ドイツ(5)
1916(明治49)年10月19日木曜日午前10時、ベルリンからドイツ帝国北部にあるメクレンブルク=シュヴェリーン大公国に向かって走る特別列車の車内。
「……あの、栽さん」
貴賓室で、私は向かいの椅子に座って窓の外の景色を眺めている夫に、勇気を出して声を掛けた。
「何?」
外に向けていた視線を私に固定した夫に、
「本当に……明日、シュヴェリーン大聖堂についてくるの?」
私は恐る恐る確認した。
「もちろんだよ」
夫は私に即座に答えた。「梨花さんを守らないといけないから」
今、貴賓室には、私と夫以外の人間はいない。この車両にいるべき輝仁さまが、列車がベルリンのポツダム駅を出発した時に、隣に連結された一等車に乗ってしまったからだ。これは、今までに無かったことだった。
「んー……でも……私が医学関係の研究所を見学した時、栽さんはついて来てくれなかったよね」
私は慎重に言葉を選びながら夫に話しかけた。
「大山閣下がいらしたからね」
夫の短い言葉に、
「じゃあ、今回も、栽さんが私についてくる必要は無いと思うよ?大聖堂に行くのは、医学関係の研究所に行くのと同じで、私だけに関係がある用事だし、それに、大山さんも大聖堂についてきてくれるから……」
私は何とか論理を作って説得を試みる。けれど、
「梨花さん」
栽仁殿下の声で、私の口の動きは止まった。
「ついて行くと言ったら、ついて行く。そう決めたんだ。この決定は変わらないからね」
夫は真っすぐに私を見つめ、強い調子で言う。その目の光に委縮してしまい、私は「は、はい……」と力無く頷くしかなかった。
(まいったなぁ……)
栽仁殿下から逃げるように、窓の外に視線を泳がせると、私はそっとため息をついた。
今日のお昼過ぎには、目的地であるメクレンブルク=シュヴェリーン大公国の首都・シュヴェリーンの街に到着する。この街は、21年前の1895(明治28)年、日本を訪れたフリードリヒ・ヴィルヘルム殿下の故郷であり、事故死した彼のご遺体が葬られているところだ。今日の夜は、現在の大公であるフリードリヒ・フランツ4世との晩餐会に臨む。そして、明日の午前中、フリードリヒ殿下の墓所があるシュヴェリーン大聖堂を訪問し、シュヴェリーン市内を視察した後ベルリンに戻る……これが大公国での予定のすべてだった。
今朝、ベルリン市内のホテルを出発した時から、夫とは、ほとんど話ができなかった。日本を出発してそろそろ3か月になるけれど、この旅行中、こんなことは1度も無かった。
実は、夫には、フリードリヒ殿下のことは余り話していない。だから、私の今生の初恋の人だということは知っているけれど、それ以上の詳しいことを彼は知らない。私がかつて恋していた男性のことを詳しく話せば、栽仁殿下は不愉快になるだろうと思ったからだ。フリードリヒ殿下のお墓参りをすることを、栽仁殿下は快く許してはくれたけれど、フリードリヒ殿下のことで、栽仁殿下を変に刺激したくはない。だから、フリードリヒ殿下のお墓参りにはついて来なくていい……ホテルを出発してから2時間ほどが経過した今、ようやくその言葉を口に出すことができたのだけれど、栽仁殿下に、私について行かないという選択肢は無いようだった。
(これ以上の説得は無理だな……話をしたら、フリードリヒ殿下のことが絶対出てきてしまう。それは避けないと……)
窓の外をのぞくと、ドイツ北部の農地や森林の様子がよく見える。バイエルンで見たものとはまた違う景色を、向かいに座っている人とおしゃべりをしながら楽しむと言う気分にはどうしてもなれず、私はシュヴェリーンに列車が到着するまで、車窓をぼんやり眺め続けていた。
シュヴェリーンの街にあるシュヴェリーン中央駅に、私たちが乗った特別列車が到着したのは、正午過ぎのことだった。
シュヴェリーン中央駅には、大公であるフリードリヒ・フランツ4世自らが出迎えに来てくれた。大公は私より1つ年上の34歳。先代大公の死により、15歳で大公となった彼は、実際の年齢より少し老けて見えた。
『わざわざシュヴェリーンまで、亡き叔父のためにおいでいただき、ありがとうございます』
大公は輝仁さま、次いで栽仁殿下と挨拶を交わすと、私の前に来てドイツ語で言った。
『いえ……突然訪問を申し入れましたから、そちらにご迷惑ではないかと心配しておりまして』
私が恐縮しながら答えると、
『とんでもございません』
大公は即座に私の言葉を否定した。
『叔父が事故死してから、もう19年になります。私の父の死から、半年も経たずに亡くなってしまったので、私も強い衝撃を受けました。年月が経つにつれ、叔父のことを思い出してくれる人も少なくなっていますが、貴女は幼いころに会った叔父のことを覚えていてくださって、こうしてシュヴェリーンに来て下さった。本当に感謝申し上げます、妃殿下』
『ありがとうございます。そうおっしゃっていただいて、少し気が楽になりました』
私は大公に一礼すると、更に喋ろうとした。フリードリヒ殿下に関する思い出を、何か大公が持っていないか……それを確かめたくなったのだ。けれど、
(ダメよ、それは……)
私は口を閉じると、首を左右に振った。そんなこと、聞ける訳がない。夫がいるところで、夫の前で……。
「章子さん、どうしたの?」
私の様子を見た栽仁殿下が不思議そうに尋ねる。私は「何でもない」と短く答えると、視線を彼から逸らした。
一度ホテルに入って着替えをしてから、私たちは馬車で大公の住むシュヴェリーン城へ向かった。シュヴェリーン城は、シュヴェリーンの街のすぐそばにあるシュヴェリーン湖に浮かぶ小島の上に建設されたお城だ。湖畔から城へと通じている橋を馬車で渡ったのは日没が迫った頃だったけれど、壮麗なシュヴェリーン城は、夕日でキラキラ光る湖に浮かんでいるように見えた。
「まぁ、何て美しいのでしょう!“おとぎ話の城”と呼ばれるのも納得ですね!」
馬車に陪乗してくれている平塚さんが、窓の外を見て感嘆の声を上げるのを聞きながら、
(フリードリヒ殿下は、こんなに美しいお城に住んでいたのね……)
私はぼんやり考えていた。
(フリードリヒ殿下と結婚していたら、ここに殿下と一緒に住んでいたのかしら……い、いやいや、殿下にはお兄さんが何人もいるし、私だって、日本を長く空けられないから、このお城に住むなんてありえないけれど……)
そこまで考えを進めて、ハッと気が付いた私は、自分の右頬を自分の手で2、3回たたいた。私は一体、何を考えていたのだ。夫の前で……愛する夫の前で、こんなことを……。
「章子さん、大丈夫?何かあった?」
隣の席に座る栽仁殿下が、驚いたように私を見つめる。
「な、何でもない、何でも……ちょ、ちょっと、眠くなったから、眠気覚ましに……」
私は慌ててこう誤魔化して、窓の外に視線を逃がす。すると、どうしても、青い屋根のシュヴェリーン城の姿が視界に入ってしまう。
(フリードリヒ殿下は、私のことを許してくれるのかしら。殿下以外の愛する人と結婚した私を……)
“湖上の宝石”とも称される、壮麗なシュヴェリーン城……。その美しい姿から、私は目を離すことができなかった。
1916(明治49)年10月20日金曜日、午前9時半。
「宮さま、本当に大丈夫ですか?」
シュヴェリーン大聖堂に向かう馬車の中。私の前の席に座っている千夏さんが、心配そうに私に尋ねた。
「ええ、大丈夫よ」
紺色の通常礼装を着た私がニッコリ笑って頷くと、千夏さんは「でも……」と言いながら、左右に首を振った。
「宮さまのお顔色が、余り良くないように思います。もしかして、ご体調を崩されたのではないですか?何だか、目の周りも、少しくぼんでいるように見えますし……」
「ああ、夕べの寝つきが、余り良くなかっただけよ。身体は至って元気だわ」
笑いを崩さないように注意しながら、私は千夏さんに答えた。
すると、
「本当に、寝つきが悪かっただけなの?」
私の隣に座る栽仁殿下が、私をじっと見つめた。「今朝、僕が目を覚ました時には、章子さん、起きていたけれど……ずっと眠れなかったわけじゃないよね?」
「眠っていたわ、ちゃんと」
……嘘だ。本当は、まったく眠れなかったのだ。寝床に入ってから、どうしてもフリードリヒ殿下のことを考えてしまい、眠気がちっとも訪れなかったのだ。夜中、隣で寝ている栽仁殿下の寝息が聞こえていたのは微かに覚えているけれど、彼と“おやすみ”“おはよう”と挨拶を交わしたのか……私の記憶は曖昧になっていた。
けれど、それを悟られる訳にはいかないので、必死に微笑んでいると、
「……気分が悪くなったら、ちゃんと言うんだよ、章子さん」
栽仁殿下は私の右手を握りながら言った。「そうじゃないと、倒れても急に支えられないからね」
「うん、大丈夫、大丈夫だから」
必死に誤魔化して、栽仁殿下の追及を振り切ろうとした時、馬車はちょうどシュヴェリーン大聖堂に到着した。夫はいつものように、馬車から降りると私をエスコートして歩いて行く。彼に手を握られているのが、とても申し訳なく思えた。
シュヴェリーン大聖堂は、高い尖塔を持つ、レンガ造りの建物だ。尖塔は近年建設されたものだけれど、大聖堂自体は、現在の姿になって約500年が経過しているのだそうだ。だから、古くからこの地を統治していたメクレンブルク家の人が何人も葬られ、彼らの棺は大聖堂の中に安置されている。そして19年前、その中の1人に、フリードリヒ殿下が加えられたのだった。
大聖堂の一角に、フリードリヒ殿下のご遺体が納められた石棺が安置されていた。赤茶色の落ちついた色合いの石材で作られた棺のそばに、準備してもらった花輪を私が置こうとすると、
「僕も手伝うよ」
私の隣にいた栽仁殿下が一歩進み出た。
「いや、いいよ。私がやる」
断ろうとすると、
「手伝うよ。僕は章子さんの夫なんだから」
栽仁殿下は私の持つ花輪の端の方をしっかりつかんでしまった。
「ダメよ。あなたに、こんなことまでさせられない……」
抗議したけれど、
「手伝うよ」
栽仁殿下はもう一度、力強い声で言うと、じっと私を見つめた。観念した私は黙って頷くと、栽仁殿下と一緒に花輪を置き、そして、フリードリヒ殿下の石棺に向かって深く頭を下げた。
(殿下……)
頭を下げたまま、心の中で呼びかけると、幼いころ、皇居にやって来たフリードリヒ殿下を、兄と一緒に案内して回った時のことが脳裏に蘇った。私の趣味丸出しの言葉にも呆れることなく、会話を続けてくれた優しい殿下。“医師になりたい”という、皇族としても、この時代の女性としても常識を飛び越えてしまっている私の夢を、“応援しています”と微笑んで言ってくれた殿下。私の誕生日に殿下が贈ってくれたジュエリーボックスに隠されていた手紙から始まった文通……幼いころの甘酸っぱい思い出が、次々と記憶の中から呼び出されて眼前に展開する。そして、19年前のあの日、彼の訃報を聞き、悲しみと苦しみに沈んだことも……。
(殿下、ごめんなさい……)
膨れ上がる心の痛みに耐えながら、私は物言わぬ石棺に呼びかけた。
(私が奥手なばっかりに、殿下のことを好きだって言えなくて、ごめんなさい……)
自分の頬を涙が伝ったのが分かった。けれど、私はそれを拭うことはできなかった。
(殿下が亡くなってから、私、結婚しました。殿下も許してくれるだろう、そう考えて、好きになった人と、結婚しましたけれど……。それで、よかったのでしょうか?)
「宮さま?」
千夏さんの声が、遠くの方で聞こえた。そろそろ、ここから去らないといけないらしい。
(殿下は私を……許してくれますか?)
頭を上げた時、景色が一瞬歪んだ。次の瞬間、
「章子さん!」
私の身体に、急に力が加えられる。私を呼んだのは誰だろう、と私が思ったのと同時に、私は栽仁殿下に、しっかりと抱き締められていた。
「章子さん、大丈夫?!」
私を抱き締めた栽仁殿下は、私に大声で言う。彼の表情には余裕が全く無かった。
「栽さん……」
「頭がふらついていたよ!ねぇ、やっぱり、具合が悪いんでしょ?!」
「い、いや、大丈夫よ、栽さん……。多分、立ちくらみを起こしただけだよ。色々、思い出したし、それに、昨日、寝てないから……」
何とか、夫を落ち着かせなければならない。私が必死に状況を説明していると、栽仁殿下の表情が、急に険しくなった。
「章子さん。やっぱり、夕べは眠れていなかったんだね」
「あ……」
隠していたのに、自分から白状してしまった。この状況をどうやって弁解しようかと考えようとした矢先、私の足が床から持ち上がった。
「え……ちょ、た、栽さん?!」
予告なしに、いきなり横抱きにされてしまった私は、抗議の叫びを上げたけれど、
「どこか、横になって休める場所はありませんか?」
栽仁殿下はそれを無視して、随行員や、案内してくれた大聖堂の職員たちに大声で問い掛けている。
「栽さん、下ろしてよ!私なら、大丈夫だから!」
「大丈夫かどうかの判断は、西郷医務局長が下すものでしょ?」
再び私が抗議すると、栽仁殿下は私を抱えたまま、冷静に反論した。
「それに、身体が大丈夫でも、心は大丈夫なの?」
栽仁殿下の質問に、私は黙り込んでしまった。確かに……フリードリヒ殿下が亡くなった時のことを思い出して辛いし、そんな思いを抱いている自分の姿を夫に見せてしまっていることが申し訳ないし、その夫に“お姫様抱っこ”をされてしまっていて恥ずかしいし、色々な方向の感情がごちゃ混ぜになり、訳が分からなくなっている。
「そ、それは……栽さんには、関係ないことだから……」
だけど、混乱しているこの状態を、夫には見せたくない。何とかこう突っぱねてみたけれど、
「関係あるよ。あなたは僕が唯一愛している女性なんだから」
栽仁殿下は一撃で、私の言葉を止めてしまった。
「列車がシュヴェリーンを発車するまで、しっかり休むんだ。僕もそばについているから」
栽仁殿下は私の目を覗き込みながら命令する。私は黙って頷くしかなかった。
1916(明治49)年10月20日金曜日午前10時10分、シュヴェリーン大聖堂。
「……それで、フリードリヒ殿下が亡くなった時に、私はやっと、彼が好きだったということに気が付いたの」
「うん」
私と栽仁殿下は、大聖堂の応接室にいた。本当は、大聖堂に寄った後は、シュヴェリーン市内の視察をする予定だったのだけれど、視察は輝仁さまに任せて、私と栽仁殿下は応接室で休憩することになったのだ。そして、西郷医務局長が私の診察をして、“寝不足の他は問題なし”という判断を下した後、私は栽仁殿下と2人きりになった応接室で、栽仁殿下の求めに応じて、フリードリヒ殿下に関わる私の記憶を話していた。
「亡くなった知らせを聞いてから何日かは、ずっと泣いていたのだけれど……ねぇ、栽さん、本当に、こんなことまで話していいの?」
私は困惑しながら栽仁殿下に再度確認した。
「こんな……栽さん以外の男の人を好きになった話なんて、栽さんが不愉快になるだけだよ……」
すると、
「僕は一向に構わない」
私の身体を抱き寄せている栽仁殿下は、私の目を真っすぐ見ながら答えた。
「梨花さんが、僕のことを思って、今まで僕にフリードリヒ殿下のことを詳しく話さないでいてくれたのは、とてもありがたいと思う。でも、僕は、梨花さんのすべてを知って、その上で、梨花さんのすべてを愛したいんだ」
「?!」
思わぬ言葉に、目を白黒させていると、
「だから、ちゃんと続きを話して。もし、辛くなったら、僕が梨花さんを癒すから」
栽仁殿下は強い口調で、私に更にこう言う。
「……彼が亡くなってから時間が経っても、心の痛みは消えなかった」
私は苦しいやら恥ずかしいやら暖かいやら、滅茶苦茶な感情の中で、必死に夫の要望に応え始めた。
「ハインリヒ殿下が、ヴィルヘルム皇太子殿下との縁談を、皇帝の命令で持ってきたことがあったの。でも、その時は、“ドイツに行ったら、フリードリヒ殿下の面影を探してしまうから、皇太子殿下を本当に愛することはできない”と言って、お話を断ったの。何年か経った後、マリーの旦那さんの従弟に会った時も、全然似てないのに、彼をフリードリヒ殿下だと間違えたし……。彼が亡くなってから数年は、私の結婚を、フリードリヒ殿下は許してくれるのか、ずっと悩んでいたわ。こうして、栽さんが私を愛してくれて、私も栽さんのことを好きになって、結婚したわけだけれど、それを、フリードリヒ殿下は許してくれるのか……。許してくれると信じたけれど、本当に許してくれるのか、心のどこかで、今も引っかかっていたのだと思う。だから、シュヴェリーンに向かう時から、フリードリヒ殿下が私を許してくれるのか、ずっと悩んでしまって……」
すると、
「それは許してくれるに決まっているさ」
栽仁殿下がさらっと言った。
「え?!た、栽さん、それは……栽さんに都合よく解釈をして……」
「もちろん、フリードリヒ殿下に対して僕が嫉妬していないと言ったら、嘘になる。梨花さんを、こんなに想い煩わせているんだもの」
私の喘ぐような反論に、栽仁殿下は悪戯っぽく微笑すると、
「でもね、フリードリヒ殿下と僕とで、梨花さんを愛しているということは共通している。そして、もし僕が、フリードリヒ殿下と同じように死んでしまっていたなら、梨花さんが他の愛する人と結婚して幸せになるのを妨げはしないよ。もちろん、梨花さんとは、お互いがおじいちゃんおばあちゃんになるまで、ずっと生きて愛し合いたいと思っているけどね」
優しい声で私に言った。
「栽さん……朝っぱらから、こっちが恥ずかしくなるようなことを言わないでよ……」
顔を真っ赤にした私は、弱々しく夫に抗議した。
「眠れてないのに“眠った”ってウソをついた罰だよ」
夫は微笑を崩さずに私に答えると、
「だから、僕はこう思うんだ。僕たちが愛し合って、一緒に前に向かって進んで幸せになることが、フリードリヒ殿下の願いなんじゃないかな、って」
そう言って、真正面から私を見つめた。
「そうね……」
私は静かに頷いた。頭を動かした拍子に、右目からポロリと涙がこぼれ落ちる。それをそっと拭ってくれた夫の手は、優しくて力強く、そして暖かかった。
「梨花さん。あなたのこと……あなたのすべてを、心から愛しているよ」
夫の情熱的な囁きに、
「ありがとう、栽さん。私も、栽さんのこと、心から愛しているわ……」
私も万感の想いをこめて応えたのだった。




