2-3.勇者戦
前回のあらすじ
勇者一行にゲイルの居場所がバレた
「見せてやるよ。俺がこの世界に来て学んだ魔法をな!」
ゲイルが手を前に出すと手の前に赤い光を放つ文字の書かれている帯が手の周りを円を描くように回りながら現れた。
そして帯の始まりと終わりがくっつき魔法陣が完成した。
「火矢!」
ゲイルの掛け声の後、魔法陣から炎の矢が出現し勇者に向かって真っすぐ高速で飛んで行った。
だが、勇者に当たる寸前で勇者が剣で魔法を撃ち落とした。
「何だそのショボい攻撃! 舐めているのか!」
「・・・効かない。やはり単体の攻撃力は弱すぎるのか」
やはり初級魔法程度では勇者にかすりもしないか。
わかってはいたがいざ目の前で努力の結晶を簡単に撃ち落とされるとへこむな。
だが、俺にはとっておきの魔法もある。
「これが魔法の書で学んだ基礎の力だ!」
ゲイルが手を前に再び出した。
すると先ほどと同じ魔法陣が手の前に出てきた。
「また同じショボい魔法。そんな魔法じゃあこの僕は倒せない・・・」
勇者はゲイルの創り出した魔法陣に驚き言葉を最後まで言うことが出来なかった。
「な、なにこの魔法陣の数。ありえないわ・・・」
勇者一行を取り囲むように千個の魔法陣が現れ始める。
その魔法陣の数に絶望しラキアは膝から崩れ落ち、白い修道服を着た女の子は体を震わせ持っている杖を強く握って恐怖に耐えていた。
「さすが魔王ね。常識はずれもいいところじゃない」
「常識はずれだと。・・・違うなお前達が魔族の常識を知らないだけだ」
「あなたこそ魔法に対する常識が欠けているのではありませんか?」
「なんだと?」
「本来魔法は一詠唱につき一魔法陣。これが魔法における絶対の原則ですわ」
「でも詠唱は省けるだろ?」
「ええ、詠唱は魔力量を込めるスピードと細い裁縫針に糸を通すような慎重さと正確さあれば省略が可能です。ですが原則は変わりません。だからこの状況はおかしいのですわ」
「いいや、なにもおかしくないさ」
ゲイルは不敵に笑った。
ゲイルの小馬鹿にするような態度に怒りラキアは大声を出した。
「何ですって!」
「俺の発動している魔法でも一詠唱につき一魔法陣の原則には法っている。魔法使いのあんたに聞くがよ、詠唱省略魔法の発動のタイミングはいつだ?」
「・・・魔法名を言った瞬間よ」
「その通りだ。だがこうも解釈できないか? 魔法名を言うまでその魔法陣は発動しないと」
「それがどうしたのよ・・・まさか」
「そう、そのまさかだ。魔法陣を待機させて別の魔法陣を描くことができる。だから複数の魔法を発動することができる」
「そんなこと、知らないわ・・・。そんな知識が出回っているなら魔法技術は、もっと発展しているはずですわ」
「この知識は魔界からの物だから知らなくて当然だ。・・・さて、時間稼ぎはこの辺にして戦いを再開しようか」
話している間に展開していた千個の魔法陣の準備が完了した。
これをまともに食らえば初級魔法といえど肉片も残ることは無いだろう。
ちょっと早いがこの仕事が終わった後の事でも考えておこう。
「くるぞ! みんな僕の周りに集まってくれ」
「火矢」
降り注ぐ千の矢の雨は勇者一行を飲み込んでいった。
勇者一行の周りには矢が地面にもあたった影響か煙が舞い姿を確認することが出来なかった。
そしてしばらくして煙が晴れていった。
「さすがにこの面制圧力。肉片一つ残ってないだ・・・ろ・・・」
煙が晴れるとそこには無傷の勇者一行の姿があった。
「ありえない! あの数の魔法だぞ。一発も当たってないことなどないはずだ!」
「魔法を僕に撃ってみればわかるさ」
勇者のあの余裕の表情・・・。
何かカラクリがあるのだろう。
見せてくれるのなら乗ってやる。
ゲイルは再び同じ魔法を百個展開した。
さっきと同じ数ではないのは多すぎると煙が立ってカラクリが見えなくなるからだ。
「ならば望み通り塵に変えてやる。火矢」
勇者は俺の魔法に切りかかった。
俺の魔法が勇者の剣にあたると魔法は形状を保てず塵に変わっていった。
そして俺が撃った百の魔法全てを塵に変えられた。
俺のほうが塵に変えられたということか。
「魔法を撃ち落とした・・・。いや消しているのか」
「その通りだ。この断罪剣ヴァルカンザードに触れる魔法は全て霧散し魔法としての意味を失う。つまり魔王を殺す武器なのさ」
「そんなバカな! そんな都合のいい武器があるわけないだろ!」
「だったら目の前で起きた事はどう説明するんだ?」
「・・・っ。そもそも、そんな武器があればアンダーから報告があるはずだろ」
「知っててわざと報告しなかったとしたら?」
「どう言う事だ!」
「おいおい、ここまで言ってもわからないのか? それとも、わかっているが認めたくないだけか?」
勇者は優越感に浸っていた。
ここまで言えば戦意を喪失すると思っていたからだ。
戦意を喪失すれば後はただの人形が出来上がる。
その人形をなぶるのがとても楽しみでたまらない。
そんな感情が勇者を駆け巡っていた。
ここまで言われれば馬鹿でもわかる。
だが、それを認めるにはアンダーのあの表情、感情がすべて嘘ということになる。
それがどうしても信じられない。
「人族と魔族がグルだって言いたいのか」