19-1.新たな希望? それとも・・・
前回のあらすじ
リーネは元クリスタリア王国将軍セラ・ファリストを打ち倒すことに成功したのであった
ゲイルはクライス将軍を殺した後、アジトには戦いが終わったころに帰還した。
アジトには敵の死体の山が築かれていた。
さすがに量が多いから燃やすんだろうな。
こっちの被害はあんまりなさそうだな。
俺は隊員達に指示を飛ばしているリーネの姿を見つけた。
報告するために近づいて行って声をかけた。
「よう。帰ったぜ」
「結果は?」
「俺が帰ってきたんだから成功に決まってるだろ?」
「逃げ帰ってきたのかと思ったわ」
「まさか、ありえないな」
「流石魔王ね。よくやったわ」
「そっちはあの人数差でよく勝てたな」
「向こうは元々疲弊してたのもあったし、それにカイ達をこっちに送ってくれた事も大きかったわ」
「そうか、判断は間違ってなかったか」
「違うでしょ。今回はたまたま勝ったから良かったけど、将軍を打ち取れず返り討ちにあってたらどうするつもりだったのよ?」
「帰った時に本陣が落ちてたら元も子もないだろ」
リーネは少し怒ったような表情をした。
「こっちは大丈夫って言ったわよね。私もゲイルを信じているんだからあなたも私を信じなさいよ」
リーネの言っていることは正論だった。
俺も信用しろとか言っていたのに肝心の俺がリーネを完全に信用しきれなかったみたいだ。
これは俺が悪いな。
「・・・すまん。リーネをどこか信じきれてなかったみたいだ」
俺の落ち込んだ表情を見たリーネはパンッと手を叩いた。
「はい、反省は終わり。次の話をしましょうか」
リーネは気持ちを切り替えるように俺に笑顔を振りまいた。
そんな顔をされたらいつまでも落ち込んでいるわけにはいかないな。
「そうだな」
俺も気持ちを切り替えてリーネと話をしようとした時、一人の隊員がリーネの元に寄ってきて報告を始めた。
「リーネ様! オーネスト領の将軍と名乗る者がリーネ様に会わせろと言ってきているのですがどうすればいいのでしょうか?」
オーネスト領という名を聞いた時、リーネは嫌そうな顔をした。
怒っているように見え、とても因縁が深そうだなと俺はその場で感じた。
「・・・オーネスト領ね・・・会うわけないでしょ。あいつらが裏切らなければこんなことには・・・」
「ですが、オーネスト領の将軍がクリスタリア王の書状を持っていると言っているんです」
クリスタリア王の書状と聞いた時一瞬だが曇った顔が笑顔になったが、すぐに冷静な顔に戻っていた。
父親からの手紙だ。
笑顔にならない方がおかしいだろうな。
「お父様の書状を・・・いいわ。会ってあげる」
「は!」
隊員がリーネの元を離れてオーネスト領の将軍に結果を報告しに行ってから数分後、オーネスト領の将軍が隊員と一緒にリーネの元まで来た。
オーネスト領の将軍はリーネの目の前まで行くと膝をついて頭を下げた。
「よく私の前に顔を出せたわね。ディーン・ベルクレス将軍」
ディーン・ベルクレスと呼ばれる男は茶髪の角刈りの頭で背中には大斧を抱えていた。
「お久しぶりでございますリーネ様。この度は我々に会って頂きありがとうございます」
「なあリーネ。こいつら知り合いなんだろ? 協力してもらえるかもしれないしもう少し愛想よくした方が良いんじゃないか?」
「ダメよ。こいつらを仲間にしたらまた裏切られるわ」
「裏切る? どういうことだ?」
「オーネスト領の領主グレイ・オーネストはクリスタリア王の右腕として六国大戦で活躍し軍神という異名まで手に入れたわ」
「めちゃめちゃ貢献してんじゃねえか。裏切るとか何かの間違いだろ」
「そうじゃないのよ。ダリウス軍がクリスタリア王国を転覆させようと攻め入った時、グレイ・オーネストはダリウス軍に協力しお母様と私の影武者の殺し、首をダリウス王に差し出し領主という地位を手に入れたわ。彼がクリスタリア王国軍に手を貸していればクリスタリア王国は滅亡することもなかったわ」
リーネは拳を強く握りしめていた。
本当は今すぐ八つ当たりしたいんだろうな。
「なるほど、今回も裏切りそうだな。・・・そういえばこいつは将軍だな。今後の作戦で邪魔になる。ここで殺しておくか?」
「そうねえ。でも今は殺らなくてもいいわ。今も後も一緒よ」
俺にあらかた説明し終えた後、ベルクレス将軍がリーネの顔を伺いながら話しかける。
「リーネ様、よろしいでしょうか?」
「ああ、居たのだったわね。お父様の書状だけ置いて帰りなさい」
「いえ、帰りません。リーネ様にお願いを聞いて頂くまでは絶対に!」
ベルクレス将軍の表情は必死だった。
その必死さに押されたリーネは仕方がないという表情をした。
「お願いねえ・・・。言ってみるだけ言ってみなさい」
「ルーエンブル領に捕まった我らが領主グレイ・オーネストの救出にお手伝い頂きたいのです!」