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転生内親王は上医を目指す  作者: 佐藤庵
第33章 1903(明治36)年小暑~1903(明治36)年寒露
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新入職員

 1903(明治36)年9月6日日曜日午前10時、青山御殿の私の居間。

「本当に、恐れ入りました……」

 白地に、水色の小さな花模様を散らした柄の和服を着た私は、前に座っている外務大臣の陸奥さんに、深々と頭を下げていた。

「ふふふ、降参なさいましたか、増宮殿下」

 紺色のフロックコート姿の陸奥さんは、顔に満面の笑みを浮かべている。彼の腕の中には、長男の廣吉(ひろきち)さんとその奥さんのエセルさんとの間に7月に生まれた初孫・小次郎(こじろう)君がいる。ヘタレとはいえイケメンの廣吉さんの子供だからか、この小次郎君、赤ちゃんなのに恐ろしく顔立ちが整っているのだ。もし、私の時代に彼が生まれていたら、粉ミルクや紙おむつのCMに引っ張りだこになり、成長すれば可愛らしい子役に、更には美形の俳優になるだろう。

「参りました。陸奥さんと原さんが余りにも褒めたたえるので、身内の贔屓目かと、話半分に聞いていたんですけど……。これは、褒めて当然です。私の時代でも、こんなにかわいくてカッコいい赤ちゃんはいませんよ」

 私が素直に小次郎君を絶賛すると、

「だから言っただろう、主治医どの」

陸奥さんの隣に座る、黒いフロックコートを着た原さんがなぜかふんぞり返り、

「お褒めにあずかり光栄です」

と、陸奥さんは私に一礼した。

「小次郎、よかったなぁ。増宮殿下にも、お前の美しさと可愛らしさが認められたぞ。未来を御存じの増宮殿下に認められたということは、お前の容姿は100年に一度、いや、1000年に一度のものと保証されたようなものだ。じぃじも鼻が高いぞー」

 陸奥さんは、抱っこしている小次郎君に、とても嬉しそうに話しかけている。廣吉さんの長男なのに“小次郎”という名前なのは、「亡くなった勝先生に、僕は“小次郎”と呼ばれて可愛がられましたからね」という理由で、陸奥さんが名付けたからだそうだけれど……。

(信じられない……)

 陸奥さんが孫を可愛がっているのが、である。

「おー、よしよし、小次郎は本当に可愛いなぁ」

 満面の笑みで小次郎君に語り掛けている陸奥さん。その姿は、毎週土曜日夕方に原さんと共に現れて激しい議論を戦わせている様子からは、全く想像ができない。今の彼は、どう見ても、子供を溺愛するおじ様である。

 と、

「どうなさいました、増宮殿下」

その陸奥さんの視線が、私に向けられていた。

「……申し訳ないですけれど、陸奥さんが孫を可愛がる姿というのが、私、どうしても信じられなくて」

 隠していても、どうせ暴かれてしまう。素直に答えた私に、

「それはそうでしょうね。伊藤殿や原君、そして麒麟児君によれば、“史実”の僕は、孫を見ることなく、6年前に命を落としていたのですから」

陸奥さんは小次郎君から目を離さずに言った。“史実”の陸奥さんは、日清戦争の講和条約(下関条約)を1895年に伊藤さんと一緒に調印した後、1897年に結核で命を落とした。私が“史実”での陸奥さんの正確な死没時期を知ったのは、陸奥さんの結核の治療が完了した直後である。

「こうやって、美しくて可愛らしい孫を抱けるのも、政治のことを考えられるのも、殿下のおかげです」

「まぁ、そうかもしれませんけどね……」

 陸奥さんにお礼を言われるなんて、初めてのことではないだろうか。こんなことを言われてしまうと、とんでもない方向から妖刀で攻撃されそうな気がする。それに、私が陸奥さんに違和感を覚えている理由は、もう一つあって……。

「私、陸奥さんが、お孫さんがいる年齢(とし)だとは、どうしても思えなくて……」

「おや、僕はこの8月で、満で59歳になりましたが」

「いや、絶対違うでしょう!どう見ても、50歳になってないように見えるんですけど!」

 ツッコミを入れる私に、

「では、シズオカマイシンとリファンピシンに、若返りの効果があるのではないですか?」

陸奥さんは真顔で聞き返す。

()ぇわ、そんなもん!」

 反射的に叫ぶと、

「いけませんよ、梨花さま。淑女(レディ)がそんな言葉づかいをなさっては」

私の隣に座った大山さんが、落ち着いた声で注意を飛ばした。

(そう言えば、陸奥さんだけじゃないんだよねぇ……若く見えるのって)

 大山さんの顔を見ながら、私は梨花会の面々の容姿を、1人1人吟味してみる。みんな本当に元気で、実際の年齢より若く見えてしまうのだ。原さんは見事な白髪のせいで、まだ40代なのに老けて見えてしまう稀有な例なのだけれど、ほとんどの面々は、何かの折に年齢を聞くと、「え、もうそんな年だっけ?!」と驚くことが恒例になってしまっている。我が臣下も、今年で満61歳だけど、普段の言動や容姿から判断すると、とてもそんな年齢だとは思えない。

 と、

「梨花さま、(おい)の顔に何かついておりますか?」

その大山さんが私を不思議そうに見つめた。

「あ、そうじゃなくて……」

 私は首を左右に振ると、

「大山さん、その……お孫さん、お元気?」

とっさに思い付いた質問を大山さんに投げた。

「ええ、蝶子(ちょうこ)通明(みちあき)も、それから通正(みちまさ)も元気ですよ」

 大山さんは目を細めて答えてくれる。大山さんの長女・信子(のぶこ)さんは、貴族院の子爵議員でもある三島(みしま)彌太郎(やたろう)さんに嫁いでいるけれど、1896(明治29)年の11月に長女の蝶子さんを、1898(明治31)年の6月に長男の通明君を、そして1901(明治34)年の4月に次男の通正君を産んだ。ところが、“史実”では、信子さんは、1896(明治29)年に結核で亡くなっていたらしい。結核の2剤併用療法の臨床試験に参加したことが、結果的に彼女の命を救ったことになった。それを私と大山さんが知ったのは、信子さんが蝶子さんを産んで、しばらくたったころだったけれど……。

「蝶子も、この9月から小学生です。華族女学校の初等科で、貞宮(さだのみや)さまと同じ組になりまして、早速仲良くなったようだと、昨日信子から電話がありました。子供の成長は実に早いですな」

 貞宮さま、というのは、私の末の妹の多喜子(たきこ)さまのことだ。すぐ上の妹の聡子(としこ)さまと一緒に、輔導主任の楫取(かとり)素彦(もとひこ)さんのところで育てられている。前世の兄2人に妹1人という兄妹の数も多い方だと思ったけれど、今生では兄が1人に弟が1人、妹は5人もいる。弟分に至ってはもっといるのだから、今生の私は、きょうだいの数に本当に恵まれた。

「こうやって、娘の母親としての成長を、そして孫の成長を見守れるのは、梨花さまのおかげでございます。心より感謝申し上げます」

「……副作用がある可能性や、治療が不十分になる可能性もあったあの状況で、臨床試験に参加するのを選択したのは信子さん自身だよ。それに、あなた、信子さんが臨床試験に参加するのに反対してたじゃない」

 私は大山さんから目を逸らしながら言った。「医療は決して万能ではない。それは、今の時代も、私の時代も同じことなんだよ」

「……淑女(レディ)としては、少しいただけないお言葉ですね」

 逸らした私の顔の先に、大山さんがひょいと首を伸ばす。暖かくて優しい瞳が、私の視線とぶつかった。

「もう少し素直に、謝意を受け取られてよろしゅうございますのに。このようなことでは、また(おい)は、梨花さまに言い聞かせなければなりません。それとも、ご教育させていただく方がよろしいのか……」

「それ、勘弁してくれませんか……」

 先週の日曜日の落とし穴にはまった後のように、真正面からお叱りの言葉を頂戴するならばいい。問題は、“ご教育”と称しながら、私に自分を肯定する言葉を囁き続け、それを私にも言うように強要するときだ。そのたびに、むず痒いような、痛いような居心地の悪さと、甘美で優しい暖かさとが、私の心の中で激しく争い、何とも言えない恥ずかしさに襲われてしまうのだ。

「女医学校に通い始めてから、ご教育の効果が出てきたようには思いますが、まだ足りませぬ。梨花さまには、ご自身を傷つける悪い癖を無くしていただかなければ」

 いつの間にか、私の右手は大山さんに優しく握られている。まずい。完全にまずい。この臣下の顔は完全に、私への“ご教育”を計画している顔である。

(ううっ……誰か来て!っていうか、あの人、そろそろ来るはずなのに、一体何やってんのかな?!)

 私が心の中で助けを求めた時、

「章子さん、新しい職員の方がお見えになりましたよ」

居間の障子が開いて、和装の母が姿を見せた。どうやら、祈りが天に届いたらしい。

「ああ、母上、ありがとう。じゃあ、応接間にお通ししてください」

「はい。じゃあ、千夏(ちなつ)さんに頑張ってもらいますわ」

 母が去っていくと、私はホッと息をつき、椅子から立ち上がった。これで話はうやむやになる。神だろうと悪魔だろうと、利用できるものは利用させてもらおう。

「来ましたか、原君ご推薦の彼が」

 小次郎君を抱いた陸奥さんがニヤリと笑う。

「けど……本当にこれでいいんですかね?」

「何を今更」

 質問する私を、原さんは鼻で笑い飛ばした。「あれの父親は完全に乗り気だ。進路を変えて軍人にしろとあの父親を説得するのは、わたしの能力的にも無理な仕事だぞ、主治医どの」

「斎藤さんも、“それでいいのではないか”と言っております。覚悟をお決めなさいませ、梨花さま」

 大山さんは優しい声で、けれど私の目を真っ直ぐに見据えて言った。

「……分かった。もうグダグダ迷わない」

 何度も考えて決めたことではないか。それに私は、兄とお父様(おもうさま)を守るために、出来ることはすると決心したのだ。

「じゃあ、応接間に行こうか」

「御意に。では、エスコート致します」

 大山さんは私の手を離さぬまま、応接間へと私を導いた。


 3分後。

「まだ、入ってないですねぇ」

 誰もいない応接間に入った私は首を傾げた。いくらこの青山御殿が広いと言っても、玄関から応接間までは、歩いて1分もかからない。

 すると、

「どこに彼がいるか、当てましょうか」

小次郎君を抱いた陸奥さんが、ニヤニヤしながら言った。「まだ、玄関の三和土に立ったままですよ。靴すら脱いでいないと思います」

(そうかなぁ……?)

 私がそう思った瞬間、

「い、いや、止めてください!」

その玄関の方から、聞いたことのない男性の大声が聞こえた。それにかぶさるように、

「あなたは何を言っているんですか!」

乳母子の叫び声もする。

「見に行ってみましょう」

 陸奥さんがニヤニヤ笑いを崩さずに提案した。

「ええ?」

「僕の予想が正しければ、新入職員君は、増宮殿下の優秀な乳母子どのに、得意の柔道で投げ飛ばされますよ」

「喧嘩は止めて欲しいんだけどなぁ……」

「ふん。では、奴の情けない(ツラ)を拝みに行くか。ついてこい、主治医どの」

 日本広しと言えども、一応内親王である私に命令できるのは、軍の上官以外では、お父様(おもうさま)お母様(おたたさま)と兄と、そして素をさらけ出している状態の原さんだけだ。私は素直に、私に医師免許を発行してくれた厚生大臣の後ろに付いて行くことにした。

 玄関では、三和土に下りた千夏さんが、黒いフロックコートを着た若い男の右腕を掴んでいた。

「勘弁してください!なぜ初日から、増宮殿下に会わなければならないのですか!」

 ヒステリックに叫ぶ男性に、

「当たり前です!宮さまは、この青山御殿の(あるじ)なのですから!」

千夏さんが烈火のごとく怒っている。

「あの鬼のような増宮殿下に見つかってしまったら、俺の命が無くなってしまいます!」

「何ですって……あなた、宮さまに対し奉り、何という無礼な言葉を……!」

 銀縁メガネの奥の瞳を、怒りの色に燃え上がらせた千夏さんが、男の襟首を掴んで持ち上げる。

「こ、この青山御殿にいる女は、全員鬼なのか……?何と恐ろしいところだ……」

「私はともかく、母上まで鬼扱いするのは許せないわねぇ」

 ため息をついてこう言うと、男の視線が私に向けられる。次の瞬間、

「うわあああああ!」

男の両目が真ん丸になり、顔が引きつった。

「もうダメだ……おしまいだぁ……」

「あのね……」

 またため息をついた私の横で、

「こら、英機(ひでき)。何というザマだ」

あきれ顔で若い男をしかりつけたのは原さんである。

「お前は(まこと)の男になるのではなかったのか。こんな有り様では、わたしは英教(ひでのり)どのに何と報告したらよいのだ」

「は、原閣下……」

 千夏さんに襟首を掴まれたまま、原さんを見て顔を青ざめさせたこの若い男……何を隠そう、“史実”の太平洋戦争開戦時、総理大臣を務めていた東條(とうじょう)英機さん、その人である。

 こんなことになったのは、10年ほど前の会話が原因だった。

――そう言えば主治医どの、以前、“史実”で太平洋戦争が起こった時、総理大臣は東條英機だった……と言っていたな?

 東京専門学校の脚気討論会の直後だっただろうか。私と原さんと大山さんと、3人で話している時に、原さんがこんなことを言った。

――ええ、そうですよ。

 返事をすると、

――東條英機の父親、わたしの知り合いかもしれん。

突然原さんがこう言い始めたのだ。

――はい?!

 驚いた私に、

――わたしが盛岡藩の出身だと、前に話したことがあったな。

原さんは淡々と説明し始めた。

――盛岡藩のご当主の南部(なんぶ)家に、東條英教という軍人が教育顧問として奉職している。その男の息子の名前が英機なのだ。主治医どのと同い年か、1歳下だと思うが……。

――私と同い年だと……1941年には58歳か。年のころはぴったりですね。確か、“史実”の東條英機さんって、陸軍の軍人だと思いましたけど……。

――わたしが覚えている限りの話になるが、奴は陸軍大学校を卒業して、わたしが殺される1年ほど前に外国に赴任していたな。

――陸軍大学校を出たっていうことは、間違いなく陸軍軍人だってことだから……。

――恐らく、“史実”で総理大臣になった東條英機と、東條秀教の息子の東條英機は同一人物だろう。

 そう言ってお茶を啜った原さんの前で、私は驚きで目を見開いていた。あの東條英機と私が同年代……。なんだか眩暈がしてしまって、私は思わず右手で自分の額を押さえた。

――しかし、梨花さまの話を聞く限り、その東條英機……国軍から遠ざけておく方がよいと思います。

 私と原さんの話を黙って聞いていた大山さんが、私と原さんに真剣な表情で言った。

――それは、よく考える方がいいと思うよ?私の覚えている知識は、一方的なモノの見方なんだし……。

 私は大山さんに忠告したけれど、

――もちろん、これは大事なことですから、梨花会の皆で吟味致しますよ。ですから、梨花さまはどうぞご放念ください。

大山さんは忠告を受け入れるとも受け入れないとも答えてくれず、

――大山閣下、もし、計画を実行に移す暁には、わたしが動きましょう。一つ、いい方法を思い付いたのです。

原さんはニヤニヤしながらこう言った。

 そして、梨花会で東條英機さんを国軍に入れさせない計画が正式に承認された後、原さんは東條英機さんのお父さん・英教さんに接触した。

――英機を一人前の男にしたいのならば、宮内省に就職させて、ご英明で武名も轟く増宮殿下の所で修業させたらよいのではないか。

 こう提案した原さんに、英教さんは即座に賛成したらしい。実は、ちょうどその頃、東條英機さんは学習院の初等科に転入したばかりだった。そしてその当時、学習院の初等科では、私が戦ごっこで北白川宮(きたしらかわのみや)恒久(つねひさ)王殿下を散々に打ち負かした話など、小さい頃の私の武勇伝が、やや誇張されて流布されていた。転入生の東條英機さんもその話の洗礼を受け、“増宮殿下は恐ろしい”というイメージが、頭にインプットされてしまったらしい。私の名前をうっかり聞いてしまった日には、“増宮殿下に取って食われてしまう”と机の下にもぐって怯えていたそうだ。

 そんな彼を“不甲斐ない”と強く感じたのが、父親の英教さんだった。この英教さん、教育顧問をしている南部家の御嫡男・南部利祥(としなが)さんにも、遠慮なく直言するので、利祥さんに“怖い”と恐れられた人物だ。もちろん、自分の息子に対しては、容赦も遠慮も全く無く、

――英機!あの素晴らしい増宮殿下を怖がるとは何事だ!

と、事あるごとにしかりつけた。そして、原さんから話を持ち掛けられた瞬間から、“息子を宮内省に入れて増宮殿下に仕えさせ、(まこと)の男にする”と誓った英教さんは、息子に猛烈なスパルタ教育を施した。その結果、東條英機さんは学習院の初等科・中等科を優秀な成績で卒業し、宮内省の採用試験にも合格した。そしてこの9月から晴れて、青山御殿付きの職員となったのである。

(しかし、こいつが東條英機ねぇ……)

 千夏さんに襟首を掴まれている東條さんは、前世の教科書の写真のように、眼鏡もかけていないし、頭がハゲてもいない。それなりに整った顔立ちだから、普通に立っていれば見栄えがするのだろうけれど、顔を青ざめさせてガタガタ震えているところを見ると、完全に単なるヘタレ野郎である。

「千夏さん、流石に解放してあげたら?これじゃあ、初対面の挨拶もろくにできないですし」

「……はいです」

 不満そうに同意した千夏さんは、東條さんの襟首を掴んでいた手を離した。すると、

「こ、こんな危ないところにいられるか!」

東條さんがくるりと背を向け、玄関から外に向かって走り出した。

「あ!こら、待ちなさい!」

 千夏さんが即座に追いかける。私も草履ではなく、制服に合わせる黒い革靴を出して東條さんの後を追った。

 東條さんは本館と別館の間を通り抜け、庭園の方に向かっている。

(待った、あの辺りって……!)

「東條さん!そっちに行っちゃダメ!」

 私は足を止め、大きな声で叫んだ。

「そこ、落とし穴が掘ってあって……!」

 私の叫びもむなしく、必死に走っていた東條さんの姿が、地面に吸い込まれる。輝仁(てるひと)さまが設置した落とし穴にはまったのだ。

「ああ、もう……なんでこうなるかな」

 ため息をついた私の横で、

「ほう、あれは最後の落とし穴ですね。明日には埋め戻す予定だったのですが」

追いついてきた我が臣下は、のんびりとこんなことを言っている。

 そして、

「あれが総理大臣になる未来など、見たくはないな」

原さんは私の後ろで渋い顔をして呟き、その隣で陸奥さんがニコニコしながら、

「小次郎よ、あのように意気地なしの男になってはいかんぞー」

腕の中の小次郎君に言い聞かせていたのだった。

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