039 ★彼らの想い★(リー視点)
何を言い出すかと思えば、カムラッドを設立しろだなんて!
俺かフェアルをリーダーにでもするつもりか?
「俺もフェアルもステータス確認無理だと知ってますよね?」
アーチさんはニヤッとする。とても嫌な予感がする……。
「いやいや、リーダは彼。一番年上のグレイブ」
「えぇ!! お、俺!?」
グレイブさんは声を裏返らさせて驚いた。
俺も驚いた。まさかそう来るとは!
まあグレイブさんも含め、監視下におきたいのならいい提案だが、そう簡単な話じゃない!
そもそもさっきまで魔力がと言っていたのに、魔力3のグレイブさんをリーダーにって……。言っている事がおかしいだろう!
「いやこう言ったらあれだが、リーダーなんて誰でもいい」
「誰でもって……」
それはそれで、グレイブさんに失礼だろうに。
「竜牙の事務所には、魔法陣がある。あれをそのままにして貸し出す訳にいかない。と言って、何も調べずに消す訳にもいかない。そこでだ。リー、お前が調べろ。お前鑑定師だろう? 今回の事件の関係者だし。ムイ達が賊だって事は公表するが、魔法陣の事は伏せるつもりだ。うってつけだろう?」
「………」
うっけつけって……。まさか、自動鑑定させる気じゃないだろうな? 俺はやらないぞ!
「あの……よい提案だとは思うのですが、先立つものがないというか……」
グレイブさんがボゾッと言った。
そう一番の問題はそれだ!
「じゃ、こうしよう。依頼の前払いという事で、こちらで設立費用を出すっていうのはどうだ?」
「悪いけど俺には魔法陣の鑑定は無理! 俺が魔法陣に疎い事知っていますよね? しかも一人でやるのですよね? どれだけ時間かかると思っています? 眼鏡は外しませんよ!」
「別にかまわん。ブラックバードに鑑定師はいないし、どちらにしてもお前にやらせるつもりだったしな。カムラッドとして部屋を使っていた方が自然だろう? いやぁ、俺って頭いいなぁ」
「頭いいなぁって……はぁ」
元からそのつもりだったんだろう? だからブラックバードに誘った。こういう話に持って行く為に!
本当にこの人のやり方はムカつく!
「で、どうだ? グレイブ、フェアル」
「俺は……二人がいいのなら。でもいいんですか? 俺なんかをリーダーにしてしまって……」
「まあ仕方がないんだよな。この二人は鑑定拒否持ちだから誰も鑑定出来ない」
正確には俺しか鑑定拒否を持ってないけどな。
「フェアルお前は?」
「え? えーと……私そこで何をすればいいのかな?」
「うん? 二人の補佐?」
チラッとフェアルが俺を見て来た。これは受けるしかないだろうなぁ。でも……大丈夫なのか? この人ならまだ裏がありそうだけど。
「グレイブさん。その……ムイさん達の噂が立てば、あなたがリーダーになると風当たりが強いと思いますがいいんですか?」
「まあそれは覚悟はしているよ。でも俺が辞退したら、カムラッド設立できないだろう?」
「それは気にしなくても……」
「リー。設立しておけ。彼の為にも」
そうアーチさんが言う。
そうだな。グレイブさんにとって、自分のステータスを知るチャンス。しかも諦めていた冒険者を続けられる。
彼の為……くそ。またアーチさんに、嵌められた!
「わかった。俺のペースで鑑定していいなら俺はいいよ。それで……」
「わあ! 私達のカムラッド!」
もう一人喜んでいるのがいた……。
まあ確かに、俺達のカムラッドかもな。
「じゃ、グレイブ。リーダーとしてリー達を頼むな」
「はい!」
グレイブさんは、嬉しそうに返事をした。
「フェアル。頑張れよ」
「はい! 二人の足を引っ張らない様に頑張ります!」
フェアルも嬉々として返事を返す。
「そういう訳でリー、鑑定宜しく頼むな!」
ニヤリとしてアーチさんが、最後に俺に声を掛けた。
この中で不満なのは俺だけらしい。
本当に面白くない!
「あぁ、そうだ。ナイフの扱いは暇見て教えてやるけど、近くに剣を扱える奴がいるんだから、フェアルと一緒に教えてもらったらどうだ?」
あぁ、忘れていた。そういう話だったっけ。
しかし剣って……大変だろうそれ。鑑定師が剣を扱うなんて聞いた事がない!
「それなら任せて下さい!」
グレイブさんが、張り切ってアーチさんに返事を返した。
まあいいか。身を守る術を身に着けるつもりだったし……。
「では、話がまとまった所で、グレイブ。君の鑑定を行う。着いてこい」
「はい」
こうしてグレイブさんをリーダーにして、俺達三人のカムラッドを設立する事になり、カムラッド名は『ミラクル』になった。
奇跡で設立出来たって意味合いだけど、他の人からすれば奇跡を起こすって取られそうだ。でもまあ、ランクFだから大丈夫か……。
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話がまとまった次の日に、ミラクルは設立された。
それと同時に、魔法陣の鑑定が始まった。
取りあえず鑑定師が鑑定する方法で、俺は鑑定をする。
そしてフェアルにも鑑定をしてもらう方法を思いつき、今これから行う所だった。
部屋にはフェアルと二人。グレイブさんは邪魔になるからと部屋には居れていない。見られたらフェアルがやる事がバレるかもしれないから……。
「できそう?」
「うん。多分」
やるのは空間鑑定。俺のスキルをコピーさせ、やらせる事にした。上手くいけば、俺の仕事が減る!
でもフェアルは、鑑定のやり方を本で見ながらやる事になる。って、俺もだけど……。
「えっと……」
ただ問題は紙だった。だから大きな布を用意してカードとして認識させ、鑑定を行う事にした。
上手くいけば、それを書類に書き込めばいい。
ばたん!
うん? え?
「フェアル! ちょっと!」
フェアルは鑑定を始めて少しして倒れた!
「どうした?」
俺の声を聞いてグレイブさんが部屋に入って来た。俺がぐったりしているフェアルを抱きかかえているのを見て、驚いている。
「何があった?」
「わからない……」
「兎に角ソファーに寝かせよう」
グイッとグレイブさんが俺の手から、フェアルを抱きかかえ事務所のソファまで運ぶ。俺は部屋のドアを閉めて鍵を掛けた。
それからフェアルを自動鑑定した。
これって……MPがゼロ。空間鑑定をしてあっという間にMPが枯渇して、ぶっ倒れたんだ。これじゃ俺と一緒だ……。
はぁ……。
「アーチさんに言った方がいいかな?」
「いや多分、鑑定をしてMPが枯渇しただけだと思う。一気に減ったので倒れただけ」
グレイブさんがジッと俺を見る。
「本当か? 大丈夫なのか?」
俺は大丈夫だと頷く。
「ならいいけど……」
「やっぱり俺一人でするよ。フェアルお願いしていい?」
「お前も休め」
休めって、始めたばかりなんだけど……。
グレイブさんは、俺を心配そうに見ている。
「わかりました。そうします」
もう一つのソファーにグレイブさんと二人並んで座って、フェアルが目を覚ますのを待った。
「なあ、リー。俺達は、カムラッド設立してよかったと思うか? あの人、一体何考えているんだろうな。俺をリーダーにして、君に鑑定させて……。ここに来た時、君の治療費で報酬が飛んだって聞いた時、驚いていたよな? それって何も知らされてなかったって事だろう? この鑑定終わったら俺達は、どうなるんだろうな?」
グレイブさんは、ボソボソとそう言った。まるで独り言の様に。
ただ単純に喜んでいるだけだと思っていたけど違ったのか。一応考えて受けたんだ。
グレイブさんは、俺よりも冒険者歴が長い。それも普通にだ。俺みたいに事務職じゃない。
アーチさんが何かを企んでいるかもと気が付いていて、あそこで断らない方がいいと判断を下した。
「あの人の考えている事は、わからないよ。でも鑑定が終わったから解散とかないと思う。カムラッドを設立させた理由の一つは、俺達の監視だろうし……」
「俺達の監視? 何故、リーまで?」
「実は俺、事務職辞めたんじゃなくて、不正をしたと思われて首になったんだ……」
「え?」
グレイブさんは、俺の言葉に驚いていた。驚いて当たり前。本来なら冒険者でいられない。ただ証拠がないから処罰出来ないだけだから。
これで少しは、彼の負い目はなくなっただろう。
「さて鑑定するよ」
俺はそう言って、部屋に戻った。
魔法陣の上に布が落ちていた。それを手に取る。――何も書かれていなかった。
「はぁ。鑑定失敗か……」
俺は布を畳み、脇に置いた。
結局俺は、彼女を助けるどころか、危険にさらしてるよな?
ダウスさん、俺はこれからどうしたら正解なの?
俺は暫く、一人膝を抱えて考えいた――。




