28ー1.オーネスト領の闘技場
「さあ皆さま大変お待たせいたしました! これよりエキシビションマッチを開催致します!」
司会がそう言うと観客は最高潮に盛り上がっていた。
「「「おおおおお!」」」
俺はもっと人が少なく、見ているのはリーネ達ぐらいだと思っていただけにこの会場の人数に戸惑いを隠せないでいた。
「な・・・なんだこれは・・・!? お、おい爺さん! ・・・行っちまったよ」
グレイは俺を置いてどこかに行ってしまった。
そして俺の元に黒服の案内人っぽい人が来た。
「ゲイル様。こちらです」
「あ、ああ」
俺は案内人の指示に従って別の場所に移動した。
「今宵皆様は伝説を目撃することが出来るでしょう。なぜならこの戦いが闘技場始まって以来の一番の熱い試合になるからです!」
そして会場が暗くなった。
「選手の準備が整ったようです。ではまずはこの方からお呼びしましょう! オーネスト領の領主! 最強無敗の男・・・軍神・グレイ・オーネスト!」
グレイが現れた場所にスポットライトが当てられ、グレイは片手を上げた。
「「「うおおおおお!」」」
グレイは円形状の舞台に向かって歩き出した。
「それに対するはルーエンブル領奪還作戦において最も戦果を上げた男・・・魔王・ゲイル・リバスター!」
グレイの反対側に立っていた俺にスポットライトが当てられた。
俺は何もせずそのまま円形状の舞台に向かって歩き出した。
「「「おおおおお!」」」
そして両者が円形状の舞台にそろった。
俺はグレイにこの状況を教えてくれないだろうと思いながら聞いた。
「随分用意が良いみたいだな。誰の思惑か聞いたら答えてくれるのか?」
「それはわしを倒してから聞く事じゃな」
俺とグレイは火花を散らしそうなほど睨みあっていた。
そんな時に司会がマイクに向かって話し始めた。
「対戦に入る前に再度ルールをご説明致します。それぞれにはシールドと呼ばれる魔法障壁が付与されます。そしてそのシールド残量はこの闘技場にあるモニターに表示されております。このシールド残量をゼロにすることが出来れば勝利することが出来ます。ただ注意事項としてシールド残量がゼロなのにもかかわらず攻撃を続行した場合は負けになりますので注意してください」
闘技場の周りにある十数個のモニターに俺とグレイの顔とそれぞれに付与されているシールド総量3000が映し出されていた。
「互いのシールド付与が終わったようです。観客の皆様準備はよろしいでしょうか?」
「「「おおおおお!!!」」」
「・・・よろしいようですね。この神対悪魔の神話の戦いに瞬きは厳禁! その目に焼き付けて帰って頂きたく思います。それでは・・・試合開始!」
試合開始の合図の後、先に動いたのは俺だ。
「先にこちらから行かせてもらうぞ」
俺はグレイの上空に百の赤い魔法陣を作り出した。
「数でこのわしに押し勝てるとでも思っておるのか?」
「受け止めきられたら考えるさ。火矢」
グレイに向かって百の魔法陣から炎の矢が飛んで行った。
「軍神大ピンチです! この数の暴力はさすがにやばいか?」
グレイに向かって行った炎の矢は全て剣によって弾き落された。
同時に出た百の矢を簡単に落とは・・・結果はわかっていたとは言え、目の前でやられると力の差を感じるな。
「こ、これは・・・なんと無傷です! シールド値は全く減っておりません! あの数の炎の矢をすべて叩き落したというのか!?」
「この程度か・・・やはりリーネ様の隣に立つ資格などないぞ!」
グレイはその剣で俺に向かって攻撃を仕掛けてきた。
俺はその次々と繰り出してくる剣を感覚だけでギリギリ避けていた。
微妙に詰んでないか?
「軍神の猛攻にもはや魔王に打つ手なしか!?」
「避けるだけでは何も変わらんぞ! ・・・それにもう見切った!」
グレイは俺が避ける瞬間にフェイントを入れ、別方向から攻撃してきた。
俺はそれを避けきれず直撃を食らってしまった。
「・・・っ!」
グレイの直撃を受け舞台の際まで吹き飛ばされた。
「これは軍神の重い一撃が魔王に決まった!!! なんと一撃でシールド容量が2000も減ってしまったぞ! これはピンチか?」
「おぬしの力はその程度か?」
俺は倒れた体を時間をかけてゆっくりと力一杯踏ん張りながら起き上がるように見せながら起き上がった。
上空に一つの魔法陣をひっそりと作りながら。
「なあ爺さん。俺はこれまでの魔法について考えていたんだ。魔法って言うのは魔力の込める量によって威力やその強度まで変わっちまう」
「それがどうしたんじゃ?」
「これまで少しの魔力しか込めずに大量に展開するだけの魔法に魔力をもっと込めるとどうなるのかなって思ってさ。火矢」
上空からグレイに向かって普段の倍ぐらいの大きさの炎の矢が飛んで行った。
その矢が飛んでいくスピードも普段の倍ぐらい早かった。
「上か! だがこの程度なら」
グレイは俺が作り出した炎の矢を少し苦労しながら弾いた。
「弾くのは容易じゃ」
弾かれた・・・だが、ここまでは計算通り。