19-2.新たな希望? それとも・・・
前回のあらすじ
ゲイルはリーネに将軍を倒したことを報告していた
そんな時やってきたのはオーネスト領の将軍だった
オーネスト領の領主グレイ・オーネストはクリスタリア王国を裏切り、国を滅亡に導いた
そんなオーネスト領の人間に手を貸したくないリーネ
だが、そんな事は百も承知で来ているオーネスト領の将軍はリーネにお願いを聞いてもらっていた
「いえ、帰りません。リーネ様にお願いを聞いて頂くまでは絶対に!」
ベルクレス将軍の表情は必死だった。
その必死さに押されたリーネは仕方がないという表情をした。
「お願いねえ・・・。言ってみるだけ言ってみなさい」
「ルーエンブル領に捕まった我らが領主グレイ・オーネストの救出にお手伝い頂きたいのです!」
「却下」
リーネは即答した。
むしろそれ以外の回答を全く用意する気が無いようだった。
「その返答はわかりきっております。なのでこちらを読み終えたのちご再考をお願い致します」
そう言ってベルクレス将軍は書状をリーネに差し出した。
その書状には結晶の模様の封蝋がしてあった。
「この封蝋はクリスタリア王家の・・・本物みたいね。これがお父様の書状・・・」
リーネは封蝋を開け中の手紙を読んだ。
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やあリーネ。
これを君が読んでいるという事は私はもうこの世には居ないのだろうね。
それにオーネスト領もピンチなのだろう。
リーネ、君はオーネスト領に手を貸したくないのだろうが手は貸してあげて欲しい。
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「これ書き足してないわよね?」
「書状を開けるのはこれが初めてなので無理です」
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リーネ、書き足したんじゃないかとかって疑ってそうだけど違うからね。
その人達は何も悪くないから。
話がズレてしまったね。
まずはリーネが一番知りたい事を教えよう。
つまり私の死についてだ。
ダリウス家の裏切りについては早い段階でわかっていた。
対策もしようと思えばできたが、あえてしなかった。
ダリウス家のような不穏分子が国中にくすぶっていてはいつかもっと大きな戦いが始まってしまい国民もそして私達も無事ではすまないと考えた。
だからあえてクリスタリア王国は一度滅びる必要があったんだ。
不穏分子を浮き彫りにするために。
そしてこのダリウス家による反乱の犠牲者を減らすためにグレイ・オーネストに裏切るように私は命令し実行させた。
真相はこんな所だ。
彼らに手を貸してほしい理由は大体これで察してくれると信じているよ。
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「はぁ~。全くお父様ったら・・・私はそれでも・・・」
リーネはクリスタリア王からの手紙を綺麗に折りたたみ、それを胸元に持っていきしばらく考え事をしていた。
考えがまとまったのかリーネはベルクレス将軍の方に目を向けた。
「良いわよ」
「え?」
ベルクレス将軍は驚きすぎて聞き返してしまった。
「だからグレイ・オーネストをついでに助けてあげるって言ってんの!」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」
「でも、助けるのはあなた達で行いなさい。元々そんなに余裕なんてないんだから。私達が騒ぎを起こしている間に何とか救出しなさい」
「それで充分です。ありがとうございます」
「戦は六日後よ。それまでに準備はしときなさい」
「は! 我々はこれで失礼させていただきます」
ベルクレス将軍は嬉しそうにこの場を去った。
だが、俺には引っ掛かりが残る。
命令でやったとは言え結局の所、裏切り者には変わらない。
そんな奴を助けるなんて俺には考えられなかった。
「良いのか? リーネ。たとえ命令とは言ったって裏切り者には変わりはないぞ」
「良いも何もこれもお父様の予言の一つよ。従う他ないわ」
「またそれか・・・いい加減死人の言葉に惑わされるのはやめないか? これからの未来を創るのは今生きている俺達なんだぞ」
「ゲイル、この予言はただのきっかけよ。ただ私の背中を押すためのね。惑わすような言葉ではないわ」
確かにあの手紙にはこうしろ、ああしろと言った文言は無かった。
「裏切り者って言うのはどこに行ったって立場は変わらないぞ。グレイ・オーネストが再び裏切ったらどうするつもりだ?」
「その時は斬って捨てるわ。私の道を邪魔するのであれば誰であろうと許さないわ」
「だったらその時は俺も手伝ってやるよ」
「頼もしいわね」
そうして俺達の騒々しい今日の日は終わりを迎えた。
***
ルーエンブル領の領主城の地下にルーエンブル領の領主がとある男に会うために来ていた。
鉄格子の奥に居るその男は丸太のような太い腕、足、そして大きな胸板を持った白髪の屈強な老人だった。
こんな鉄格子なんてその力であっという間に壊していけるはずだがそれを全くしないのは立場あるからだろう。
「グレイ・オーネスト、なぜお前は捕まっているかわかるか?」
「さあ、年じゃからの。どれの事かさっぱりわからんよ」
「ほお、しらばっくれるかグレイ・オーネスト」
「しらばっくれる? 何を言っているんじゃ? 心当たりが多すぎてどれかわからんと言っておるじゃろ?」
「な!? よくそんなんで平気で生きてこれたな」
グレイ・オーネストは腕を組んで考え出した。
そして何か浮かんだんだろう。
楽しそうにグレイ・オーネストは話し始めた。
「・・・ああ、あれか。お前さんの嫁さんに浮気の件を告げ口したことじゃったか。あれはお前さんが悪いんじゃろ。あんなにキレイな嫁さんをもらっておいて他の女に現を抜かすなんぞ嫁さんが可哀想じゃろ。あれはわし悪くないぞ。捕まるほどの事じゃないはずじゃ」
「あ、あれお前だったのか!? あの後、大変だったんだぞ・・・ってそんな話で捕まえるわけないだろ!」
「う~ん。・・・ああ、倉にあった秘蔵のワインを飲み干して水に変えたことかの?」
「違うわ!! いい加減にしろクソ爺!」
あれやったのはこの爺だったのか!?
クソ、あれマジで高かったんだぞ。
もう手に入らないのに・・・。
「だったらなんなんじゃ? 要件を言ってくれんとわからんわい」
この爺はすっとぼけやがって。
そこまで老いぼれてないだろ。
「リーネ・クリスタリアの事だ! お前が殺したはずのリーネ・クリスタリアはなぜ生きている? 答えによっては反逆行為だぞ! 死刑は免れんぞ」
「そりゃあワシが殺したのは影武者の方じゃったからじゃよ」
「それをわかっててリーネ・クリスタリアの首と偽ってダリウス王に差し出したのか!」
「そうだと言ったらどうする?」
グレイ・オーネストは急に低い声で真面目に答えた。
俺は思わず足を引いてしまった。
その一言に圧倒的な圧力を感じてしまった。
やはりこの男最初からこちら側ではなかったか。
「お前は王都でクリスタリア王と同じ死に方をするだろうな」
「それは光栄じゃの。あの方と同じ待遇を受けるなんてこれほどの喜びは他に無いわい」
「だがその前にやる事がある。お前を人質にしてリーネ・クリスタリアを釣り上げる」
「ワシを人質? ハハハ、あの方にワシはそんな価値は無いわ。なんせあの方の母親を殺したのはワシじゃからな。そんな事をしている間にこの領が落ちるわい」
「チッ、だったら死刑執行までここで震えていろ!」
「そうじゃのその時が来ることを楽しみにしてるわい」
ルーエンブル領の領主がその場を去っていった。
「あの方が世に出てきたという事はこの領を落とす準備が完了したという事じゃし、わしはゆっくりあの方を待つとするかの」
グレイ・オーネストは鉄格子を壊して領主の部屋からくすねてきた葉巻に火をつけて暗い天井を見ながら吸っていた。