040 ☆告白☆
頭が痛い。ガンガンする……。
ガシッ。
「おっと危ない。大丈夫? 目を覚ました?」
「うん? リーさん?」
「リーでなくてごめん……」
うん? グレイブさん!?
私はソファーから落ちそうになって、グレイブさんに支えられていた!
私はガバット起き上がる。
「いきなり起き上がって大丈夫?」
ソファーの前に片膝をついて、グレイブさんは私に言った。
グレイブさんって、紳士だよね……。
リーさんとは大違い。
「えっと。大丈夫です……」
あれ? 私なんでここに横になっていたんだろう?
「君は鑑定していて、具合が悪くなって倒れたんだよ」
私が首を傾げていたからか、聞かずともグレイブさんがそう教えてくれた。
そうだ私、鑑定していたんだった。
はぁ……また迷惑掛けちゃったのか。
「変な事聞いて言い? 君達ってどういう仲? 恋人同士とか?」
「え! 恋人!? いえ、違います!」
私は手を体の前で振って完全否定!
リーさんが恋人とかあり得ないから! 私は優しい人がいいです!
「そっか。ごめん。なんか一緒にいるからさ。あ、同じ事務職員だったの?」
まあ、不思議かもね……。私も不思議だもん。
「えっと実は私、冒険者になったばかりで、リーさんに鑑定してもらったんだよね。それでほら……魔力が7あったから王宮に……」
なんか魔力の事は言いづらい。皆気にする事らしいし。でもグレイブさんは、真面目な顔でうんうんと相づちを打っている。
「その時にリーさんと一緒に行く事になったんだけど、賊に襲われてね。それから一緒というか……。でもなんで賊に襲われるのかわからないんだよね。マーリンさんに聞いたけど、内緒って言われたし」
「え? マーリンさんに聞いた? そ、それってどういう意味?」
あれ? グレイブさんってどこまで知っているんだっけ? 私またやらかした?
チラッと見れば、ちょっと怖い顔つきで私を見ている。
やばい。これ知らなかったぼい……。
「もしかして、彼女も賊だったの? ただ鑑定をしに来ているだけじゃなかったのか? 君に一体何をしようとしたの?」
あぁ、やっぱり何も知らなかったんだ!
そうだ。マーリンさんに襲われた事にはなっていなかったんだ。事故に遭って死亡した事になっていたんだった……。どうしよう。
よく考えれば、ムイさん達の事だって私達は何も聴取されていない。逆に言えば何も聞かされていない!
これどこまで話していいの? リーさんに聞かないとわからないよ……。
「俺達は殺されかけたんだ」
突然声が聞こえ驚くも、リーさんが怒ったような顔つきで立っていた。いや、私を睨んでいた……。
「あ、えっと。ごめんなさい。口が滑ったというか……」
「別にいいよ。どうせ後でわかる事だし。あの人の優先順位で、ほっとかれているだけだから」
「優先順位?」
私がそう言うと、リーさんは頷いた。
「ムイさん達から色々と聞きだす事が先なんだろう? 俺達をここに置いておけば何時でも話を聞けるからね。だからゆっくり鑑定してOKなんじゃない?」
「あぁ、それでカムラッド設立か……。何も聞かれないからどうなってるんだとは思っていたけど」
そう言ってグレイブさんは立ち上がり、向かい側のソファーに腰を下ろした。
なるほど。リーさんってなんでそういう事わかるんだろう?
「先に一つ言っておくけど、マーリンは男だから。俺達……ムイさん達も含め騙されていたんだ。なぜ性別を偽っていたかはわからないけどね」
「え!? そうだったのか……」
あれ? マーリンさんが男だって事も知らなかったの!?
グレイブさんは、見てわかるほど、落ち込んでいた。
「ごめん。グレイブさん……」
「え? あ、いや……。別にリーが謝る事じゃ……」
「………。ねえ、もう今日は疲れたから帰ってもいいかな?」
「え?!」
突然の言葉にグレイブさんは驚くも頷いた。
「明日からはちゃんとするからさ」
「いや、ゆっくりでいいよ。って、俺なんて何も出来ないんだし……」
「じゃ行こう、フェアル。はい、これ」
「え? 私も帰るの?」
睨む様にリーさんに頷かれ、私がカードにする為に用意した布を渡される。それをリュックにしまった。
「帰る時に戸締り宜しく」
「あぁ、気を付けて帰れよ」
私達は頷くと、事務所を後にする。
リーさんは、すたすたと前を歩く。
「あぁ俺、寄る所あるから帰っていいよ」
「え? どこに寄るの?」
って、別に私に用事があるわけじゃなかったんだ。じゃ私は、事務所に残ってもよかったんじゃない?
はぁ……。
ってリーさんは、立ち止まってため息をついた。
「わかってないでしょう、君。グレイブさんを一人にしてあげたんだよ」
「なんで?」
「君って本当に子供だね!」
何それ! わからないから聞いただけなのに!!
「……ごめん。俺も大概だよな……」
「え?」
うーん。たまにリーさんの言う事は難しい。
「一緒に来る? まだ家に帰るの早いよね? 買い物が終わったらマルモンドさんの所に一緒に行く?」
「行く!」
私が喜んで返事をすると、クスッとリーさんは笑った。
作り笑顔ではない笑顔ってカワイイだけどね……。いつもこうしていればいいのに。って、本人に言ったら怒りそうだから言わないけど。
でどこに寄るかと思えば、雑貨屋さんだった。そして買った物が手ぬぐい!
そう言えばこの前、真新しい手ぬぐい貸してもらったけ? ……リーさんって、人が使った物が使えないタイプの人?
リーさんの物には触れないでおこう!
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「ただいま」
「うん? おぉ、今日は早いな……。って、フェアル!」
畑を覗けば、マルモンドさんが畑仕事に精を出していた。そして私を見て喜んでこっちへ飛んでくる。
「どうした今日は。そう言えばカムラッドを設立したんだったな」
「うん」
「はい。これ……」
私達が話していると、スッとリーさんが出して来た。あの買った手ぬぐいを!
これって、マルモンドさんに買った物だったんだ!
「うん? これは?」
「本当はもっと早く渡そうと思っていたんだけど、色々あって遅くなった。えっと、ここに住まわせてもらう、お近づきに?」
「おぉそうか。すまんな。ありがとう」
マルモンドさんは、嬉しそうに手ぬぐいを受け取った。
そして今首に掛けていたタオルと交換する。その古いタオルをギュッとポケットにしまった。
「どうだフェアル。冒険者の方は」
「うーん。結構大変かも……。でもグレイブさんは優しいし」
「グレイブ?」
「俺の村の人。その人がリーダーなんだ」
私達は大きな石に腰を下ろし、マルモンドさんを挟んで語り合っていた。
リーさんの説明を聞き、マルモンドさんは腕を組んで、何故かワザとらしくうんうんと頷く。
「三角関係か」
「だからどうしてそっちにいつも話を持っていくのよ!」
私がマルモンドさんに抗議するけど、リーさんはクスクスと笑うだけ。
「フェアルにはそう言うのはまだ早いみたいだよ」
「早くはないだろう? 適齢期だ!」
っとマルモンドさんは言って、突然肘でつんつんと突かれた。
「で、どうなんだ? 本当に何も進展はないのか?」
「ありませんって!」
「そうか? 前より打ち解けたみたいじゃないか。リーくんは、フェアルを呼び捨てにしているぞ!」
「呼び捨てって……。い、五つも下なんだから別にいいだろう」
まさかそう返って来るとは思っていなかったのか、リーさんもちょっと驚いている。
今更ながら気が付いた。まあ、別にさん付けじゃなくてもいいけど。
そっか。一応打ち解けたのかな……? って、見下されているだけのような気もするけど。
私達はたわいのない話を語り合った。
やっぱり親にちゃんと話そう。カムラッドに入って普通の冒険者やってますって。じゃないと、家で安らげない。
私はその夜、両親に正直に告げたのでした――。




