044 ☆思わぬ出来事☆
リーさんとエスペンさんが部屋に入ってから少しして、何か部屋が騒がしくなった。何か言い争いをしているっぽい?
グレイブさんと目が合うと、グレイブさんは部屋のドアを開けた。
「おい! 何かさっきから音が……」
そう言ってドアを開けたグレイブさんは、一瞬動きを止めるも慌てて中に入って行った。見ればグレイブさんがエスペンさんを壁に押さえつけ、魔法陣の上にリーさんが寝っ転がっていた!
え? 何この状況……。
「え? 何? リーさん大丈夫?」
「フェアルは来るな!」
中に入ろうとすると、リーさんに止められた。それからすぐに部屋を出たリーさんは驚く事を言った。
「いいか。アイツには近づくな。それと、絶対に部屋に入るな。あの人多分、鑑定師だ。アーチさんに騙されたよ……。くそ……」
グレイブさんに帰れと言われて、私達は事務所を後にする。
「う……」
「大丈夫? リーさん」
痛そうに頭を押さえている。
「大丈夫。フェアル、エスペンさんには気を付けて。アーチさんが俺達のステータスを確認する為に、置いて行った人だよ」
「うん。わかった。気を付ける」
私は心配だから、断るリーさんをマルモンドさんの家まで送って行った。
「もう、大丈夫だって」
「いいから。大人しくねていなさい」
マルモンドさんに言われ、リーさんはベットに横になる。
「明日迎えに行くから一人で行かないでね!」
「うん……」
そう返事をして、リーさんの部屋を出た。
「何があったのだ?」
「うーん。喧嘩したみたい」
そう言うと、マルモンドさんは驚いていた。
いや私も驚いたよ。
何かエスペンさん、最初と雰囲気変わっていたし……。
「じゃ、私はこれで。リーさんをお願いします」
「あぁ。気を付けて帰るんじゃよ」
「はい」
村に来た馬車に乗り一旦街まで行く、そして自分の村に向かう馬車に乗り込んだ。
それにしても一体何があったんだろう。
私は流れゆく景色をボケっと見つめ考えていた。
あれ? エスペンさん?
レモン色の髪に淡い青のローブ。多分そうだ。
隣にいる人だれだろう?
フードを被った黒いローブの人。
って、その人は、エスペンさんが指差す方に去って行った。
あ、道案内か。
エスペンさんって明日も来るのかな?
まあ仕事があるから来るんだよねきっと……。
家に帰った私はふと思い出し、入れっぱなしだった布をリュックから取り出した。これで少し軽くなる。
疲れたのか凄く眠くなったので、布を抱きしめ私はその日はぐっすりと眠った――。
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次の日、迎えに来てくれたリーさんと一緒に事務所に向かう。リーさんは、もう大丈夫そう。
事務所のドアを開けると、何故かグレイブさんと並んで部屋の前に立っている。
「おはようございます……って、何しているんですか?」
って、話しかけて振り返った二人は、顔色が悪かった。
一体何が……。
凄い事が起きたみたい!
魔法陣の消滅!
って、また二人が喧嘩に!
胸倉を掴まれたリーさんが、眼鏡を外した!
エスペンさんを職業鑑定したんだ!
「兎に角落ち着け! エスペンさんもリーから手を離して!」
グレイブさんにそう言われ、エスペンさんはリーさんから手を離す。
「アーチさんに連絡を取ろう」
グレイブさんの言葉に頷くも、エスペンさんが不服そうにリーさんを睨む。
「その前に、リーさんの鑑定をさせてもらえませんかね?」
「はあ? 何で?」
エスペンさんは、部屋を指差す。
「魔法陣を消してないという証明の為です! 昨日あれだけやがったのですからあるんじゃないんですか? 消すスキル」
「ふうん。あったとしても俺には魔法陣は消せない! 鍵はあなたが持っていた。逆じゃないのか? 俺に疑いをかける為に魔法陣を消した」
そうエスペンさんにリーさんは言い返し、二人は睨みあう。
「消せる訳ないだろう? 俺は魔導士じゃない! 鑑定師だ!」
「そうみたいだね。驚いたよ。封印してくるなんて! 鑑定師だって言うなら俺も一緒だ! あなたこそ失敗に終わったから俺に罪を擦り付け、疑いの矛先を俺に向けようとしたんじゃないのか?」
「なんだと!!」
「だからやめー!」
グレイブさんが叫ぶ。
二人が大人しくなった。グレイブさんがいてよかった。
「フェアルさん、悪いけど受付のミティアさんに連絡入れてもらっていいかな?」
グレイブさんが私にそう言った。
この状況で二人っきりに出来ないし、どっちかが行くとなればまた文句の言い合いになりそうだもんね。
私は頷き、冒険者ギルドに向かった。
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「あのすみません。お話があるのですが……」
「はい。何でしょうか」
私は受付のミティアさんに声を掛けた。
こげ茶色のボブがとても似合う大人の女性。彼女もギルドの制服を着ている。
「えっと、ここではちょっと。アーチさんに連絡してほしい事があって……いえ、ありまして」
「わかりました。少しお待ちください」
そう言って立ち上がり奥へ。数分後なんと、ヌティーナさんと一緒に戻って来た。彼女は、私をキッと睨んで、受付の椅子に座った。
ミティアさんの代わりに受付業務をするみたい。
「こちらへ、どうぞ」
ミティアさんについて行くと、応接室に通された。
「で、何でしょうか?」
入ってすぐ、座る事無く質問された。
「あぁ、えーと。事務所の奥の部屋にあった魔法陣が消滅したみたいで……」
ミティアさんの右眉がぴくんとなった!
「わかりました。ではカウンターの近くでお待ち下さい。ブラックバードの者と連絡を付け、一緒に向かわせます。マスターにも連絡を入れておきます。それで宜しいでしょうか?」
「え? あ、はい」
「では」
話は直ぐに終わり、私はカウンターに向かった。
しかしミティアさんは、動じなかったなぁ。驚いてはいたみたいだけど。
「あなた何をしたの?」
カウンターの所に行けば、ヌティーナさんに睨まれ質問された。
「いえ、別に……」
「別にって。あぁ、リーが何かやらかしたんでしょう? いい迷惑だわ!」
暇そうにしながらそう言った。
「今度は冒険者剥奪かしらね?」
そして嬉しそうにそう付け加えた。
文句を言いたいけど、口ではいや、口以外でも勝てないから大人しくしておく。
「君がフェアルかい?」
「あ、はい」
そう声を掛けられ振り向けば、アーチさんと同じぐらいの年齢の男性が立っていた。
深緑の髪と瞳に黒いローブ。
うーん。どかで見かけたような?
「では行こうか」
とスタスタと歩き出す。
え? 自己紹介なしですか? お名前ぐらい教えて欲しいんですけど!
私は彼の後をついて、事務所に向かった――。




