交通事故
1892(明治25)年11月27日、日曜日の午後。
「章子、少し落ち着け」
皇居の奥御座所で、私は天皇と一緒に刀を見ていた……というより、見させられていた。
「分かってます。分かっているんですけど……」
眉をしかめながら答えた私に、
「起こるときは起こる、起こらない時は起こらない。そういうものであろう」
天皇は言って、手元の日本刀に目を落とした。「うむ、やはり刃文に気品があるな。章子、見てみよ」
(って言われてもさぁ……)
私は大きく息をついた。
今日は、原さんによると、“史実”で、その時総理大臣だった伊藤さんが交通事故に遭って、重傷を負う日だ。
――交通事故って……この時代だから、私の時代みたいに、自動車にぶつかった、というわけじゃないでしょう?今、日本に自動車は、親王殿下の家と国軍省に1台ずつしかないし……。
以前私が質問した時、
――確か、乗った人力車が、馬車とぶつかったはずなのだが……。
原さんはこう言って、ため息をついた。
――東京のどこで、どの馬車とぶつかったか、わたしの記憶から抜け落ちているのだ。
――へ?
――本当だ。伊藤さんが2ヶ月ほど療養して、その間は井上さんが総理代理に立っていた。しかし、伊藤さんが東京のどこで事故に遭ったのか、伊藤さんにぶつかった馬車が誰の所有物か、そこだけが記憶から不自然に抜けている。大津事件の津田三蔵の名前も、事件が起こるまで思い出せなかったのだが……。
いつも自信たっぷりの原さんが、いつになく弱気な声で答えた。
(大津事件の犯人が思い出せなかったって……)
――原さん、もしかして、“史実”で伊藤さんを殺した犯人の名前も、思い出せないんじゃないですか?
私が尋ねたら、原さんがぎょっとした顔をして、黙って頷いたけれど……。
もちろん、“史実”の伊藤さんの事故のことは、私が思い出したことにして、天皇にも伝えた。
けれど、
――人力車が馬車とぶつかる、か……。しかし、その日だけ、人力車と馬車の通行を禁じる訳にもいくまい。市民の生活に支障が出よう。それに、朕から言ったとて、外出を止める伊藤ではない。
と天皇は言った。
伊藤さんにも、再三注意はしたけれど、
――流石に、“史実”通りに、さような事故までが起こる訳は無いでしょう。増宮さまのご心配はよく分かりますし、感謝申し上げますが、国事で呼ばれれば動かざるを得ません。重々に気を付けますので、どうかご心配なさらずに。
毎回、こう言われてしまった。
(せめて、外出する機会が今日はないことを、祈るしかないなぁ……)
「起これば起こったで、仕方あるまい」
天皇は刀から目を離さずに言った。口許はハンカチで覆っている。
「枢密院は副議長に任せ、そなたと嘉仁の輔導の任は、一時的に威仁と大山に委譲すればよい。……狼狽えるな。そなたは、何があっても動じぬように、修業を積まねばならん。そのために今日は呼んだというのに」
「はあ……」
天皇の言葉に、私は渋々頷いた。“伊藤のことで、落ち着いていられないのであろうから、刀を見に参内せよ”と、私を呼んだのは天皇だった。
「前世では、かようなことをしておらぬというのは、承知しておる。しかしそなたが何と言おうと、今生では朕の娘なのだ。しかも“上医”になるのであれば、それに相応しき修練を積んでもらわねばな」
私は軽く頭を下げた。確かに、事件発生でいちいち慌てていたら、政治をするなどとても難しいだろう。
「あの、陛下、もし事故が起こってしまったら、“千島”は、長崎に来月初めまで留めて置くように、長崎にウナ電でご命令をお願いいたします」
「分かっておる。大事な軍艦を、無駄に沈めたくはないからな」
原さんによると、“史実”では、今月の30日に、長崎港から神戸港に向かっていた砲艦“千島”が、瀬戸内海でイギリスの船とぶつかって沈んでしまうそうだ。その“千島”が、最後の寄港地・長崎を出港するのが明日だ。伊藤さんの事故が発生した場合、“千島”の出港の日付をずらして、航路を太平洋経由に変更すれば、沈没を回避出来るのではないか……という可能性に賭けて、長崎にウナ電……至急電報で、すぐに連絡する手はずになっていた。
「しかし、章子、前から言いたかったのだが……」
天皇が口を再び開いた時、廊下でバタバタ足音がして、
「申し上げます!」
と、侍従職出仕として宮中に詰めている学習院の生徒がやって来た。室内に私の姿を認めた彼は、顔を青ざめさせた。
「どうした……そなた、章子に怯えておるのか」
「い、いえ」
青ざめたまま首を左右に振る出仕の生徒を見て、
「仕方ありません、陛下。慣れております」
私は苦笑した。学習院の生徒の、私へのビビりっぷりは、最近ますますひどくなる一方だ。
「で、いかがしたのだ?」
天皇が出仕の生徒を振り返る。ハンカチは口元から下ろしていた。
「伊藤枢密院議長のお乗りになった人力車が、総理大臣官邸から出たところで馬車にぶつかり、伊藤閣下が重傷を負われたとのこと!ただいま、総理大臣官邸にて、手当てを受けていると……」
「!」
(やっぱり……!)
私は立ち上がった。「陛下、伊藤さまのお見舞いに行って参ります」
「そうか……章子の馬車を用意するように言ってこい」
天皇の命に、出仕の生徒は廊下を駆けていく。
「章子」
天皇が私を呼んだ。
「狼狽えるな。“史実”でも、伊藤はまだ死なぬ」
「そうですけれど……“史実”通りにも死んでほしくないですよ、伊藤さんは。もちろん、陛下も。長生きしてもらわないと」
“梨花会”のメンバーのうち、私が“史実”での死期を正確に把握しているのは、三条さん、児玉さん、原さん、そして伊藤さんと天皇だ。他のメンバーについても、原さんは何人かの“史実”での死期を知っているようなのだけれど、
――既にあなたは、三条公の寿命を伸ばしているゆえ、教えても参考にならぬであろう。
と言って教えてくれない。確かに、“史実”とは、かなり歴史も変わっているから、彼の言う通りかもしれない。
「長生きか。嘉仁のことはあまり心配しておらぬが、そなたに怯えぬ夫を探さねばならぬゆえ、確かにまだまだ死ねぬな」
天皇が微笑した時、出仕の生徒が、馬車の準備が整ったと告げに来た。
「では、行って参ります。またいずれ、陛下」
私は天皇に一礼して、奥御座所から退出した。
「伊藤さまの御容態は?!」
永田町の総理大臣官邸に着くと、私は早速職員さんを捕まえた。職員さんは一瞬目を見張ったけれど、すぐに、
「増宮殿下……それが、気を失ったままでして」
と答えてくれた。
「案内して、早く!お願い!」
私は職員さんの後に続いて、伊藤さんがいる部屋に入った。
「増宮さま!お早いご到着で……」
既に井上さんが、部屋の中にいた。山田さんと黒田さんもいる。山縣さんは、血の気の失せた顔で、ベッドに寝かされている伊藤さんをぼんやり眺めていた。ベッドの側にいる女性は、伊藤さんの奥さんの梅子さんだ。一度だけ、会ったことがある。彼女の隣には、黒田さんの奥さんの滝子さんがいた。
「奥様、伊藤さまの側に寄っても、よろしいですか?」
「殿下……わざわざのお運び、恐縮でございます。どうぞ」
梅子さんが私に頭を下げた。私はベッドの側まで来ると、伊藤さんを観察した。右の頬に、青アザが出来ている。唇の辺りには、血の流れたあとが見えた。
「怪我をした詳しい状況って、誰かわかりますか?」
「官邸から自分の家に戻ろうと、人力車に乗って門を出たところで、馬車が横から突っ込んで来たらしい」
井上さんが説明してくれた。「ぶつかった馬車は、小松宮家のものだとか」
(宮家の馬車か……)
私は軽くため息をついた。いくら人力車と馬車の通行を制限しても、宮家所有のものなら、通行制限を無視して走っても咎めようがない。
「で、地面に落ちたんですか?」
「という訳ではなくて」滝子さんが言った。「正確には、人力車ごと横倒しになったそうです。歯を何本か折って、アザができた他には傷は……」
「みたい、ですね。頬は目立つけど」
私は伊藤さんの頭側に回って、傷が無いかを確かめた。見える範囲では、頭部には他にキズは無さそうだ。でも、頬にアザがあって、歯が折れたということは、頭部に衝撃は加わったはずだ。
「気を失ってから、時間はどのくらいたったのかしら?」
「40分ほど、です……」
山縣さんがポツリと呟いた。眉が明らかに曇っている。
(ああ、そうか、息子さんの件……)
山縣さんは、先々週、3歳の息子さんを亡くしている。山縣さんには7人お子さんがいたのだけれど、その息子さんが亡くなったことで、生き残っているのは、14歳になる次女の松子さんだけになってしまったそうだ。そこに、今回の伊藤さんの事故である。山縣さんは、本当に辛いに違いない。
伊藤さんが、単に脳震盪を起こして、気を失ったのだったらまだいい。問題は、急性の脳内出血や、硬膜外血腫が起こっていた場合だ。この時代で、脳内の血腫除去手術は、相当危険な治療だ。術創からの感染を押さえるための抗生物質だって、まだ完成していない。北里先生が、研究に着手してくれて、既にペニシリンの分離に取り掛かっているけれど……。
「私のせいだ……」
私は、伊藤さんが寝かされているベッドの側でしゃがみこんだ。
「私が、もっと強く、伊藤さまに言っていれば……」
「増宮さま!」
黒田さんが、頭を横に振りながら叫んだ。
「それならば、罪の過半は俺にあります。明後日から議会が始まる故、伊藤さんに相談をしておこうと、電話をしてしまったのが悪いのです。“それではこちらが総理官邸に行く”と答えられてしまい、止めようとしたのですが、電話が切られてしまい……」
「でも、それはしょうがないでしょう、国事なんだから!」
「しかし……」
黒田さんが私の言葉に反論しようとしたところに、
「黒田さん、落ち着いてください。増宮さまも」
山田さんが静かに割って入った。私も黒田さんも、口を閉ざした。
「伊藤さま……」
私は立ち上がって、伊藤さんの顔をのぞき込んだ。
「お願い、目を覚まして……」
私の目から涙が溢れた瞬間、
「あなた……!」
梅子さんが、叫んだ。
「バカな奴じゃ……」
ベッドの上で、伊藤さんが、目を開けていた。
「伊藤さま!」
私は、伊藤さんに更に体を近づけた。
「俊輔!」
「目を覚ましたか……全く、心配させやがって」
山縣さんと井上さんも、ベッドに近づく。
すると、伊藤さんの視線が、私の顔の上に止まった。
「ほう……死んだら地獄行きとばかり思っていたが、ここは極楽か?」
「何言ってるの、伊藤さま。地獄でも極楽でもないです。この世です、この世。あなた、ちゃんと生きてますから。頭は痛くない?吐き気はしない?」
「この世?しかし、ハルビンに、こんなに素晴らしい美少女がいるとは……若紫もかくや、いや、それをはるかに上回る」
体を起こした伊藤さんが、いつのまにか、私の手を握っている。
「わかむらさき?」
首を傾げた私の顔に、伊藤さんはじっと視線を注いだ。彼の顔は紅潮していた。
「君、わしと一緒に、日本に来ないか?何一つ、君に不自由な思いはさせず、幸せにすると誓おう。どうか、わしの思いを、受け入れてはくれまいか」
「は……?」
「「俊輔ーっ!!」」
山縣さんと井上さんが、同時に動いた。山縣さんは私を守るかのように抱き寄せ、井上さんは伊藤さんの手を、私の手から無理やり離した。
「貴様……事もあろうに、梅子さんの前で、増宮さまを口説こうとするとは!輔導主任であろう!」
山縣さんが叫ぶ。
「く、口説く?私を?!……伊藤さま、いろんな意味で大丈夫?!」
養育係が、養育している子供を口説くのも問題だけど……いや、そもそも私の身体、まだ9歳なんだぞ?!
「伊藤さん……」
「見損ないました……」
黒田さんと山田さんは、深い深いため息をついていた。
「狂介?何故ここにいる。日本から見舞いに来てくれたのか?」
不思議そうな顔で、伊藤さんは山縣さんに問いかけた。
「訳の分からぬことを。ここは東京だぞ、俊輔」
「そうだ。お前は、人力車に乗って、総理大臣官邸の門を出ようとしたところを、馬車に突っ込まれて、地面に投げ出され、今まで気を失ってたんだ」
井上さんが説明しながら、伊藤さんが私に向かって伸ばそうとする手を、必死にブロックしている。
「や、山縣さま……伊藤さまがちょっと怖い……」
「大丈夫です、増宮さま。大山どのには及びませぬが……この山縣、一介の武弁として、増宮さまをお守り申し上げます!」
山縣さんが、よりきつく、私を抱き寄せた。
「人力車……?汽車ではなく?そうだ、川上と……室田は無事か?満鉄の中村は?ココツェフどのは……」
「ココツェフ……?」
いきなり、聞いたことのない人名が、伊藤さんの口から飛び出した。さっきも、「ハルビン」とか言ってたし……え?
(ハルビンって……“史実”の伊藤さんが、殺された場所じゃ……)
まさか……まさかとは思うけれど、……原さんの例もあるし……。
「……奥様、ごめんなさい、伊藤さまに雷を落としたいから、滝子さんと一緒に、席を外してください」
「分かりました。全く、玄人の女ならともかく、よりによって、殿下を口説くとは……どうぞご存分に、懲らしめて下さいませ」
梅子さんが、ため息をつきながら部屋を出ていく。その後ろに滝子さんが続いた。
「増宮さま?一体、どうされたのですか?」
黒田さんが、首を傾げながら私に尋ねる。それに構わず、私は伊藤さんに向かって口を開いた。
「伊藤さん、今日は、明治25年の11月27日。あなたが“史実”で暗殺された、西暦1909年……明治42年ではないわ。それに、ここは東京の、総理大臣官邸。ハルビン駅じゃない」
「な……に?」
伊藤さんが、目を丸くした。
「それで、多分私の存在が、一番不思議なんだと思うけれど、私の名前は章子。称号は増宮。陛下の、実質的な長女です……ごめん、生まれた順番、正確には何番目でしたっけ?」
「第4皇女であらせられます。覚えてください」
山縣さんが、重々しく言う。……そろそろ、私を抱きしめるのをやめてほしいのだけれど。
「それで、あなたの今の役職は、枢密院議長兼、東宮大夫兼、私の輔導主任です。内閣総理大臣ではありません。それも、混乱のもとになっていると思うけれど」
「総理大臣?俊輔は、総理大臣をやめてから大分経つが……」
「ごめん、井上さん、ちょっと黙って。それ、伊藤さんを更に混乱させるから」
「増宮……さま?」
伊藤さんが呟いて、右手で額を押さえた。
「そうだ……増宮さまだ。確かに今は、明治25年……しかし、一体この記憶は……?」
「伊藤さん……もしかして、記憶が流れこんで来たの?立憲政友会を設立して、初代韓国統監を務め、ハルビン駅で暗殺された、“史実”のあなたの記憶が……」
「は?」
「記憶が、流れ込む?」
きょとんとしている大人たちの視線の真ん中で、
「ふむ……いかにも。その表現が、一番しっくりきますな、増宮さま」
伊藤さんが、頷いた。
「つまり……俊輔は、今までの記憶と、増宮さまのおっしゃる“史実”の世界で生き、そして死んだ記憶と、両方持ち合わせている、ということか?」
私と伊藤さんの説明を聞いた山縣さんが、話をまとめた。
「そういうことになります」
私は首を縦に振った。「私以外の人では、初めてだけど」
本当は、原さんがいるけれど、私と大山さん以外には秘密だ。
「今、かなり混乱していますよね、伊藤さん。流れ込んだ“史実”の記憶と、今までこの世界で生きたあなた自身の記憶は、憲法発布以降、大分食い違っているはずだから」
「おっしゃる通りです。条約改正は、今のように成功しておらずに、黒田さんの内閣は、瓦解しておりましたからな。大津事件では、ニコライ皇太子が負傷されて、陛下が東京から急ぎ行幸されて、お見舞いなさいましたし……そして、今の時点での総理大臣は、この伊藤自身でした。総理大臣官邸から本邸に戻ろうと、人力車に乗って門を出たところで、同じように事故に遭いました。……そう、今日。今日、この官邸を出たのと、同じ時間です」
「そうか……」
私はため息をついた。伊藤さんは、現在は総理大臣ではない。けれど、“史実”で事故が起こったのと同じ時間に、人力車で総理大臣官邸を出てしまった。
(その人を取り巻く状況が多少変わっていても、事故は生じてしまう可能性が高い、ということね……)
「しかし、一番重要なことは、増宮さまは、“史実”ではとうに亡くなっていらしたこと……」
伊藤さんは、顔をしかめながら言った。
「な?!」
「そんなバカな!」
私と伊藤さん以外の全員が叫んだ。
「皆、落ち着いてください。伊藤さんの頭に刺激になっちゃうから、声、押さえて下さい」
私は大人たちを止めた。伊藤さんは、脳震盪を起こした直後だ。脳の刺激になることは、極力避けたい。
「そうか、私って、“史実”ではとっくに死んでたのね」
私は初めて聞いた風を装い、ため息をつきながら言った。そのことはもう、知ってはいる。けれど、それは原さんから聞いたことだから、秘密にしておかなければならない。
「そのことが伊藤さんにとって、一番重要かどうかは、大いに疑問があるけれど」
「最重要でございます!」
伊藤さんは語気を強めた。「かようにご聡明で、美しいプリンセスがいらっしゃればこそ、この伊藤の人生に、大いに張りが出るというもの」
「また大袈裟な。……伊藤さん、やっぱり頭が混乱しているみたい。1、2ヶ月、ゆっくり休養したら?」
「この伊藤は、“史実”でも今生でも、世辞は使わぬことにしておりますが」
伊藤さんがムスッとする。
「じゃあ、脳震盪の影響で、感覚が狂っているんですよ。医学的な意味で、休養をとるべきです。脳震盪が起こったんだから、今後、頭痛やめまいが出るかもしれない。外界からの刺激も、少しずつ慣らしていく感じにしないと、大変ですよ。あと、慢性硬膜下血腫っていう外傷性の障害が出ることもあるの。頭を打って、1、2ヶ月してから、手足の麻痺が出たり、頭がボーッとしたりすることがあるんだけれど……その症状が出ないか、見極めないといけないから、枢密院は副議長に、花御殿は大兄さまと大山さんに任せて、休養を取ってください。いいですか?」
「増宮さまに言われては、仕方がありませんな。“史実”でも、2ヶ月ほど静養しましたから、今回も、そのくらい休みましょうか。色々と、“史実”のことと照らし合わせて、考えをまとめたいこともありますし」
「まだ、頭はたくさん使わない方がいいですよ。あなたは、この日本にとって、大事な人なんだから、しっかり休んでちょうだい」
そう、伊藤さんは、“史実”でも、この世界でも、一流の政治家だ。
それが、“史実”の記憶と経験を、更に加えたのだ。
(この人……本当に、大事にしないと、な)
私は、自分の輔導主任に、深々と頭を下げた。
※砲艦“千島”がイギリスの船とぶつかって沈没した事件は、実際には領事裁判権が設定されていたため、裁判をめぐって帝国議会で騒動になり、衆議院解散に至りました。
※そして、山田さんは何気に寿命延長しています。本来であれば、この月の11月11日に亡くなっています。




