21-2.ルーエンブル領奪取作戦
前回のあらすじ
クリスタリア王国軍はあろうことか敵の目の前で自分達の鼓舞をしていた
そんな姿を見て余裕そうにしていたルーエンブル領領主バード・ルーエンブル
だが、現実はそんなに甘くなかった
突如として全ての門が開いてしまった
バード・ルーエンブルの運命は如何に・・・?
リーネ達は西門の前にあるすべての門へと繋がっている大通りまで進行していた。
大通りに来るまではルーエンブル領の兵士は見かけなかったが、ここにきてリーネ達の所に続々とやってきていた。
「流石ね。立て直しが早いわ」
「動揺を誘って焦らせる作戦は失敗か」
「大丈夫。この程度、想定の範囲内よ。次の作戦ね」
リーネは黒い板を腰にぶら下げていた袋から取り出した。
「なんだそれ?」
「敵の位置情報よ」
黒い板が光るとそこにはルーエンブル領の地図の上に赤いマークと緑のマークが映っていた。
赤いマークが西門の目の前の大通りに多く見られることから赤いマークは俺達の位置を指し示しているようだ。
という事は緑のマークがルーエンブル領の兵士って事か。
こんなもの一体何時手に入れたんだか。
「これはリーネさ・・・じゃなかった、私が独自に手に入れた物よ」
「これどうなってんだ? 通信か?」
「ええ、敵の魔力情報通信機を間に通信を傍受する機械を間に入れることで私の所にも通信が来るようになっているのよ」
「この世界もそこそこ発展しているんだな」
平民達の住まいから見てもっと機械とか何もない世界だと思ったが、下にまで技術が渡ってないだけみたいだな。
「敵も準備が整いつつあるわね。整いきる前に叩くわ。二番隊、三番隊西門と東門の間の大通りの脇道に隠れて奇襲をかけなさい」
リーネは耳元にある通信器具を使って別動隊に指示を出した。
その後、敵が西門と東門の間の大通りに差し掛かった時に別動隊が指示通り奇襲した。
敵は数が減っているのはモニター越しで分かった。
「流石に情報が筒抜けだと面白いようにうまくいくな」
「そう長くは持たなさそうだけどね」
***
バード・ルーエンブルに真っ先に奇襲の報告が入った。
「バード様! 東門から西門に向かった兵が奇襲を受けました!」
「北門でも同様の奇襲を受けたと報告が・・・」
「南門でも・・・」
次々と奇襲を受ける様を見た管制室にいる兵士達は動揺を隠しきれないでいた。
「これは一体・・・?」
「こちらの位置情報が洩れているな」
この状況を真っ先に言い当てたのはバード・ルーエンブルだった。
なぜ言い当てれたのかは彼も六国大戦で戦っていた一人であり、この戦い方を知っていたからだ。
そうこの戦い方はハルト・クリスタリアが使っていた戦法の一つだった。
「そ、そんな!? あり得ないです! 軍の機密情報をどうやって・・・」
「門兵が裏切っているとわかった時に想定すべきだったか。この軍の中枢まで裏切り者が存在している」
「バード様。では、どうされるのですか?」
かつての戦法を知っているのならそれに対する回答も知っている。
「簡単だ。位置情報が洩れていてもそれを活かしきれるだけの戦力が無ければ意味は無い! 全兵士に通達二百人規模で編隊を組め! 敵の小さな人数に押しつぶされない戦力で当たれ!」
的確な指示を終えた後バード・ルーエンブルが次に目をつけたのは開きっぱなしの領主城の城門だ。
「続いて領主城の城門を閉じろ! ここを突破できなければあいつらに勝機は無い! 急げ!」
そうバード・ルーエンブルが指示した後の事だった。
大きな爆音と共に領主城が少し揺れた。
「なんだ!? 何が起こった!」
「そ、それが城門を閉じるのに使っていた歯車が突如爆発しました!」
あまりにも突飛が過ぎる報告にバード・ルーエンブルは信じきれなかった。
「おい! なんだその報告は!? 冗談を言っている場合じゃないんだぞ!」
「本当なんです!」
兵士の必死な表情を見たバード・ルーエンブルはその冗談のような報告を受け入れるしかなかった。
「爆発によって城門の開閉が出来なくなり、現在城門は開いた状態になっております!」
「城門の歯車を管理していた奴は誰だ!」
「アリタス・リクネーリという歯車職人です!」
「そいつが裏切っただと? あり得ない! そいつはジェネット領の領主ミレイ・ジェネット様からの十年前に紹介していただいた人だぞ! 他に居ないのか!?」
兵士は城門の管理記録の中を必死に探した。
「記録にはここ一カ月は彼しか歯車を触っておりません」
「そ、そんなバカな。・・・そうだ記録を改竄されている可能性はある。そうだ。そうに違いない!」
バード・ルーエンブルはその報告を聞いて真っ先に一番最悪のケースが思い浮かんだが、それを認めることはできなかった。
「で、ですが記録には改竄のあとなんて・・・」
「ええい、黙れ! そう考えなければ十年前から・・・クリスタリア王が死んだあの日から計画されているとしか考える事しかできないではないか! そんな恐ろしい事があるか!」
バード・ルーエンブルは今の現状を鑑みていの一番に伝えなければいけない人物を思い浮かべた。
「ダース・バックス将軍に繋げ!」
「わ、わかりました」
映像はモニターには出なかった。そこまでの余裕は無いのだろう。
「どうした領主バード・ルーエンブル。こっちは敵が雪崩れ込んできてあんまり相手をしている余裕はないぞ」
「ダース・バックス将軍、城門が閉じられなくなった。東門は必ず守れ! そこが抜かれればすべてが終わる!」
「良いだろう。だが北門はどうする?」
バード・ルーエンブルの必死な声から察したダース・バックス将軍は今回は物分かりがよかった。
「そっちはこちらで何とかするから気にするな」
そう伝えるとバード・ルーエンブルは無線を切った。
「北門周辺にいる隊員に伝えろ! 必ず北門は死守しろ! 何があってもだ!」
「は!」