049 ★彼女の名はカーラ★(リー視点)
「こい! カーラ!」
ここは冒険者ギルド内にある鑑定の間。そこに俺の声が響く。
魔法陣の上には、気を失った元竜牙のリーダのムイが横たわっている。
「ふふふ。まさか、こんな手で呼び寄せられるとはね」
そう言って、ムイはよろよろと上半身を起こした。
体はムイだが、中身は今俺が話しかけたカーラのはずだ!
フェアルから見せて貰った布には、『カーラ』の名があった。
俺の勘では、元凶はこいつだと思う。
そうマーリンを操っていた女。
エスペンをそそのかした女。
そして、部屋に魔法陣を描いた者!
「成功したみたいだな。リーご苦労だった」
そうムイを睨み付けたまま、アーチさんが言う。
フェアルから布を受け取り俺は、急いでアーチさんに報告した。
ハッキリ言ってもう俺だけでは、どうしようも出来ないからだ。
布を見たアーチさんは、一時間後俺に鑑定の間に一人でこいと言って、何やらおっぱじめるつもりらしいとわかったが、まさか本人を呼び出そうとするとは思わなかった!
ムイを媒体として、鑑定の間にある魔法陣を使って彼女を呼び出そうとした。
俺が一度、彼女と間接的に会っているので、出来ると踏んだらしい。
カーラ。彼女は、布に魔法陣を描いた者として情報が乗っていた! しかもステータスも!
彼女は、俺と同じ鑑定師。ウィンドバーストに予言、そしてHP代償がスキルにあった!
そう、マーリンの中にいた女と同じだった!
彼女は、他の者の身体を使い、行動を起こしていたんだ!
「カーラ。そいつには封印を施してある。もう逃げられない!」
アーチさんは、ムイにいや、カーラに叫んだ。
「そう」
カーラは、俯きそう短く返事を返して来た。
「何をする気だった」
「バカね。これで捕まえたつもり?」
「あぁ。自分の意思ではその体から出る事は不可能だろう?」
「そうね。出来ないわね。でも、ここまでバレたのなら……」
そう言うと、ギラリとした目つきで、突然俺に向かって走り出した!
「リーを殺しても解放はされないぞ!」
アーチさんが叫ぶ。
彼女が俺を殺して、解放されようとしていると思ったのだろう。
俺もそう思い、ゾッとする。
スキル云々の前に、体格差で負ける。中身が女だろうと、体はムイだからだ。
俺は、兎に角逃げる。だが、この部屋からは出る事は出来ない。何故なら、内側から開けられないからだ!
この部屋自体封印されている!
「っち」
舌打ちをしてアーチさんが、ナイフをムイに向け投げる。
「きゃー!」
カーラが悲鳴を上げてその場に倒れ込んだ。
ナイフは、右足に突き刺さっている!
俺は、カーラの方を向き、いつでも逃げる体制で様子を伺う。
カーラは、倒れたまま肩で息をしている。
体はムイでも中身は、所詮女のカーラだ。痛みに耐えられないのだろう。
バン!
突然、鑑定の間の扉が開いた!
驚いて俺達が扉を見ると、なんと柄の悪い奴らが立っていた!
「マスターすみません! 奇襲を……」
そう叫んだのは、受付のミティアさんだ。
彼女は、他の数名の冒険者と盗の一味だと思う奴らと、果敢にも戦っていた!
「マジか……」
戦う術がない俺は、急いでアーチさんの近くに駆け寄った。
どうやって呼んだんだ?
「では、そう言う事で……」
ムイの中にいるカーラがそう言った。そしてムイから出て行ったのか、意識がなくなってぐったりになった!
どうなっている?!
「っち。してやられたな! 誰かが呼んだんだ!」
そう言う事か!
アーチさんが、干渉を受けない様にと言って、この部屋自体にも結界を張った。それは、外からカーラを呼ばれない様にする為だったんだ!
自分から出られなくても俺がしたように、呼ばれれば移動できる!
そういう仲間がいたって事だ。
「おりゃぁ!!」
どぉーん!!
「お前! ここをどこだと思っている! 手加減しろ!」
建物を派手に壊され、壊したフェイさんにアーチさんは叫んだ。
フェイさんは、ムッとしたようにアーチさんを見ている。
「せめて俺ぐらいには、言っておいて下さい!」
「……あぁ。急だったもんでな。悪い」
あの一時間は、ムイに封印を施す時間だったようだ。
って、フェイさんの言う通り、伝えていれば逃さなかったかもしれなかったのに!
その後、ギルドは騒然となったが、集まった冒険者で襲ってきた賊は全員、捕らえられたのだった。
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「いやぁ。参ったなぁ。これは減給だろうなぁ」
ソファにもたれ掛かり、背もたれに頭まで預け、ため息交じりにアーチさんは言った。
俺はその態度にイラっとくる。
アーチさんは、冒険者ギルドが壊された為封鎖し、押しかけて来る冒険者達を避ける為に、俺達のカムラッド、ミラクルの事務所に来ていた。
「でしょうね! 媒体であるムイさんに怪我を負わせて、彼女から何も聞けないうちに逃がしたのですから!」
「そう言うなって! まさか俺もあそこに賊が押しかけてくるとは、思いもよらなかったんだから」
俺は、アーチさんの横に立ち、睨みつつ言うもアーチさんは、いつもの感じだ!
「あのさ。一体何があったんだ?」
一人全く事情を知らないグレイブさんが、アーチさんの向かい側に座って俺を見上げ聞いた。
グレイブさんの横に座っているフェアルも聞きたそうに、俺を見ている。
フェアルには、俺一人で言いに行くから、先に事務所に行っていろとここで待機させていた。そうしていておいてよかった。
「魔法陣を描いたと思われる人物をおびき寄せたけど、失敗に終わったって事。何故かバレて、賊が冒険者ギルドに乗り込んで来た」
「ギルドに!?」
俺の説明にグレイブさんは、驚きの声を上げた。
まあ、普通は驚くだろうな。賊が乗り込んで来るなんて、前代未聞だもんな。
「彼女を操っていた奴が、賊の中にいたんだろうな。だから彼女を助ける為に、襲わせた。いや、結界を解除させたが正解かな」
そうアーチさんが言う。
そうなると、あそこで呼び出した事を知っていた事になる。
「予言なのか……。それとも内部に内通者がいるか」
そう言って、チラッと俺を見る。
「まさか俺を疑っているのか?」
「いや。お前をマークしているのかなと思っただけさ」
「俺?」
アーチさんは、頷いた。
そう言えば、馬車が襲われたのが最初だ。
でも、ここに魔法陣を描いたのは、それよりずっと前だ。
俺がフェアルに接触するのをずっと前から知っていた?
俺はジッとフェアルを見つめた。
一体、彼女に何があると言うのだろうか?




