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新竹取物語

作者: 相良部 竜

久しぶりなんで読みにくいかもしれません

私に娘が生まれた。読み聞かせがよいと聞いて小さい頃からしてきた甲斐があって今では娘のほうからねだるようになってきた。基本的には妻にねだるのだが、娘の機嫌によっては私にねだることもあった。

ある日娘が竹取物語の絵本を持ってきた。刹那、私の中で泥のにおいと共にとある記憶がよみがえってきた。まだ小学生だった頃の話である。

春休み僕は祖父の家に毎年恒例のタケノコ堀りに行った。軽トラの運転席には祖父、助手席に父、そして荷台に僕と兄が乗って祖父が所有する山に向かった。祖父の家からはかなり距離があったはずだが、普段見ることのない荷台からの景色を見たり、時々覆いかぶさってくる木の葉っぱをよけたりしているとあっという間に山についた。車から降りると、これまたいつものごとく祖父と父は鍬をもって兄と僕にタケノコを見つけてくるように言った。食べごろのタケノコは地面から少ししか顔を出していない。しかも、たいてい落ち葉をかぶっているから、まず、タケノコがありそうな場所を丁寧に歩いて、足裏の感触を確かめ、突起物を踏んだら落ち葉をどかしてみてタケノコがあるかを確かめるのだった。そして実際にタケノコがあれば、祖父か父を呼びに行き掘り起こしてもらうのだった。兄と僕は、毎年どちらが多くのタケノコを見つけられるか勝負をしていたが、僕が兄に勝ったことは一度もなかった。しかし今年こそ兄に勝てる自信があった。というのも先日兄と父が会話しているのをこっそり聞いたからだ。その話によると、タケノコは、どうやら竹の木の根っことつながっているらしい。つまり、タケノコは竹が連なっているところの直線上にあるらしい。そのことを教えてくれなかった兄はひどい奴だと思ったが、今年はぎゃふんと言わせることができると思うと楽しみで仕方なかった。

祖父の合図と同時に僕は右に、兄は左に分かれた。これも毎年の恒例なのだ。そして去年タケノコを見つけたところ到着すると竹を探した。この時僕はなんだか不思議な気持ちになった。今までタケノコを見つけるためにずっと下を向いて山を歩いていたから、顔を上げたときに目に入った木漏れ日や、それを浴びながら鳴く小鳥の姿に、しばしの間我を忘れてその風景に没頭していた。しかし、竹を見つけるとそんなことは頭の片隅に追いやり、根っこがつながっているであろう別の竹を探した。二本目の竹を見つけると、なるほど一本目の竹より少し小さい。そのままたどっていけばタケノコにたどり着くはずだ。僕は竹のほうに歩いていき、そこから、次の竹に向かって歩き始めた。しばらく歩くと足の裏に何か感触を感じた。僕は急いで少し湿っている枯葉をどけた。するとタケノコがあるではないか。僕は小躍りになりながら、山の入り口に向かった。入り口には父しかいなかった。おそらく兄のほうが先にタケノコを見つけて祖父を連れていったのだろう。早くしないとまた兄に負けてしまう。僕はゆっくり歩く父をせかしながらさっき見つけたタケノコのところで父を案内した。祖父がタケノコを掘り起こす時間がもったいなく感じられたので、僕は父に別の場所へ探しに行くことを伝え、もっともっと奥に入っていった。

僕は一度も来たことのない場所まで来ていた。帰り道はしっかりと記憶していたのでへっちゃらだった。またしても竹を見つけた。今度の竹はさっきのよりも太かった。期待に胸を膨らませ、別の竹を探した。先ほどの場所よりも太陽が届かなくてひんやりとした場所だった。鳥の声も聞こえない。僕は一瞬ひるんだが兄に勝ちたい一心で竹を探した。さらに山奥のほうに竹はあった。僕は少し迷ったが勇気を出して進むことにした。少し進むと三本目の竹があり、その先に四本目の竹があるのが見えた。このままいっていいのか少し足を止めかけたが、勇気を振り絞って走り出した。五本目、六本目、七本目、どんどん竹を見つけて通り過ぎるが、いっこうにタケノコにたどり着かない。九本目を通り過ぎた後に気付いた。竹が太くなっていっている。一本目は腕より少し太いくらいだったのに、今では体ぐらいの太さまで太くなっている。戻らないと、そう思ったのだが何故か足が止まらない。どんどんと奥へ奥へと吸い込まれていくように竹に向かって走って行ってしまう。二十本目を過ぎたあたりで体の太さの倍になった。僕は目に涙を浮かべながらもさらに竹に向かって走っていく。すると突然竹が先にないことに気付いた。一番太い竹までたどり着いたのだと、そう思った。周りを見渡しても知らない景色で、日の光も届いていない。何かの唸り声まで聞こえてくる。僕はどうすることもできなくてただ立ち尽くしていた。まだタケノコを一つしか見つけていない。こんなのじゃ兄に勝てない。いや、そもそも家に帰れるのだろうか。こんなところはこの世に存在しているのだろうか。もしかしたらもう僕は死んじゃっててここは死後の世界なんじゃないだろうか。そんなことを考えると、涙がこぼれてきた。次から次へと涙が流れとめようと思っても止まらない。今までずっと走ってきたせいか、足に力が入らなくなった。思わず座り込むと。お尻のあたりに何か変な感触がした。まさかと思って枯葉をどけてみると、タケノコだった。それも顔を出している部分を見るだけで大きいと分かるタケノコだった。僕は立ち上がり一番大きい竹のまわりを歩き回った。するとあちらこちらに大きいタケノコが生えているではないか。それはとても不思議で美しい風景だった。枯葉をどかしたタケノコの頭は水滴がついていて、太陽は隠れているはずなのにその一粒一粒が光り輝いている。その光はどんどんと輝きを増してまぶしいくらいになり、しまいには目を開けていられなくなるほどになった。途端、僕に勇気と元気が溢れ、竹をたどってもと来た道を走りだした。竹を通り過ぎるごとに、竹が細くなってくる。あれだけ走った後なのに、なぜか疲れはなかった。今はこのすごい大発見を父に伝えることが何よりの優先事項であった。知っている場所まで戻ってきた。そこから一つ目のタケノコを見つけたところで祖父が待っているはずだったので、呼びに行った。父は僕を見て驚いた様子だった。体中が泥だらけなのだ。なぜそうなったかは分からないけど、今はそんなことはどうでもよくて、父を連れてさっきの場所まで連れていった。しかしどれだけ探しても竹が見当たらない。そこで父にさっき体験した話をしたが、全く信じてもらえなかった。そうこうしているうちに日が傾きかけたので、帰ることになった。兄は五つ、僕は一つでその結果に納得せず、半べそをかきながら荷台に乗り込んだ。帰り道は、ずっと泥のにおいがしていた。

祖父が他界して、山を手放してからもうずいぶんと経つが、結局真相は分からないままである。しかし、私にとってあれほど恐ろしく、あれほど美しいものを見たことはない。そして、私はあの山で見た水滴のまぶしさを一生忘れないだろう。


読んでいただきありがとうございました

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