004 ☆馬車で着いた先は☆
次の日の朝早く、私はリーさんと一緒に馬車に乗り街を出発する。休憩を挟みながらで、次の日の朝には着く予定です。
がさごそと肩掛け鞄からリーさんは、紙を取り出した。
「これ、古い文献に載っていたカード師の事を書き写して来たんだ。時間がなかったからただの丸写しだけど、訳して読んでみるといいよ」
紙を受け取ると、またリーさんは鞄の中に手を突っ込み、がさごそとする。私は受け取った紙を開いてみた。
そこには見た事のない文字が書かれていた。昔の文字だと思うけど、本当に丸写ししてきたみたいね……。
「はい」
翻訳の辞書なのか、本とペンを渡される。
「ありがとう」
まあ暇だしいいか。
私は午前中、翻訳に時間を費やした。
「そろそろ昼ごはんにする?」
ちょうど翻訳し終わった頃、リーさんがそう声を掛けて来た。
私は頷き、紙などをリュックの中にしまい、代わりにお弁当を出す。
明日の朝に着く予定なので、今日の昼と夜の分はお弁当を作って来た。と言っても母さんが作ったんだけどね。
お弁当と言ってもごっちゃ煮。米を煮る時に味を付けた汁に、色んな材料を入れて煮るだけのもの。
因みに夜もこれです……。贅沢は言えないのでこれで十分。
もし王都で働ける様になったら母さん達も呼んで、美味しい料理を毎日食べて……夢は膨らむ。
「大丈夫? まだ緊張ほぐれない?」
リーさんは、ジッと私を見て言った。
私が食べながら思いにふけていた為に、そう取ったらしい。
「いえ。大丈夫です。どちらかというと、期待に胸がいっぱいというか……」
「そうだね。憧れの王都だもんね」
リーさんでも王都に憧れているのかな?
「リーさんって、王都行った事あるんですか?」
「うん? 君と同じで行った事あるよ」
「え!?」
という事は、リーさんって魔力5以上! って、私平均知らないや……。
「あの、魔力の平均ってどれくらいなんでしょう?」
「3と4が多いかな。1で冒険者になれる人は少ない。5は役職系につく者が多い。その為の研修なんだ。特に戦闘系じゃない者達は、冒険者ギルドの職員や王宮内に就職することの方が多いね。俺みたいに」
「そうなんだ……」
って、事は……。夢が現実になるかもしれない!
私って戦闘系じゃないよね?
冒険もしてみたいけど、王宮で働けるならそっちがいいなぁ。
私は胸いっぱいになり、お弁当をリュックにしまった。そしてそのリュックを抱きしめ王宮で働く自分を思い描く。
……うん、待てよ。王宮の人達ってどういう格好しているの?
ちらっとリーさんを盗み見る。
冒険者ギルドの制服を着ているが、これじゃない事を願う。
もうちょっと、高貴な感じがいい!
そんな事を思っていたら急に馬車が方向転換をした!
私はリュックを抱いたまま、コテンと横に倒れ込む。
え? 何?
左右に右往左往するように進んでいるけど、スピードは緩めない。
何これ!
私は横になったまま、ギュッと縮こまっていた。
「賊だ! なんでこの馬車を?!」
外の様子を伺ったリーさんが言う。
見ればリーさんに笑顔はない。ジッと外を見て、厳しい顔つきになっている。
「フェアルさん、いつでも馬車から降りれる用意して! いざとなったら森の中に逃げるよ! 相手は馬だから道の上を走っても逃げられない!」
「え!?」
私は体を起こしリュックを背負うと、外を見た。
二人の男がそれぞれ馬に乗り、馬車を挟んで走っていた!
って、森に逃げて逃げ切れるの?
「用意はいい?」
リーさんが私を見て聞いてきた。私は頷く。リーさんは、こつんと馬車の運転側を叩く。そうすると急にまた右に折れた。そこは森の方向。でも道なりではない。
馬車が森の手前で止まった!
「降りるよ!」
バンッとドアを開け私達は馬車を降り、森の中へ向かう。
振り向けば、御者が賊の一人と対峙していた!
「ねえ、あの人は?」
「大丈夫! 一応訓練は受けている冒険者だから!」
ガシッと私の手を掴むと、森の中を走り出す。
「女もいる! 絶対逃がすな!」
御者と対峙する賊が叫んだ! 馬車の反対側に居た賊が、追いかけて来る!
馬を乗り捨て、森の中を走り慣れているのか、段々と距離を詰めて来る!
「くそ。あんなのに捕まったらどうなるか……」
「あの……。倒せないの?」
つまづきながらも、何とか私は走り続けていた。足なんてひっかき傷がいっぱい出来ている!
「俺は鑑定師なんでね! 攻撃できるスキルも魔法も持ち合わせてないよ! 捕まれば殺されるか、売り飛ばされるかのどちらかだよ!」
何故か眼鏡を外しつつ、リーさんは絶望的な言葉を言った!
嘘でしょう!
私のイメージでは、冒険者って凄く強いイメージがあったんだけど!
でもよく考えれば、自分だってカード師できっと攻撃系のスキルも魔法もないと思う!
わーん! 王宮に務められるかもしれなかったのに!
「俺がジャンプ出来る場所!」
何故かリーさんがそんな言葉を叫ぶ。
「あった! こっち!」
突然左側に引っ張られる。
森を抜け崖が現れた!
って、行き止まりじゃない!
「しっかり掴まって!」
フッとリーさんが私を抱きかかえた。いわゆるお姫様だっこ!
「えー!」
「行くよ!」
「きゃー!!」
何を思ったのかリーさんは、崖をジャンプした!
確かに向こう側にも崖がある。でも人間には飛び越えて渡れる距離じゃない!
私はギュッと、リーさんの首に抱き着いた!