047 ★エスペンのバットスキル★(リー視点)
エスペンさんは、ジッと俺達を睨み付けていた。
――ジャンプが封印されました!
何? 封印? もしかして複数に掛けるのが可能なスキルなのか?
――鑑定拒否が封印されました!
効果は十分。その間に何かを仕掛けてくるつもりなのか? けど、攻撃系は何のスキルはなかったはず! どうする気だ?
――空間鑑定が封印されました!
俺がジッとエスペンさんを睨み付けていれば、後ろからそっと彼に近づくグレイブさんが目に入った。
「全員を封印した。なあ、リー。お前はわかるんだろう?」
そう言いながらエスペンさんは、後ろを振り向いた。グレイブさんが近づいていた事に気づいていたみたいだ。
「そうだな……。で、復讐したい相手は、王宮の奴らなんだろう? だったらフェアルを離せよ。彼女は関係ない!」
「関係ない? あるだろう? 女に聞いた! 王子が目を掛けている二人だ!」
女? 男じゃないのか? ――そうか! マーリンの中にいた女か! しかし王子が目を掛けているって話を信じるか?
「何で俺達が王子と接点があるなんて思うんだ? 俺は会った事もない! 騙されているんだ! フェアルを離せ!」
俺がそう言うもエスペンさんは、またもや鼻を鳴らすだけ。
「お前はいいよな。バットスキルを使ったって、気を失う程度ですむんだからな! 俺は命を削られるんだ!」
命を削られる?!
俺がチラッとアーチさんを見ると軽く頷いた。本当って事らしい。
「あの。じゃ、使わなければ……」
よせばいいのにまた余計な事をフェアルは言った。
「俺は冒険者になりたかった! この願いは叶えられたさ! 寿命と引き換えにな!」
寿命だと! 時間経過増加ってそういうバットスキルだったのか!
「それが判明して、内勤になっただろう!」
「そうだな。鑑定師なのに鑑定すらさせてもらなかったけどな!」
スキル使うと命を削るんだろう? 確かに鑑定師なのに鑑定させてもらえないなら、なんの為にいるんだって事になるだろうけど。
「でも、スキル使うと寿命縮むんだよね?」
「だから君は黙っててば!」
フェアルがまた余計な事を言ったので、慌てて言うも遅い。エスペンさんは、首に回した手を引き寄せ、フェアルの首を絞める!
「やめろ!」
「うるさい黙れ! 鑑定では寿命は縮まない! 発動時間が十倍になるからな! それを知っているのにワザとだ! 王子が仕向けたんだ!」
それを聞いたアーチさんは、大きなため息をついた。
「エスペン。取りあえず、手を緩めてやれ」
「げっほ。げっほ」
何故かエスペンさんは、アーチさんの言われた通り手を緩めた。
発動時間が十倍って言ったな。鑑定は一瞬。一秒いや二秒だとして二十秒になる。確かに変わらない。けど、ランダム封印は、封印している時間も含めるなら十分だ。十倍すれば百分。一時間半以上になるのか。
経験値が上がり、複数に掛けられるようになり、気が付けば歳を取っていたって事なのか?
「アーチさん。彼の今の本当の年齢は?」
「お前とかわらん」
ボソッと聞くと、ボソッと凄い答えが返って来た。
俺と同じ!? 十歳ぐらい年を取ったのか! 何年で取ったんだ? 十六歳からだと仮定すると、五年で十歳取った事になるのか!
「リー。お前にわかるか? 気づけば二十代が過ぎ去っていた! 鏡を見て自分の姿がおかしいと思っても自分じゃ鑑定出来ない! 年に数度鑑定していたんだ。気づいてもおかしくないのに、知らないフリして前線出されていた!」
確かにそれじゃ恨むかも知れないけど。何故それで俺達が巻き込まれるんだ!
「まったく。助け出してやった俺じゃなく、その女の方を信じるなんてな! 一回しか言わない! フェアルを離せ!」
「……女も信じているだ。俺に年齢が三十代になっていると教えてくれたのは彼女だからだ!」
エスペンさんの言葉にアーチさんは珍しく一瞬本当の表情を表に出した。驚いていた。
女性に会っていたのは、王宮にいた頃からで、しかも前線にいた時から。アーチさんが考えていた時期より前から、接触があったって事なんだろうな。
しかし彼女は一体何者なんだ? どうやって接触を? そして何の為に?
「なるほど、だから年齢を調べてってか」
アーチさんは頷き、腕を組んだままニヤッとした。
「だが彼女が言っている王子と繋がっている相手は間違えている。そいつらじゃなくて俺だ!」
え? マジなのかはったりなのか……。
エスペンさんを見れば、困惑しているのがわかる。
「エスペン?」
アーチさんが名を呼ぶと、エスペンさんはスッとフェアル離した。俺じゃなくせめてグレイブさんのところに逃げ込めばいいものを、解放されたフェアルは、ダッと俺の元へ駆け寄った。
「で? どうやってその女と連絡を取り合っていた?」
アーチさんの質問にエスペンさんは首を横に振る。協力するつもりはないのか?
「取り合ってはいない……」
そうエスペンさんは答えた。首を横に振ったのは、違うという意味だった。
「俺は、彼女の姿は見たことはない。いつも声だけだ」
驚くような事をエスペンさんは続けて言った!
どういう事だ? そういうスキルでも……いや、マーリンの中にいた彼女には、そんなスキルはなかった。別人なのか?
チラッとアーチさんが俺を見る。そういうスキルはあったのかと言う問いかけだろう。俺は首を横に振った。
「そうか。だがマーリンの中にいた女だと思うんだかな。今回の事も……」
そう言って難しい顔でアーチさんは唸る。
どうやらアーチさんの中では、ある程度相手の動きがわかっているみたいだ。
「マーリンの中にいた女?」
エスペンは不思議そうに呟いた。彼は本当に何も聞かされずに、鑑定の為だけにきただけだったみたいだ。
「っていうかさ。俺を鑑定してどうしようとしたのさ。俺はてっきり、アーチさんに頼まれてやったんだと思っていた」
俺がそう言うと、エスペンさんはふんと横を向く。どうやら俺を気にくわないのは、本当らしい。態度があからさまだ。
「エスペン。もうわかっていると思うが、お前の願いを聞き入れたのは王子だ。だから話せ。なぜこんな事をしたのかを」
王子と繋がっているって話は本当だったのか!? この人何者だ? まさかと思うけど、ギルドマスターをやっているのも王子の命令じゃないだろうな?
何か命を受けて、ここにやってきた。そう俺は直感したのだった。




