東小松宮(ひがしこまつのみや)さまと婚約者
1915(明治48)年1月2日土曜日午前11時、東京市麻布区盛岡町にある有栖川宮家盛岡町邸の応接間。
「で、相談って何だい、輝久?」
私と栽仁殿下の前には、1等巡洋艦“磐手”に所属している海兵中尉の東小松宮輝久王殿下がいた。普段は佐世保にいる彼は、新年拝賀に参列するために年末から上京していたのだけれど、昨日の夕方、“相談したいことがあるから、明日そちらに行く”と電話を掛けてきたのだった。
「ああ」
栽仁殿下の問いに頷いた輝久殿下は、私の方を見て、
「姉宮さまに話して、大丈夫かなぁ……」
と首を傾げた。
「ああ……国軍の機密事項に関わる話かしら?」
私がこう聞くと、
「いや、そうじゃないんですけど……」
輝久殿下は顔をしかめ、
「これを話したら、姉宮さまが倒れちゃうんじゃないかと思って」
と、私を見つめながら心配そうに言った。
「わ……私が倒れるようなこと?!」
一体、どんなことを相談したいのだろうか。私が倒れること……それならきっと、私が驚いてしまうようなことだから……。
「も、もしかして、佐世保の艦隊でペストが発生したの?それとも、原因不明の奇病が蔓延して、内々に私たちに相談したくて……」
「違います」
私の言葉に、輝久殿下は即座に反応すると、
「相変わらず、こっちの方面だと察しが悪いですね、姉宮さまは」
私に苦笑いを向けた。
「栽仁、姉宮さまとの生活、苦労してるんじゃないか?まぁ、もう子供もいるし、何とかなってはいるんだろうけど」
「これでも、だいぶ僕に応えてくれるようになったよ」
栽仁殿下は学習院初等科以来の親友に、穏やかな微笑で応じた。
「それに、察しが悪い方が、愛情の注ぎ甲斐があるよ。それに、僕はそんなところも含めて、章子さんのことを全身全霊で愛しているからね」
(あ、恋愛の話か……)
ここまで栽仁殿下が言ったので、輝久殿下が話したい内容は私にも察することができた。今朝、栽仁殿下がいつもの“おまじない”を掛けてくれたから、思考が熱で止まることはないけれど、やはり、恋愛の話は、可能なら避けて通りたい。
「わ、私、席を外すね……男同士で話す方がいいこともあるだろうし……」
赤くなってしまった顔を隠すようにしながら椅子から立ち上がった時、
「ダメだよ、章子さん」
栽仁殿下が、私の右手をしっかりつかんだ。
「輝久の恋愛、って言ったら、貞宮さまのことも必ず関わるんだよ。妹のこと、章子さんは放っておくの?」
貞宮多喜子さまは、私の一番下の妹で、9歳年上の輝久殿下と婚約している。確かに、輝久殿下の恋愛話となると、何らかの形で多喜子さまが関わることになる。栽仁殿下に言われて、私は渋々、椅子に座り直した。
「仕方がない。なら、姉宮さまにも聞いていただきますが……」
輝久殿下はため息をつくと、
「昨日、新年拝賀の帰りに、貞宮さまに新年の挨拶をしに行ったんです」
早速、自分の婚約者に関わることを話し始めた。
「そうしたら、貞宮さまに、“華族女学校を卒業したら、一高の二部に進学したい”と言われたんです」
一高。第一高等学校の略称である。かつて私も、一高の医学部の受験を目指していたけれど、外国の王族の度重なる求婚から逃れるため、医術開業試験を受験して、医師免許を取得する方針に切り替えた。ちなみに、一高の一部は法学・政治学・文学、二部は工学・理学・農学・薬学を学びたい学生が受験する。理数系の科目が非常に得意で、既に大学レベルの物理学を理解してしまっている多喜子さまが、一高の二部への進学を目指すというのは、とても理に適っている。
「一高の二部に合格したら、多喜子さま、どうするのかしら。大隈さんのおかげで、7年前から、帝国大学に女子も進学できるようになったから、もしかしたら帝国大学に進むかもしれないわね」
「ありうるね。貞宮さま、理数系の科目に関しては、章子さんより得意でいらっしゃるから」
私と栽仁殿下が頷き合っていると、
「い、いや、何で2人とも、平然としてるんだよ?!俺、余りに驚いたから、そのまま帰ったんだぞ?!」
輝久殿下が目を剥いた。
「いや、あの子、物理学に関しては大学生並みの知識があるから、研究分野に進むといいかもと思って……ねぇ、栽仁殿下」
「うん」
「あのなぁ……」
輝久殿下は舌打ちすると、
「貞宮さまが一高に進学なさったら、俺はいつ、貞宮さまと結婚したらいいんですか!」
と怒鳴るように言った。
「栽仁と姉宮さまの婚約が内定してすぐに、俺と貞宮さまの婚約も内定したけれど、“結婚は華族女学校を卒業した翌年の春”と言われたから、俺、ずっと待ってたんですよ?!もし、貞宮さまが一高に進学したら、その結婚の予定がまた何年か先に延びて……」
「いや、結婚はしていいんじゃないかな?」
栽仁殿下が冷静に言った。「貞宮さまの華族女学校のご卒業が来年の7月だから、再来年の春に結婚する、という流れで問題ないと思うよ」
「そうよね。学生が結婚することも、既婚女性が学校に通うことも、禁止されていないもの」
「うん。それに、天皇陛下がお認めになっている結婚なんだから、前途を妨げるものは何もないさ」
口々に私と栽仁殿下が言うと、
「そうじゃない!そうじゃないんだ!」
輝久殿下は、両手で頭を掻きむしった。
「あのなぁ……高等学校の生徒って、ほとんどが男だろう?!」
「まぁ、残念ながらそうね」
女性の高等学校への進学は、1901(明治34)年の9月に認められた。それから10年以上が過ぎた現在、高等学校の在学者における女子生徒の比率は約3%だ。女子の帝国大学への進学も、1908(明治41)年から認められたけれど、帝国大学に進学する女子は毎年1人か2人いるかどうか、という少なさである。
(多喜子さまが高等学校に、そして、帝国大学に進学すれば、全国の女性を勇気づけることになる。その意味では、多喜子さまの志はとても素晴らしいけれど……)
私がこう思った時、
「そんなところに貞宮さまを進学させたら、貞宮さまが無事でいられないかもしれないだろう!」
右の拳を固めた輝久殿下が断言した。
「へ……?」
戸惑う私の前で、
「貞宮さまは、姉宮さまに似てとても美しい!その可憐な花のような顔を見たが最後、惚れない男はいないと言っていい!かく言う俺自身も、既に貞宮さまに心を奪われている!」
輝久殿下は自分の思いの丈を熱く語り始めた。
「そんな美しい女を、野獣のような性欲を持つ学生どもの群れに放り込んでみろ……貞宮さまが学生どもの毒牙の餌食になるかもしれないだろう!」
「いや、流石に、皇族相手に、学生が手を出すことはないと思うけど……」
冷静に指摘した栽仁殿下に、
「しかし、ほぼ同い年の男どもと、一緒に過ごすことになるのだぞ?!もしかしたら、貞宮さまが、学生の誰かに惚れてしまうかもしれない。それは……それは絶対にあってはならないのだ!」
輝久殿下はこう叫び、今度は床にずり落ちた。床に両膝をついて正座すると、輝久殿下は頭を抱えてうつむく。
「くそっ……婚約が内定してから6年以上、貞宮さまとの歳の差も考えて、兄として、時には育ての親として、貞宮さまと接してきたのだが、それが仇になるとは……もし貞宮さまが、他の男に心を移すようなことがあったら、俺は……俺はどうすればいいのだ?!」
「あ、あの、輝久殿下?少し、落ち着く方がいいと思うよ……」
私が恐る恐る将来の義弟に声を掛けると、
「放っておいてください、姉宮さま。恐れながら、恋愛の機微をご存じない姉宮さまが、俺の胸の内をお分かりになれるとは到底思えません」
彼は両目に涙を溜めながら私に言った。
「まぁ、確かにその通りなのだけれど……」
ひどい言われようだなぁ、と思いながら、私はため息をつき、
「でもこの状況は、私でも、“ちょっと、頭冷やそうか……”と言いたくなるの」
そう輝久殿下に言った。
「そうだね」
栽仁殿下が、私の頭を優しく撫でる。「まさかこんなことになるなんて、思ってもみなかったけれど」
「まぁ、元々、11時半にここに来るという話だったし、それに、あれだけ熱く、輝久殿下が多喜子さまについて語ったら、こうなっちゃうわよね」
「な、何ですか、姉宮さま、その思わせぶりな言い方は……」
今度は目を怒らせた輝久殿下に、私は黙って応接間のドアを示した。輝久殿下が入ったすぐ後には閉じられたはずのドアは、今は開け放たれている。そして、その向こう、廊下に2人の女性が立っているのが見えた。
「……こんにちは」
「ごきげんよう、輝久兄さま。昨日に続いて、またお会いしましたね」
住まいの麻布御殿から、私と栽仁殿下に新年の挨拶をしに来てくれた私の妹、泰宮聡子さまと貞宮多喜子さまが、応接間の私たちに穏やかな微笑を投げかけていた。
「な?!さ、貞宮さま?!」
床に膝をつき、多喜子さまに対する自分の思いを熱く語っていた輝久殿下は、慌てて床から立ち上がった。そして、1つ咳払いをして、姿勢を正した輝久殿下は、
「やぁ、またお会いしましたね、貞宮さま。まさか、栽仁の家で鉢合わせになるとは、望外の喜びでございます」
と、少し気取った声で多喜子さまに言った。
「あ、あの、栽さん……もしかして、輝久殿下、ちょっとカッコつけてる?」
私は栽仁殿下に囁くように尋ねた。
「愛しの婚約者の前だからね」
栽仁殿下は小声で答えると、「輝久も可愛いなぁ……」と言ってクスっと笑った。
(これは、ちょっと、今度こそ、私、席を外さないとマズいなぁ……)
そう考えた私は静かに椅子から立ち、ドアへと向かったのだけれど、
「章子お姉さまはここ」
廊下に出る直前、晴れ着をまとった聡子さまが、私の進路に立ちふさがった。
「聡子さま、お願いだから、そこをどいてちょうだい。頼みます」
小さな声で懇願する私に、寡黙な妹は、首を左右に振って拒絶の意思を示した。
「いや、本当に、ここにいたらダメだよ。私たち、たぶん、あの2人にとっての邪魔者になっているから……」
説得を試みる私に、
「和歌のいい材料です」
聡子さまはぼそりと答えると、輝久殿下と多喜子さまの様子をじっと見つめた。彼女の両頬は、ほんのりと紅く染まっていた。
(こ、この子、見物する気満々だ……)
私の妹とは思えない積極さに呆然としていると、栽仁殿下がやって来て、私の身体を後ろから抱き締める。そして、輝久殿下と多喜子さまの様子が私の視界に入るよう、私の身体を抱えたまま、180度回転した。私は、輝久殿下と多喜子さまから、目が離せなくなってしまった。
「私も嬉しいです、輝久兄さま」
私の視線の先で、多喜子さまは婚約者に笑顔を向けていた。私の妹たちの中で一番美人な多喜子さまの笑顔は、輝久殿下の言う通り、可憐な美しい花を彷彿とさせる。そして、
「そ、それは重畳……」
そんな笑顔を向けられた輝久殿下の顔は、紅潮していた。何となく、喋る調子もぎこちない。
と、
「そうだ、輝久兄さま。昨日お伝えできなかったことを話していいですか?」
多喜子さまが笑顔のままで尋ねた。
「き、昨日、伝えられなかったこと?」
明らかに動揺している輝久殿下に、
「だって、輝久兄さま、私が“一高の二部に進学したい”と申し上げたら、ふらふら椅子から立ち上がられて、止める間も無くお帰りになってしまったんですもの。だから、その続きのお話ができなかったんです」
多喜子さまは話しながら、距離をじわじわと詰めていく。ドアの方に足を出しかけた輝久殿下を見つめながら、栽仁殿下と聡子さまが同時に首を左右に振った。
「こ、ここから出してくれ、栽仁っ!聞きたくないんだ!貞宮さまの口から、“婚約を解消したい”なんて言葉を……」
必死の形相になった輝久殿下に、
「落ち着けよ、輝久。そう決まったわけじゃないだろ?」
栽仁殿下は私を後ろから抱き締めたまま言う。
すると、
「婚約解消だなんて……なにをバカなことをおっしゃっているのですか?」
多喜子さまが笑い声を上げた。
「あのですね、輝久兄さま。私が昨日申し上げたかったのは、一高に進学しても、輝久兄さまとの結婚は遅らせません、ということなのです」
「へ……?」
キョトンとした輝久殿下に、
「だって、結婚しても、勉学はできるでしょう?」
多喜子さまは笑顔を崩さぬまま言った。
「章子お姉さまだって、万智子さまたちを育てながら、軍医として働いて、貴族院議長のお仕事をなさっていますもの。だから、一高に進学しても、兄さまとの婚儀は遅らせませんわ。昨日、新年の挨拶を申し上げに参内した時に、お父様とお母様に、その旨、お許しはいただきました。“世の女子たちの希望になりますから、是非学業と家庭生活を両立させるように”と、お母様から励ましの言葉も頂戴しましたの」
「し、しかし、万が一、男子学生たちが、あなたに……貞宮さまに、危害を加えるようなことになれば……」
大量に投げつけられた情報を何とか理解した輝久殿下が、上ずった声でこう言うと、
「ならば、輝久兄さまが、私に心からの愛を捧げて下さればよろしいのです」
多喜子さまは笑顔で反論した。
「?!」
心臓が身体の中で飛び跳ねたような感覚に襲われた私の前で、
「輝久兄さまが私を深く愛していらっしゃるということが広まれば、野獣のような性欲を持つ学生たちも、私に手を出すことはありませんわ。まぁ、私も、輝久兄さま以外には、愛を捧げるつもりはありませんけれど」
多喜子さまは顔色一つ変えず、輝久殿下に言い放つ。
「さ、貞宮さま……そんな、“野獣のような”とは、俺が先ほど、栽仁に言った言葉ですが……一体、いつからここにいらっしゃったのですか?!」
「“姉宮さまにも聞いていただく”とおっしゃったところからです。ずっとドアの向こうにいたのに、誰もお気づきにならないから、ドアを開けてしまいましたわ」
狼狽する輝久殿下に、多喜子さまは冷静に……というよりは、楽しそうに、事実を突きつけていく。
「そんなに前からいたの、気付かなかったわよ……」
私が小声で呟くと、
「“面白いから、黙って聞いていてください”と、大山閣下に言われました」
聡子さまが教えてくれた。後ろを見ると、黒いフロックコートを着た大山さんがいる。私の視線に気が付くと、大山さんは微笑した。自分の仕掛けた悪戯を楽しんでいるのは、表情から明らかだった。
そして、多喜子さまは、
「もしかして、輝久兄さま、私の言葉を疑っていらっしゃるの?」
輝久殿下に一歩近づきながら尋ねた。
「い、いや、そんなことは……」
一歩下がろうとする輝久殿下の手を、多喜子さまは優しくつかむ。途端に、輝久殿下の動きが停止した。
「私はまだ女学校に通っておりますし、子供だと思っていらっしゃるのかしら?」
目を白黒させている輝久殿下は、多喜子さまに何も言い返さない。そんな婚約者に、
「仕方ないですね。せめて、高等学校に入学するまでは呼ばないでおこうと思ったけれど、今言う方がよさそう」
と前置きしてから、多喜子さまは上目遣いで輝久殿下を見つめ、
「愛しておりますわ、輝久さま」
ニッコリ微笑んで告げた。
「……!」
次の瞬間、感極まった様子の輝久殿下は、多喜子さまを前から勢いよく抱き締めた。
「お、俺も……俺も愛しております、貞宮さま!」
叫ぶように答える輝久殿下の両眼には、涙が光っている。
「じゃあ、私のお願い、聞いてくださいますか?」
「も、もちろんだ!」
「じゃあ……漢文の冬休みの宿題で分からないところがあるの、教えてください」
「分かった!引き受ける!」
おねだりする多喜子さまと、それに興奮気味に答える輝久殿下を交互に見ながら、
「これは……輝久の奴、完全に貞宮さまに惚れてるね」
栽仁殿下が苦笑した。
「みたいね……」
いくら恋愛に疎いと言われる私でも、2人のこんな様子を見せつけられてしまえば、流石に理解できる。輝久殿下は多喜子さまを、心の底から愛しているようだ。
「多喜子さまの方が、一枚上手……」
聡子さまが短く言うと、
「それは間違いないですね。貞宮さまの方が、明らかに余裕がありますし」
栽仁殿下は力強く頷いた。
「それ、大丈夫なのかな、栽仁殿下……?」
「まぁ、何とかなると思うよ」
「はぁ……」
栽仁殿下の答えを耳に入れながら、私は輝久殿下と多喜子さまの様子をぼんやり眺めていた。輝久殿下に抱き締められた多喜子さまは、「それから、作文の宿題も見ていただきたいの」と、輝久殿下に上目遣いでおねだりしている。どうやら、自分に惚れている婚約者を、多喜子さまは自分の勉学に利用するつもりのようだ。
(わ、私には、とてもできないなぁ……)
私がそう思った時、
「梨花さん」
栽仁殿下が私に囁いた。
「梨花さんは、そのままでいいんだからね」
「そ、そのままでいいって……どういうこと……?」
喘ぐように夫に聞き返すと、
「梨花さんは、恋愛の機微を察しようとしなくていいってこと」
彼は優しい、けれど熱を帯びた声で私に囁き続ける。吐息が耳朶に掛かり、私の首筋が燃えるように熱くなった。
「そんなことをしなくても、僕はとっくに、あなたに心を奪われているんだ。僕はあなたのすべてを、心から、全身全霊で愛しているよ」
「た、栽仁、殿下っ……それ、何も、今、言わなくても……」
「ふふっ、輝久と貞宮さまの仲睦まじい様子を見ていたら、羨ましくなってね」
栽仁殿下は私を抱き締めたまま囁くと、悪戯っぽく微笑する。その微笑の後ろに、聡子さまの姿が見える。うっかり聡子さまと目が合ってしまい、私は身体を強張らせた。
「い、いや、聡子さま、こ、これはね……」
急いで言い訳をしようとすると、
「どうぞ、お話を続けて……」
聡子さまは顔を赤らめながら言い、
「眼福……」
と、ぼそりと呟いた。
「?!」
目を見張った私に、
「うん、泰宮さまのお許しが出たね。じゃあ、思う存分、梨花さんに愛の言葉を囁いていいわけだ」
栽仁殿下が両腕の力を込めながら囁いた。
「ひ、人が見ているのに、そんなことするの?!恥ずかしすぎるわよ!」
私はとっさに、周囲に視線を走らせる。すると、廊下に、大山さんが立っているのが見えた。けれど彼は、微笑を顔に浮かべながらこちらを見つめている。“どうぞ、そのままお続けください”……彼の微笑は、明らかにそう言っていた。
(いや、助けてよ!)
心の中で大山さんに突っ込んだと同時に、栽仁殿下が私に熱烈な愛を囁く。そして、30分後、
「母上、お顔が真っ赤!どうしたの?!風邪を引いたの?!」
ようやく栽仁殿下の腕から解放され、食堂に入った私に、長女の万智子が駆け寄って、私のおでこに手を当てたのだった。
章子「まったく……なんで聡子さまも多喜子さまも、この状況にうろたえないのかしら。私の妹とは思えない……」
大山「恐れながら……梨花さまの方が、梨花さまのおっしゃる“突然変異”というものかと」




