は一気に静まり返っていた。
というよりは呆れかえっていたようだった。
「ある意味伝説になったな」
VIP席で見ていたリーネはあきれすぎて頭を抱えていた。
「あのバカは・・・」
そうして俺とグレイの戦いは終わった。
人伝で聞いた話だが俺は合格らしい。
闘技場の結果はあれだったが、グレイを本気にさせるほどの強さを示せたからだそうだ。