043 ★助っ人の正体★(リー視点)
エスペンさんは、部屋を見渡す。窓もなく人に見つかりづらく、秘密を持つのにはもってこいの部屋だ。
「で、どこまで鑑定しました?」
俺はメモを渡す。それを受け取ったエスペンさんは目を丸くしていた。
ほぼ何も書かさっていない。ど素人の俺一人では進む訳がない!
「一つ聞いていいですか? 何故、自動鑑定使わないんですか?」
メモから顔を上げ、エスペンさんは俺をジッと見つめ静かに言った。
アーチさんから聞いていたのか? って、人の事ペラペラと!
「こんな事しなくても一発ですよね?」
「使わなくていいって、許可はとってますけど? それ使ったらぶっ倒れるし」
「ぶっ倒れる? それだけのリスクでしょう? 俺から見れば、そんなのデッドスキルじゃないですけどね」
なんだこの人。急に態度が変わったな。
「まあいいや。教えてあげるからまず、魔法陣の中央を調べて」
そう言って魔法陣の中央を指差す。
ムカつくけど従うしかない。
魔法陣の中央に進むとエスペンさんが近づいたと思ったら、本を置かれた。
「このページの通りに鑑定して、メモとっておいて。後それが終わったら、このページのやり方で同じ場所を鑑定」
ぺらっとめくってそう説明した。
「それが終わったら……」
「ちょっと待って! そんないっぺんに言われても……」
エスペンさんは、ジトッと俺を見る。
「嫌なら自動鑑定すれば?」
何なんだ? 何か敵意を感じる。って隠す気がまるでない。
もしかしてアーチさんに、何か吹き込まれているのか?
あの人ならやりそうだ……。
「わかりました。覚えますから説明お願いします」
「そんなに使いたくない?」
「何故使わせようとする? アーチさんに言われた? それにしてはダイレクトだね?」
俺がそう言い返すと、ふんと立ち上がる。そして魔法陣の端に屈んだ。
エスペンさんの意図がわからない。確かに使ったら一発だ。使わせたいだけなら、アーチさんが言うだろう。
使わせる事に意味があるとしても直接的過ぎる。何か裏があると思って使わないだろう。
俺は本とにらめっこをしながらそう考えていた。
――空間鑑定が、封印されました!
え? なんだ? 封印?
って、まさか!
俺はエスペンさんを振り返った。彼は魔法陣の外から鑑定を行っていた!
――ジャンプが封印されました!
「ちょ!」
俺は立ち上がり、慌てて魔法陣の外へ走った!
――鑑定拒否が封印されました!
なんだって!!
「あ……逃げられましたか」
やばかった! 後一歩遅かったら鑑定されていた!
この人、回復を持った魔導士じゃなかったのか?!
何者だよこいつ!
俺は眼鏡に手をやるも、ハッとする。
ここではまずい。魔法陣も鑑定してしまって倒れる!
「別にいいですよ。自動鑑定してください」
ニヤッとして、エスペンさんは言う。
「まさか、俺を鑑定する為に!」
「おとなしく魔法陣の中に入って下さい。一瞬で鑑定は終わるので!」
そう言って、エスペンさんが俺の手を取った。
「離せよ!」
「俺にスキルを使わせたんだから、大人しく鑑定させろと言っているだろう!」
「何だよそれ! 勝手にやったんだろう!」
俺達は取っ組み合いになった。って、俺は防戦だけど、エスペンさんは容赦ない!
髪はひっぱるし、腹は蹴るし。
そしてとうとう、蹴り飛ばされドアに激突した。
「う……。げっほ」
俺はお腹を擦りながら、エスペンさんを睨む。
「必至だな? そんなに見られたくない?」
何なんだ! バレたから問答無用でやってるのか?
それともやけになってるのか!?
ガシッと足を引っ張られ、俺はひっくり返る。ガツンと頭を打った!
「いった……」
「おい! 何かさっきから音が……」
ガチャッとドアが開き、グレイブさんが俺達を見て一瞬固まった。
「って、何やってるんだ!」
た、助かった。
って!
グイッと、足を引っ張られそのまま魔法陣の中に連れて行かれた。
やばい!
ダン!
足から手が離れたと思ったらグレイブさんが、エスペンさんを壁に押し付けていた!
「え? 何? リーさん大丈夫?」
フェアルも横になっている俺を見て驚いた声を上げる。
「フェアルは来るな!」
俺は咄嗟に叫んだ。万が一鑑定が行われたらアウトだ!
フェアルはビクッとして、ドアの前に佇んで入ってこない。
俺は安堵し立ち上がって、部屋を出る。
「リーさん、一体何が?」
屈んだ俺の横に来たフェアルが、心配そうに声を掛けて来る。
俺はチラッと後ろを振り向き、押さえ込まれているエスペンさんを睨む。
「いいか。アイツには近づくな。それと、絶対に部屋に入るな。あの人多分、鑑定師だ。アーチさんに騙されたよ……。くそ……」
「え?! どういう事?」
「リー! 今日はもう帰れ!」
エスペンさんを押さえつけたまま、グレイブさんが叫ぶ。
「離せ!」
「アーチさんの命令か何か知らないけど、乱暴すぎるだろう!」
グレイブさんが怒鳴ると、エスペンさんが静かになった。
「悪い。グレイブさん。そうさせてもらう」
俺は立ち上がるもふらついた。
「え? リーさん大丈夫」
「ごめん。大丈夫。フェアルも行くよ」
「うん……。二人にして大丈夫かな?」
「グレイブさんには勝てないよ」
俺に魔法は使ってこなかった。持っていないはず。だったらグレイブさんには敵わない。
それにしてもまさか、鑑定拒否を封印出来るとは思ってもみなかった。
俺達は二人を残し、事務所を出た。
グレイブさんが何かを聞きだしてくれるといいけど。
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次の日、フェアルを迎えに行き事務所に向かった。
封印はあの後、五分もしないで解除された。十分程の封印だけど気づけなければアウトだった。
事務所のドアを開けると、奥の部屋のドアの前に佇む二人の姿が目に入って来た。衝立はいらないので撤去してある。
部屋のドアは開いていた。
「おはようございます……って、何しているんですか?」
フェアルは、不思議そうに声を掛けた。
グレイブさんとエスペンさんがゆっくりと振り向けば、二人共顔が青ざめていた。
「お前が消したのか……」
ボソッとエスペンさんが言った。
消した? どういう意味だ?
部屋を覗き込んで驚いた。魔法陣が綺麗に消えていた!
何でない?
驚いてエスペンさんに振り向けば、ガシッと胸倉を掴まれる。
「鑑定されない為に消しただろう!!」
はぁ? 何を言ってるんだこの人!
「鍵を持っているのは、あなたでしょう! それに俺にそんな事は出来ない!!」
「そんな事わかるもんか! 昨日必死に隠したくせに!」
「へえ。良く言うよ! 魔導士だと偽っていたくせに!」
俺はそう言って、眼鏡を取った!
やっぱり鑑定師だった!
魔力5の鑑定師。魔法はなし。ランダム封印に鑑定拒否。そして時間経過増加? これがバットスキルか?
「兎に角落ち着け! エスペンさんもリーから手を離して!」
グレイブさんにそう言われ、乱暴に手を離す。
ランダム封印。――封印する度に鑑定を行っていた。多分エスペンさんには、何が封印されたかわからないって事だ。
しかしアーチさんも面倒な人置いて行ったよ!
エスペンさんは、俺を凄い目つきで睨んでいた――。




