7-2.ルーエンブル領へ
前回の「魔王と亡国の姫が造るキングダムロード」
仕事が無くニートをしていたゲイルを
カイが買い物に誘った
だが、ゲイルは素顔をあまり見せたくなかった
その解決法にカイはウイッグを被って変装するという案を出す
その案の出所がリーネだとゲイルは知り
変装を了承しルーエンブル領に馬車で向かうのだった
出発してから約30分ぐらい経ったころ、ようやく魔獣の森を抜けることが出来た。
道中には小さい魔獣が現れていたがなぜか馬車を襲うことは無かった。
理由を聞いたところ馬車には魔獣を避けるための匂いをつけているかららしい。
そしてそこから城が見えた。
中央に大きな城があり、その周りには十メートルは越える大きな城壁が二つあり、一つは城を守る城壁、もう一つはその城の周りにある住居を守るための城壁だ。
だがその第二の城壁の外側には木製で作られたボロイ住居が多く並んでいた。
多分総面積では第二城壁の周りにある住居の部分の方が多いように見えた。
俺達は第二城壁外のボロイ住居のある所の馬車を止める場所に止めてその街に買い物をしようと降りていた。
「ここって街なのか? 賑わってはいるみたいだけど、貧民街みたく見えるんだが」
街は外見はボロイがそれでも賑わっていた。
歩く人は商人、家族、子供達と色々な人がいた。
ここまで賑わっているんだったら建物だってもっとしっかりしたものにできると思うんだがな。
「ここは階級を持たない平民の街さ。階級を持っている貴族達はあの門の向こう側。こことは違って道はしっかり補整されてたり建物のもっと豪華だよ」
「貧富の差が激しいな。これがこの世界の常識なのか?」
「そんなわけない!」
カイは突然大きな声を上げて俺の疑問を否定した。
「ど、どうした?」
カイは息を荒げていたが、俺の声を聴いていったん深呼吸して落ち着いてから話し始めた。
「ごめんね。何も知らないゲイルに当たっちゃって・・・。この貧富の差ができ始めたのがダリウス王国が成立した時でさ、本当はもっとみんないい生活をしていたんだ」
「だったら不満があるはずだろ。なぜここの人達は反旗を翻さない。この世界の人族は異世界の武器の力を使うことが出来るのだろう? 道具をそろえれば簡単なはずだ」
「異世界の武器が一般に流通する事なんてないし、流通したとしても数が少ないからとても高価になって買えないんだ」
「だが、拾えるはずだ。この世界に現れる異世界の武器の出現場所は固定ではないはずだろ」
「ゲイル。異世界の武器は領主に渡すことによって大金が得られるようになっているんだ。戦争や戦いに巻き込まれたくない人達はみんな大金と引き換えに渡すんだよ」
「なるほど、不満はあるがいつか誰かがやってくれると信じている他人任せな連中が大半という事だな。そんなことをしているから貴族連中に武器が渡りすぎて力の差が大きくなって逆らえなくなってきてるんだろうな」
「確かに貴族が力を持ちすぎたというのもあると思うよ。でも、彼らが反旗を翻さない理由はそれだけじゃないんだ」
「その理由ってのは何なんだ?」
「今のダリウス王国が建国される前はクリスタリア王国っていう国だったんだ。今よりもずっといい国でみんなの笑顔があふれていたんだ」
「そんな良い国ならその国が続いているんじゃないのか?」
「クリスタリア王家は当時一番信頼していたダリウス家の裏切りによって滅ぼされたんだ」
「裏切りって言ったって国民はクリスタリア王国に不満はないんだから、ダリウス王国の建国は反対するだろ」
「最初は暴動がそこら中で起こったさ。国が維持できないほどにね。でもある時、ピタッとその暴動全てが止まったんだ」
「ある時てなんなんだよ?」
「クリスタリア王の処刑日さ。その日は暴動を起こしていた国民全てがクリスタリア王を助け出そうと王都に向かったんだ。でも、クリスタリア王を助け出す為の暴動は起こらなかったんだ」
「何故だ。クリスタリア王を助ける為に王都に行ったのではないのか?」
「原因はクリスタリア王が処刑の直前に言った言葉なんだ」
「その言葉とはなんなんだ?」
「クリスタリア王は処刑の直前に王都に集まっていた国民に対してこう言ったんだ」
カイはクリスタリア王の言葉を代弁した。
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全てのクリスタリア国民に告げる。
これから辛く苦しい日々が続くかもしれない。
明日に希望を持てない時が多くなるかもしれない。
でも、希望を持ち続けることは諦めないで欲しい。
クリスタリア王国が滅亡してから十年後に新たな希望が生まれる事を予言王の名において約束する。
だから、これから暴動を起こそうとしている国民全てにお願いする。
どうかその怒りの矛を収めて欲しい。
その命は未来を支える柱として使って欲しい。
国王では無くなった私ではお願いする事しか出来ない。
だが、どうかこの最後の願い、聞いてくれている事を切に願う。
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「その直後、クリスタリア王は処刑されたよ」
「なるほど、その言葉を鵜呑みした国民は不満を持っても誰も動けずにいると」
「そう、だから誰も反旗を翻そうとしないんだ」
「まるで呪いだな。その言葉のせいで誰も動やしない。しかもその隙にダリウス王家はやりたい放題ときた。何が予言王だ。この結果は容易に想像できるはずだ。俺だったら国民を扇動してダリウス王家を滅ぼしにかかるな」
俺のクリスタリア王を否定する言葉を受けたカイは手を強く握りしめていた。
自分が信じている者をけなされれば怒るだろう。
だが、カイはすぐに強く握りしめた手を緩めた。
そして俺の言葉に対して怒ることなく冷静に答えてきた。
「クリスタリア王にも何か考えがあっての事なんだろうね。それに今年はクリスタリア王国が滅亡してちょうど十年目だし」
十年目。
という事はクリスタリア王の予言を信じるなら、今年、すべてを変える希望が生まれるという事か。
「今のダリウス王国に不満のあるカイ・シェールストーンは国民の希望になる気は無いのか?」
「僕では役不足だよ。それにもっと適した人物がいるのを知っているしね」
「なるほど、じゃあ俺はその希望が現れた時にアピール出来るように鍛えてでもおくかな」
「ゲイルはなんでダリウス王国との戦争に興味があるの?」
「俺にも目的があるのさ」
あのダリウス王には屈辱という名の借りがあるからな。
その借りを返すタイミングはダリウス王国の滅亡という事で返させてもらう。
「ゲイルの目的はダリウス王国との戦争に参加する事で達成する事が出来ると言うことなんだね」
「そういう事だ」
「そうなんだ。だったら頑張ってね。ゲイル」
「目的とか聞かないのか?」
「ゲイルが話したくなったら聞くよ。無理やり聞き出すなんて野暮な真似はできないよ」
「そうか。ありがとう」
「お礼を言われるような事は何もやってないさ。だから、そこはありがとうじゃなくて気が向いたら話すでいいよ」
「そうだな。気が向いたら話すさ。・・・必ず」
「楽しみにしてるよ。・・・さて、話もこんな所にして買い物に行こうか」
「ああ。そうだな」
俺達は必要備品を街中駆け回って集めた後、その荷物を馬車に積み込んだ。
時間も夕暮れ時でもう帰るような時間だった。
「やっと終わったー!」
「すまんな。殆どカイに任せっぱなしで」
「大丈夫だよ。今日は街をゲイルに紹介する為でもあったんだから気にしないで」
次回の「魔王と亡国の姫が造るキングダムロード」
仕事が終わったゲイルとカイ
次に向かったのはキャバクラだった・・・のだが
道中で女の子が虐められていた
ゲイルの取った行動とは?
次回 8-1.いざパラダイスへ・・・と思ったが・・・?
9月4日 更新