23-4.ルーエンブル領主城潜入
前回のあらすじ
俺達の前にあのグレイ・オーネストが現れた
そしてそのグレイ・オーネストは俺達の味方になってくれた
だが、グレイ・オーネストが味方になれたのは偶然ではなかった
その理由が今解き明かされる
「さすがはリーネ・クリスタリアだ。ここまで計算してグレイ・オーネストを我が領に潜伏させておくとは・・・恐れ入ったよ」
「何言っているのかしら。私は会いたくなかったって言ったでしょ。これはただの偶然よ」
「いいえ、リーネ様。これは偶然ではありません」
「どういうことかしら?」
「私はハルト・クリスタリア様の命令でこの一カ月の間この領に留まっておりました」
「つまりお父様がこれを仕組んだって言いたいのかしら?」
「そんな馬鹿なことがあるか! 十年だぞ! 十年先の未来を読むなどそんな事できるわけがないだろ!」
バード・ルーエンブルは大声を荒げて否定した。
「バード・ルーエンブルよ。ハルト・クリスタリア様の最後の言葉を思い出してみるがいい」
「最後の言葉だと・・・?」
「思いだせぬか。だったら教えてやろう。クリスタリア王国が滅亡してから十年後に新たな希望が生まれる。そうあの方はおっしゃられたのだ。この意味が貴様にわかるか?」
「意味だと? そんなの死ぬ前の妄言ではないか!」
「これを妄言と吐き捨てるから我らに遅れをとるのだ」
「なんだと・・・!? じゃあどういう意味だって言うんだ!」
「この言葉にはクリスタリア王国を再建せんと動こうとする者達の動きを抑圧する意味が込められているのだ。そしてその十年という動けない期間に溜まった不満はどこで爆発すると思う?」
「それは・・・!」
「そうクリスタリア王が宣言したクリスタリア王国が滅亡してから十年後の今なのだ! それさえわかればリーネ様の潜伏場所をわかっているハルト・クリスタリア様なら予測が可能だという事だ」
「だがそれはリーネ・クリスタリアが動かなければ全てが頓挫するではないか!」
バード・ルーエンブルの言葉をリーネが否定する。
「それは違うわよ。この国でクーデターは起ころうとしていたわ。それを私が止めて今に伸ばしただけ。多分私が居なくても計画は実行されていたでしょうね」
「クリスタリア王の死の遺言はそのままダリウス王国への宣戦布告だったというわけか。・・・なるほどなぁ。クッククク、アーハハハハ」
またもバード・ルーエンブルは大声を上げて笑った。
怒ったり笑ったりと忙しい奴だな。
「驚愕のあまり壊れてしまったのかしら?」
「いやいや、失礼した。この十年がかりの計画をこの俺が潰して王国の英雄となった姿を想像したら笑いが止まらなくなってな」
「もう勝った気でいるの? あんまり私達をなめない事ね」
「なめるなだと? お前達こそ自分の状況をよく見る事だ。軍神と呼ばれたグレイ・オーネストは力の源の異世界武器を持っておらず、リーネ・クリスタリアは武技解放までしか使えない。そして護衛が一人だぞ! 対して私は根源憑依者だ。この圧倒的戦力差ではお前達に万に一つとして勝ち目は無い!」
「それはどうかしらね」
「なんだと?」
「私の護衛はただの護衛じゃないわ。魔王ゲイル・リバスターよ!」
リーネが俺を指し示した。
誰にも見られたくない一心で陰になろうと徹底していた俺は急に振られた話に全く反応できなかった。
「その女が魔王だと・・・?」
「女じゃねえよ」
俺はウイッグを思いっきり地面に叩きつけてやった。
まるで怒りをぶつけるように。
「女装魔王か・・・」
「ちげえよ! ・・・いや、違わないんだけど。・・・なあリーネ。やっぱりしまんなかったぞ。さっきまでの良い雰囲気ぶち壊しだよ」
「良いのよ、別に。この微妙な雰囲気で私達の勝ち負けが決まるわけが無いんだから」
「所詮大ぼら吹くだけの変態か。そんな奴居ても居なくても一緒だな」
バード・ルーエンブルは俺を鼻で笑うと余裕面で俺を見下してきた。
あいつ! 俺をなめているな?
良いだろう・・・その面を絶望に染めてやるぞ!
・・・とその前にリーネに一応聞いとくか。
「なあリーネ。何も空気を読まずに攻撃してもいいと思うか? あいつの余裕面がウザ過ぎて今すぐ潰してやりたいんだが」
「良いわよ。派手にやってしまいなさい!」
「了解」
俺は怒りをぶつけるように千の魔法陣でバード・ルーエンブルを囲んだ。
何をどうしようが死へのお見送りコースは間違いないだろう。
「この大量の魔法陣は!? ただの変態だと思ったが違うようだな」
「俺は変態じゃねえ! 火矢」