6-3.ついに見つけた新しい仕事
前回の「魔王と亡国の姫が造るキングダムロード」
魔獣の森にやってきたゲイルとリーネ
真意を見せないリーネに対して
ゲイルに不安が募っていく
そしてリーネがゲイルの左頬のすぐ左を
抜いた剣で刺し貫いた
リーネはゲイルを守ろうとしていた
疑問は残るが守られたという事実だけがあれば
今はそれでいい
ゲイルは力を示すために
カイに立ち向かう魔獣と戦う事にしたのであった
カイは振り下ろされた魔獣の手を上に弾いた後、後ろに大きく下がり俺達の所までやってきた。
カイが下がったのを見た俺は魔獣の上空に数千は越えるほどの魔法陣を作り出した。
「火矢」
俺が魔法名を唱えると数千の魔法陣から大量の火の矢が魔獣に向かって降り注いでいた。
だが、魔法は体に当たる直前に何かの壁に阻まれて粉々に矢は砕け散ってしまう。
だが、砕け散ろうが何だろうが無数の火の雨は止むことは無い。
「全然効いてないな」
「そりゃあそうだよ。魔獣には魔力障壁が備わっているからその障壁を取り除かない限り攻撃は通らないんだ」
「その魔力障壁ってどうやったら破れるんだ?」
「攻撃を与えるたびに魔力を消費して障壁を生成しているから、攻撃を与え続けて魔力枯渇に追い込むしか方法は無いよ」
「つまりこのまま、死ぬまで攻撃を続けていけばいいわけだ」
「ハハハ、ゲイル面白いこと言うね。そんなに君の魔力が持つわけないだろ?」
「ハハハ、やってみなければわからないだろ?」
そう話している間も火の雨は止まらない。
その雨を撃たれ続けている魔獣は自信の魔力が限界値に近くなり、ようやく自分がとんでもない状況に合っていることに気づいた。
魔獣はその場から動くため足に力を入れて、ゲイル達に向かって飛び込もうとした。
その時、魔獣の足元には緑の魔法陣が複数構成されていた。
「地面拘束」
魔獣の足に無数の緑の細い蔦が巻き付いた。
一本一本は容易く千切れてもその一本が無数に徒党を組めば千切るのはもう不可能な領域まで達するだろう。
魔法によって身動きが取れなくなった魔獣はそのまま火の雨の餌食になり、魔力障壁が切れた後は悲鳴を上げながら死んでいった。
「本当にやりきったよこの人。・・・本当だったんだね。魔王っていうのは」
「冗談で言ったつもりはなかったんだがな」
ガサっという音を鳴らしながら、別の熊型の魔獣が森から現れた。
こいつもさっきの奴と同じぐらいの体格だが、片目に傷があり歴戦の戦士の風格があった。
明らかにさっきの奴より強い。
そう思えるほどのプレッシャーを放っていた。
「・・・っ。まだいるなんて・・・! ゲイル! 準備して!」
俺が魔法を構築しようとしているとリーネが俺の前に出てきた。
「その必要はないわ。ゲイル、その剣借りるわよ」
リーネは俺の剣を鞘から抜き取って魔獣に向かっていった。
「ちょっと! リーネ様ダメです! 戻ってください!」
リーネはゆっくり魔獣に近づいて行った。
魔獣は仁王立ちしていつでも攻撃ができる態勢だ。
そして二人の間合いが重なったとき、最初に動いたのは魔獣だった。
魔獣はその大きな右手をリーネに向かって勢いよく突き出した。
その手がリーネに当たる直前、リーネが魔獣の目の前から消え、気づくと魔獣の後ろに居た。
魔獣は背後にいるリーネに気づき後ろに振り返ろうとした途端、右腕が肩から血を吹き出しながら落ちていった。
「一ノ型・霞切り。相手の攻撃が当たる直前に相手の視界外に避けながら攻撃する日輪剣技の一つの型。相手からは使用者が霧のように消える事からこの名前が付けられた剣術。魔獣相手にも効くのねこの技は」
魔獣は痛みに耐えかね出血カ所をもう片方の手で押さえ膝をついた。
そんな大きな隙をリーネは見逃さない。
魔獣の体を踏み台にして空中に飛び上がった後、剣を前に突き出した。
そして剣と共に落ちるリーネは勢いを保ちながら魔獣の心臓を貫いた。
貫かれた魔獣はその場で力尽きた。
「一ノ型派型・空突。霞切の後に放たれる必殺の一撃。空中に飛ばれたことすら気づかず不意の一撃が背後から襲うことから空突と名付けられた必殺の剣術」
リーネは息を大きく吐き、俺に近寄ってきて剣を手渡してきた。
「返すわ。さすが魔力特攻のある武器、断罪剣ヴァルカンザードね。魔力障壁とか関係なかったわ」
「その特性を除けば、ただの剣なんだがな。その歳でその強さ。いい師匠に巡り合えているようだな」
「師匠? あれが師匠と呼べるのならそうね」
「師だけでじゃない。その技を発揮できるお前は天才だ」
「当然よ。それにしてもさすが魔王ね。あの魔獣の魔力障壁を簡単に物量で突破するなんて」
「魔力量は魔族随一らしいからな。この程度で疲れることは無い」
リーネは動ける兵士に指示を出していた。
「後処理は任せて戻るわよ」
「後処理って何かやるのか?」
「魔獣をばらして肉と毛皮にする作業よ」
「あれ食えるのか・・・」
あんな筋肉質な肉、噛み千切れなくて食えたもんじゃないんじゃ・・・。
「トロトロになるまで煮込めば口に入れた瞬間に肉が溶け、旨味が口に広がるぐらい美味しいわ」
そんなの聞いたら腹が減ってくるじゃねえか。
今日の晩飯には出るんだろうか。
「それにしても、俺のこの武器がよく断罪剣ヴァルカンザードってわかったな」
「報告書に勇者から国宝の断罪剣ヴァルカンザードを奪取って書いてあったからよ」
「その報告書が間違えていたらどうするつもりだったんだよ」
「その時はまた別の案があったわ」
「本当かよ・・・」
リーネの言葉が本当か嘘かはわからない。
だが、ここの連中は俺に害をなすことは無いという事がわかっただけでも収穫はあっただろう。
俺はここにしばらく身を隠して過ごすことにした。
次回の「魔王と亡国の姫が造るキングダムロード」
ニートなゲイルを買い出しに連れて行きたいカイ
安易に姿を見せたくないゲイル
変装に自信のあるカイ
その変装に効果は有るの!?
次回 7-1.ルーエンブル領へ
8月31日 更新