008 ☆賊に狙われたのは?☆
ダン!
この音は、ヌティーナさんがカウンターを叩いた音です。滅茶苦茶ご立腹です!
私はリーさんの後ろに隠れた。
別に私に怒っている訳ではなく、宿屋の亭主に怒っている。
「私はわざわざここに寄って、三部屋予約していったはずだが!」
「そう、申されましても。ないですという前に出て……」
「私に盾突く気?」
「いえ、滅相もございません。申し訳ございません」
亭主はかわいそうに、深々と頭を下げている。
一人部屋の部屋が一部屋しか空いてないらしい。
どうやら予約と言っても、三部屋よろしくと言うだけ言って、直ぐに出て行った。つまり私達の救出に向かった。
何か申し訳ない。
「あの……ううう」
部屋が一つしかないなら三人で使ってもいいと言おうとしたら、リーさんに口を塞がれた!
「口を挟まない方がいいよ」
ボソッと耳元でささやかれ、頷くと口から手を離してくれた。ヌティーナさんを見ると、私を凄い目で睨んでる。
ひ~! リーさんの言う通りみたい。
私はサッと、リーさんの後ろに隠れた。
バン!
勢いよく女将さんが入って来た。
「あのすぐ傍の宿で、二人部屋が一つ確保できました! どうかこれでお許し下さい!」
女将さんも深々と頭を下げる。
よかったこれで何とかなった!
「そう。わかったわ。では、私がそちらに行きます。案内なさいなさい」
「え……」
つい声を出すと、キッとヌティーナさんが睨んで来た。
「何か問題でもありますか?」
穏やかに声を掛けてはいるけど、目が怖いです!
私は首を横にふるふると振るのが精一杯だった。
「そう」
「では、こちらです」
ヌティーナさんが、女将さんに振り向くと二人は出て行った。
私達は胸を撫で下ろす。
「怖かった……」
つい口走る。
「いやいや、君達も災難だね。本当に一人部屋だけどいいかい?」
「はい。布団を一組貸して頂ければ構いません」
「勿論、後で持って行きます」
そう言って、宿屋の亭主は私達を案内してくれた。
案内された部屋は一番奥で、ベットが一つ。後は何もない部屋だった。
「はあ。本当に今日は散々な日だったね」
「うん……」
今更だけど、ここに二人っきりで泊まるんだよね?
チラッとリーさんを盗みみると、平然としている。
どうしよう……。男の人で父さん以外の人と、同じ部屋で寝た事何てないんだけど!
「ねえ、いつまでそこに突っ立てるの?」
私はビクッと肩を震わす。
ドアの前に立ち尽くす私に、呆れ顔でリーさんは声を掛けてきた。
「あのね、何もしないから」
「あ、うん……」
とんとんとん。
ドアをノックする音にもまた、ビクッと肩を震わせた。
「失礼しますよ。ここにお布団置いておきます。ごゆっくり」
宿屋の亭主は、ニヤリとして布団を置くと部屋を出て行った。
「君さ。冒険したいんだよね? だったらこういうのも慣れないと。年齢も性別も関係なく、一緒に寝食を共にするんだよ? たまにこうやって二人っきりっていうのもある」
置いていった布団を敷きつつ、リーさんは私に語った。
確かにそうだけど……。
はぁ……。
ため息をしつつ、ベットに腰を下ろす。
リーさんは敷いた布団に、背を向けてごろんと横になった。
「それにしてもヌティーナさん、凄い人だったね……」
シーンと静まり返り、居たたまれなくなって、そう口にする。
「王宮にいると君もあぁなるよ。あの中は、力ある者が生き残れる世界。……俺も憧れていた時は、知らなかったけどね。ギルドでマスターの補佐なんてやっていると、王宮の人と接する機会があるんだけど、皆あんな感じ」
「そうなんだ……」
リーさんって、マスターの補佐だったんだ。
「あの人、鑑定師だよ……」
ぼぞっとリーさんが呟いた。
うん? あの人?
「あの人って、ヌティーナさん? え、でも、杖持っていなかった?」
多分、賊に魔法を使ったんだと思うんだけど……。
「魔法持ちの鑑定師だよ。しかも予知スキルも持っている。確か、魔力は4」
「詳しいね……」
「同じ鑑定師だからね。目指す相手でしょう? 会ったのは初めてだけどね」
なるほど。そういうもんだよね。普通は同じ職業の有名な人に憧れるよね! 私にはいないけど……。後で探してみようかな。でも王宮にいて、あんな感じだったら嫌だな。
「ねえ、今日の賊の事なんだけど……」
ぐるんとリーさんは振り向き、真剣な顔を私に向けた。
何だろう……。そう言えば、冒険者の馬車だと知って襲ったって言っていたっけ?
「狙いは君かもしれない」
「え? 私?」
確かに売り飛ばす様な事を言ってはいたけど……。
「普通はギルドの馬車だってわかっていれば襲わないから。勝てる見込みないでしょ? まあ乗っているのが、俺だってわかっていれば別だけどね」
「別って?」
「賊って大抵、職業なしのスキル持ちが多いって聞くからさ。俺みたいに職業あっても攻撃系の魔法もスキルもなければ、彼らに勝てない。そう考えると、賊になった連中の気持ちが、わからなくもないけどね」
そうだったんだ! 職業ないけどスキルを持っている人っているんだ!
「そういう人は、冒険者になれないの?」
「なれないね。職業持ちは、鍛錬つまり熟練度が増えれば強くなれる。スキルが増えたり、魔力が上がる事さえある。強くなっていける。って、それだけなのにな……」
リーさんの言いたい事はわかる。職業を持っていて魔力があっても、職業鑑定をしている。冒険も出来ない。それでも冒険者で、攻撃できるスキルを持っていても、職業がなくては冒険者になれない。けどリーさんのような人達よりは強い。
そう考えると、魔力も職業も目安にはなるけど、それ以上でも以下でもないかも。
「なんかかわいそうね。それで盗賊になった人って……」
「うん。だから今は、職業と魔力しか鑑定していないんだ。スキルとかはしない」
なるほど。そうすれば、職業ありませんで諦めるもんね。一応考えられてるんだ。
「話がそれた……」
「え?」
「俺が話そうとしていたのは、賊の狙い」
あぁそう言えば、最初その話で振って来たんだっけ。
「君が狙われたとしたら、王宮は危ないかもしれない……」
「え……」
リーさんは、私をジッと見つめそう言った――。