24-1.ルーエンブル領主バード・ルーエンブル戦
前回のあらすじ
グレイ・オーネストがルーエンブル領に居たことは実はクリスタリア王の作戦の一部だった
そして影に潜めていたゲイル(女装)が今動き出す
「この大量の魔法陣は!? ただの変態だと思ったが違うようだな」
「俺は変態じゃねえ! 火矢」
千の魔法陣から炎を纏った矢が一斉にバード・ルーエンブルに襲い掛かった。
・・・が、その瞬間バード・ルーエンブルの周りが光に包まれた。
「俺の力を見せてやろう。竜神剣ドラゴレアス・根源憑依」
バード・ルーエンブルを包んだ光は三メートルを超える大きさになって弾けた。
その中からは緑のトカゲのような大きな翼をもつドラゴンが現れた。
俺の魔法はドラゴンに当たるも全くダメージが通っているようには見えなかった。
そしてバード・ルーエンブルは口元に円盤状の赤い魔法陣を展開した。
「これで終わらしてやろう竜魔法・獄炎球」
バード・ルーエンブルの口元にある円盤状の魔法陣から二メートルほどの大きな火の球が俺達に向かって飛んできた。
「ゲイル。任せたわよ」
「ああ。わかっている」
俺は背中に隠していた武器、断罪剣ヴァルカンザードを取り出しその火の球を斬った。
火の球は青い小さな無数の光をはじけ飛ばしながら消えていった。
「なに!? 俺の魔法が消された・・・だと!? その武器は断罪剣ヴァルカンザードか!? 無くしたと聞いていたがまさかお前が持っていたとは・・・」
「これであなたの魔法は潰れたわ。根源憑依による優位性は完全に崩れたわよ!」
「この力は魔法だけじゃないぞ! まずはグレイ・オーネスト、貴様から潰してやる!」
バード・ルーエンブルはグレイ・オーネストに近づきその鋭い爪で襲い掛かった。
「わしの力の源が異世界武器じゃと? 笑わせてくれるわ! あの六国大戦はそんなに甘くないぞ小僧!」
グレイ・オーネストはバード・ルーエンブルの攻撃を素早く躱すと腰にある直剣でバード・ルーエンブルの右腕を切り落とした。
「ぐぁぁああ! う、腕がぁああ!」
「勝負あったんじゃないかしら?」
「クソがあぁあ! リーネ・クリスタリア!」
グレイ・オーネストには勝てないと踏んだバード・ルーエンブルはリーネに向かってもう片方の腕で攻撃した。
「結晶剣オーヴィタルプライズ・武技解放」
リーネは自分の周りを結晶を使ってドーム状の壁を作り出した。
その壁はバード・ルーエンブルの鋭い爪でも貫通することはできなかった。
「だったらこのまま潰してやる!」
爪が通らないと知ると次はその巨体を活かして左腕に全体重をかけようとした。
さすがにあの巨体の体重を支えることはできんだろう。
リーネがピンチに陥っていると思ったが横からグレイ・オーネストが割り込んで左腕も切り落とした。
あの爺さん強すぎだろ。
本当に人間かよ・・・。
「わしを無視するとは随分余裕じゃのお」
バード・ルーエンブルは後ろに大きく飛び口元に黄色い円盤状の魔法陣を作り出した。
「ぐあああ! ・・・まだだ! 竜魔法・雷光破」
黄色い円盤状の魔法陣から太い稲妻がこちらに向かって飛んできた。
「それは俺が防ぐ」
その稲妻の前に俺は飛び出し断罪剣ヴァルカンザードで打ち消した。
「なっ・・・!」
「バード・ルーエンブル。もう諦めなさい。あなたは既に詰んでいるのよ!」
「クソ! このままでは・・・」
バード・ルーエンブルは後退りもう無理かと思った瞬間、バード・ルーエンブルにとっての吉報が耳に入った。
「バード様! 例の作戦の開始準備が整ったとの報告が入りました!」
「そうか・・・。そうかよくやった!」
「最後の足掻きの相談かしら?」
「ククク。リーネ・クリスタリア。お前の攻めは完璧だ! 俺の敗北を認めよう。・・・だが、守りは疎かだったようだな!」
「どういうことかしら?」
「お前のアジトを俺の兵士五百人で囲んだ。後は俺が作戦開始の合図を送るだけだ。・・・この意味がお前にわかるか?」
「人質を取ったって言いたいわけ?」
アジトだと・・・?
まずい、あそこにはハユとセレネ、それに怪我をして動けない非戦闘員がまだ居るはず。
今回アジトの守りについては何も聞いてない。
まさか、これがリーネの言っていた万が一って事なのか・・・。
「そうだ! 人質の命を助けて欲しいなら降伏しろ! そうすれば人質の命だけは助けてやろう!」
「勝手にすればいいじゃない」
リーネはあり得ない回答をした。
さすがにこれにはバード・ルーエンブルも動揺するしかなかった。
「なに!? 人質がどうなってもいいのか!?」
さすがにこの回答は俺にも許容が出来なかった。
俺はリーネの襟元を掴みかかって言い寄った。
「おいリーネ! どういうことだ! 見捨てるのか!?」
「落ち着きなさいよゲイル。あなたにも訪ねたでしょ。ハユちゃんを復讐に巻き込むつもりなのかって。あなたはどう答えたの?」
「・・・っ! だ・・・だが、これぐらいお前になら予想はつけたはずだ!」
リーネは俺の襟元を掴んでいる腕を持ち振り払った。
「ゲイル。私とあなたの目的は何? ハユちゃんを助ける事? 違うでしょ! 目的を達成するためならどんな犠牲が出ても立ち止まってはいけないの!」
「・・・」
リーネの言っていることは正論だ。
俺がリーネの立場に居たとしても同じ回答をしただろう。
わかっている。
わかっているが・・・こんな形はでは・・・。
「魔王ゲイル・リバスター。お前がこちら側に着くなら少しは考えてやってもいいぞ」
バード・ルーエンブルの甘い言葉が俺の心を突き刺さる。
「ゲイル。自分の目的を思い出しなさい。そんな簡単に揺らぐほどの復讐心だったの? 殺されかけたんじゃないの? その怒りを思い出しなさい」
その揺らいだ心を引き戻すようにリーネは俺に戦う理由を思い出させた。
・・・そうだ。
俺はこんな所で止まっている場合じゃないんだ・・・。
「・・・ハユ・・・すまない・・・」
「そうか。交渉決裂か・・・。だが、アジトにいる連中の悲鳴を聞けばそのうち変わるだろ。おい、作戦開始と伝えろ!」