表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/80

1-1.魔王降臨

「起きてください。未来の魔王様」


 そう語りかけるのは、大人の女性のような凛とした声だった。俺は言われるがままに瞬きをしながら目を開けた。


 目を開けると周りには無数の松明が壁に等間隔で刺さっていてその明かりで部屋全体の様子が見えた。


 部屋は岩壁に囲まれていて地面には謎の魔法陣のような模様が描かれていた。


 そして目の前には黒髪を頭の上でまとめた美人な女性が目の前に立っていた。


 その目は鋭く、すべてを見通しているかのような感じがした。


 俺はその場から立ち上がり右手を腰に回し、ホルスターから愛用の拳銃を抜き目の前の女性に突き付けた。


「お前は何者だ」


 目の前の女性は両手を挙げてまるで戦闘する意思がないことを示しながら答えた。


「私の名前はアンダー。あなたの名前は?」


 俺はここで嘘をつく意味とメリットを考えた。


 ここで嘘をつけば俺が何者かをこの女が知ることなく話は進められる。


 だが、嘘だとバレれば何をしてくるかわからない。


 俺をいつの間にかこんな暗い所に移動させられる力があるんだ。


 ここは話を合わせておくか。


「俺の名はゲイル・リバスター」


 自己紹介を終えた俺は改めて冷静に目の前の女性を見た。


 彼女は大きな胸、そして張りのある尻、ウエストは細くまるで美の化身と言われても疑問を思わないぐらいの完璧なスタイルだった。


 ・・・一部を除いて。


「・・・その頭に生えた角とか尻尾は飾りなんだよな?」


 頭から生えている硬そうな黒い角、尻から出ている黒く長く尖った尻尾。


 その姿はまるで美しき姿で人を惑わすサキュバスという悪魔のようだった。


「いえ、本物ですが。・・・触ってみます?」


 アンダーは黒い尻尾を動かしてゲイルの目の前に出してきた。


 俺は目の前に差し出された尻尾の先を恐る恐るつかみ感触を確かめた。


 尻尾は握ると弾力があり意外と癖になりそうな心地よさだった。


 例えるなら猫の肉球のような感触で握るたびに幸せを感じていた。


 だからか無意識に何度も何度も握って放すを繰り返していた。


「あ、あの、そろそろやめてもらっても、ああぁあん」


 とても色っぽい声がして、俺は驚いて尻尾を放してしまった。


 俺は自分の手とアンダーの尻尾を交互に見て、幸せが目の前にあるのに遠のいていくような悲しい気持になっていた。


 一方アンダーの顔は少し火照っていてすごく色っぽかった。


「そんな残念そうな顔をしない! 尻尾を触るのは今後禁止です。あと、その物騒な物もしまってください」


 そう言うアンダーは若干涙目で外見からくる凛々しさとのギャップがとてもかわいい。


 その姿や言動から敵意を感じられないので俺は言う通りに拳銃を腰のホルスターに戻した。


 アンダーは深呼吸して精神を落ち着かせる。


「私の姿を見て察しているかもしれませんが、ここはゲイル様が生きていた世界とは違う世界なんです」


 確かに俺の居た世界には悪魔なんてものは空想の存在で、実際に触れるなんてありえないしな。


「そういえば俺はどうやってここに来たんだ・・・。確か街中を歩いていて・・・あ、頭が痛い・・・」


 俺は膝をついて頭を押さえる。


 そこから先を思い出そうとすると頭が割れるように痛い。なんでだ・・・?


「ゲイル様、ゆっくり思い出してください。そう、ゆっくりと」


 俺は一つ一つゆっくりと最後の記憶の断片を思い出した。


「確か時間帯は、夕陽が沈む直前の頃だった。街はレンガ造りの建物が多く、ガラス張りのビルは片手で数えれるぐらいしか無かった。街で有名なものと言えばレンガ造りの鐘つきの時計塔ぐらいだった」


「異世界の割にはそこまで街は発展してないんですね」


 アンダーの言葉からはまるで別の異世界を知っているかのような口ぶりだった。


 他に異世界から来た奴がいて話をしたことがあるのか。


 今は考えてもわからないからこの件は一旦保留だ。


「観光客が寄り付かないぐらい治安が悪かったし、見る所も時計塔ぐらいしか無かったしな。だが、そんな所だからこそゴロツキや訳ありの人間にとっては都みたいなもんだったよ」


「なんでそんな場所に居たのですか?」


「俺も訳ありの人間ってことさ」


「訳ありというのは?」


 アンダーは腕を組んで自分の胸を持ち上げ、胸を強調するような姿勢を取ってきた。


 その姿勢はわざとやっているのか自然と出てきたのかはわからないがとても魅力的に見えた。


「俺は、傭兵をやってたんだ。報酬さえあればどこでも戦う便利屋さ」


「物騒ですね。他の職業だって選べたんじゃないのですか?」


「俺は孤児でな、野垂れ死にしかけた所を師匠に拾われたんだ。そこから師匠に生きるすべを教えてもらった」


「その生きるすべというのが傭兵として生きるためのスキルということでしょうか?」


「そういうことだ。だからそれ以外の職業なんて考えた事すらなかった。それに身元不明の人間を働かせるほど世の中は優しいとは思わないしな」


「なるほど、そういう職業に就いた理由はわかりました」


「その日は依頼人と会うことになっていたから、依頼人の指定した場所まで歩いて行っていたんだ。そして、夜を告げる鐘が鳴り響き・・・俺は・・・撃たれて死んだ・・・はず」


 俺は頭と胸を確かめた。苦しんで死んだ記憶はない、つまり即死と言うことだ。


 撃たれて即死する場所は頭か心臓ぐらいしかない。俺は俺が生きていることに疑問を抱き始めた。


 そうすると心臓の音が早くなり、息も荒くなる。


 背筋が凍るような冷たい汗をかいた後、俺は地面に吐瀉物を吐いた。


 俺の吐いた姿を見るなりアンダーは背中をさすってくれた。


 背中に広がる温もりは俺の戸惑いを緩和し、冷静さを与えてくれた。

初投稿なので温かく見守っていただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ