27ー1.グレイからの挑戦
俺とハユは城の廊下を歩くグレイの後ろに付いて行っていた。
城の中は綺麗な石造りで作りもしっかりしていた。
どんな敵の攻撃が来ても頑丈に耐え抜きそうな感じがした。
ボケーっとしながらと付いて行っていると、グレイが俺に話しかけてきた。
「ゲイル殿はこのオーネスト領を見てどう思うかの?」
俺は外に居た時にパッと見たオーネスト領の景色を思い出した。
「どうって・・・ルーエンブル領と違って貧富の差はあんまりなさそうに見えるな。木造の建物とか全然ないし」
「そうじゃろう。統治に関してはクリスタリア王国時代と変わらんように頑張っておるんじゃ」
グレイは嬉しそうに語っていた。
「俺はルーエンブル領しか知らないんだが、ここまで待遇の差があれば他の領からの移民なんか多いんじゃないのか?」
「それがそうでもないんじゃよ。むしろ外ではオーネスト領だけは住みたくないって言われとるぐらいじゃ」
こんなに住みやすそうなのに?
なんで?
と思ったがこの待遇の差が気に入らない連中がやりそうな事が思い浮かんだ。
「情報操作か・・・一体どんな噂が流れてるんだよ・・・」
「そうじゃなあ。一番ひどい噂だと軍神の怒りを買って村一つが滅びたとかじゃったのお」
その噂はヤバすぎだろ。
「そんなことを繰り返してたら領民が居なくなって運営できなくなるだろ・・・。普通に考えたらわかるんじゃないのか?」
「そんなことを考えていけるほど今の国民に余裕は無いという事じゃと思っておる」
「だったらその噂を否定してやればいいだろ。そうすれば余裕のない人々を救えるだろ?」
「それをしてしまってはわしのダリウス王国での立場が悪くなってしまうじゃろ? そうなってしまえばクリスタリア王の作戦もパーになってしまう」
人を救うのは二の次であくまでクリスタリア王の作戦が優先という事か。
最終的に救えるからという考えもありそうだな・・・そう考えるとこの噂で一番得をしているのは誰なんだろうな?
「まさかその噂は爺さん・・・あんたが流した物なのか?」
「さあのお~。多少は流したかもしれんが噂に尾ひれがついてしまっただけかもしれんのお」
グレイはボケた爺のようにバカっぽく振舞った。
脳ある鷹は爪を隠すと聞いた事があるがまさにこの事だろうな。
軍神という名は力だけではないという事か。
「・・・そういう事にしといておくさ」
「ところでゲイル殿」
「なんだ爺さん」
「リーネ様の右腕をやめる気は無いかの?」
俺はその言葉に反応し足を止めた。そしてハユやグレイも足を止めた。
「・・・どういう意味だ?」
グレイは振り返って俺の目を見ながら話してきた。
「そのままの意味じゃよ。お前さんにはリーネ様の隣にいるだけの実力がない。だから早死にせんように忠告をしてやっているだけじゃよ」
「ルーエンブル領では割と活躍していたと思っていたんだがな」
「そうかのお? 魔法を消すのは断罪剣ヴァルカンザードを持っていれば誰でも出来るし、異世界の武器だって偶然ゲイル殿が使える武器が落ちてきただけじゃろ?」
グレイの言葉は俺の胸に突き刺さった。グレイの話には一理ある。
「・・・っ! だ、だが俺が居たから領主城に簡単に潜入できたんだろ!」
「それはゲイル殿が居なかったらできなかった事かのお?」
「・・・」
俺はグレイの言葉に反論が出来なかった。
あの時リーネは別案もあると言っていた。
あの場には俺が居る必要はなかったとそう感じざるおえなかった。
「それにゲイル殿の魔法は一切領主に効いていなかったではないか。体は再生するから丈夫のようじゃが、そんな物を頼りにして戦っていては真に勝つことは不可能じゃ。むしろ足を引っ張りかねんじゃろ」
グレイの言葉に反論できなかった。
悔しさのあまり両手を強く握りしめていると俺とグレイの間にハユが入ってきた。
「師匠を悪く言わないでください!」
「ハユ・・・」
「これは悪かったのおハユ殿。じゃがこれは老い先短い老人からの忠告なんじゃ。ハユ殿もゲイル殿が死んだら嫌じゃろ?」
「確かに師匠が死ぬのは嫌です! ・・・でも、もっと嫌なのは尊敬した師匠が弱いって言われることです!」
ハユは珍しくグレイに対して敵意をむき出しにしていた。
「ハユ殿、戦争とは悲しいことに実力主義の世界なんじゃ。実力の無い奴から早くに死んでいく。そんな姿をわしは何度も見てきた。だからこそ引けと言っておるんじゃ」
グレイはハユに対して優しく接していた。
自らの意志を押し付けるのではなく理論的に話をしていた。
その姿はまるで駄々をこねる子供をあやしているようだった。
だが、そんな余裕なグレイにハユは負けじと声を大にして言った。
「私は師匠の実力を直接見たことはありません。でも師匠は魔王なんです。あなたの・・・人が決めた原理なんて師匠に当てはまりません!」
ハユはそう言った後、俺の方に振り向いて俺の目を見ながら言ってきた。
「・・・それに師匠! いつまで黙っているんですか! いつものように大胆不敵に笑って関係ねえ! って言ってくださいよ!」
ハユは目の端に涙を付けながら俺の目を見つめた。
誰の為ではない俺の為に泣いてくれているのだ。
ここまでされてなよなよしているほど俺は弱くは無い。
・・・全く、弟子に励まされるなんて師匠失格だな。
「ハッハハハ。・・・おいおいハユ。俺がいつ大胆不敵に笑ってたよ・・・そんなキャラじゃねえよ。それにそういうのはリーネの担当だ・・・」
「し、ししょう・・・」
ハユは不安そうに俺を見つめた。
俺はそんなハユを抱きしめて小さな声でお礼を言った。
そして俺はハユを放してグレイの目を見ながら言ってやった。
「だが、今日ばっかりはそんなキャラも有りだ!! この魔王ゲイル・リバスターに人が作った理論なんて関係ねえ!」