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偽りステータス冒険者は神秘級ステータス  作者: すみ 小桜


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035 ★侮れない相手★(リー視点)

 ムイさん達を捕まえる為に俺をここに送り込んだと思ったら、まさか俺を嵌める為だったとは……。

 これじゃグレイブさんに、知らせに行ってもらった意味がないだろう……。

 ちゃんと俺の意図がわかって、彼が知らせてくれたのに!


 どうせファビオンさんが着た後に乗り込むつもりだったんだろうけど、時間稼ぎして待っているんじゃなかった!

 逃げ出そうと思えば建物から逃げる事は出来た。でもそれじゃ、こいつらを捕まえられないと思って残ったのに、裏目に出た!


 こういう風に誘導されたら、俺には逃げ場はない……。


 「で、リー。反論はないのか?」


 反論? なんだいきなり?

 俺に何を言わせたい?


 「おぉそうだ。忘れていた。リーはこれをどうやって描いていた?」


 アーチさんはそうニッコリと、まだ怯えている三人に聞いた。


 「………」


 三人は答えない。まあ答えられないよな。俺、描いてないんだし。


 俺は魔法陣の所まで歩き屈んだ。そして魔法陣に触れてみた。

 これか、言わせたい台詞は……。


 「普通に描いてます。MPを消費して……」


 「だそうだが、ムイ間違いはないか?」


 顔だけムイさんに向け、アーチさんが聞く。


 「あぁ、そうだな」


 「ファビオンさんは如何です?」


 「私はそういう事は、わかりかねます」


 さっき口を滑らせて学んだのか、はいとは言わなかった。


 「なるほど。では彼が一人で全て描いたのでしょうか?」


 アーチさんの問いにファビオンさんは頷く。

 アーチさんがムイさんを見ると、彼もそうだと頷く。

 そして最後に俺を見た。


 「だから描いてないと言っている……」


 立ち上がりながら、一応最後のあがきを言ってみた。


 っぷ。

 何故かアーチさんは、吹き出した。


 「お前、本当に魔法陣の事には疎いな」


 何だいきなり! 今、それ関係あるか? って、そう思っていてこれ描いただろうって、矛盾しているだろう!


 「仕方がない。お前に弁解するチャンスやろうと思ったが俺がするか」


 「え……」


 どういう意味だ?


 「リー。お前魔力6だった」


 「そうですが。それが何か?」


 そう答えると、アーチさんは頷いた。


 「魔法を持っていない魔力6のMPの初期値はいくらだ?」


 「魔力5以上は、100だと思いますが? あとは熟練度が上がると、職業やスキルなどによって上がり方が違います」


 「そういうのはわかっているか」


 何なんだ一体。何を試されている?


 「あのさ。悪いんだけど、お勉強会は他でやってくれないか? お客様も待たせているし」


 俺をバカにしたような目つきで、ムイさんがそう言った。


 「俺はリーじゃなくて、おたくらに説明をしているんだがな」


 そうムイさんに、ニヤッとしてアーチさんが言う。

 この人一体何を考えているんだ?


 「失礼ですが、私にその話をされましても……」


 ファビオンさんが、困り顔でアーチさんに言った。


 「いえ、必要な事なので」


 そう返すと、真下に向けてアーチさんは指差した。つまり魔法陣を指した。


 「この大きさを描くのに最低MP500は必要なんです。それにこの魔法陣の線は、細さが均一です。素晴らしい腕前だ」


 「よかったな、リー。褒められたぞ」


 まるで茶化す様にムイさんが俺に言った。

 この人だって、アーチさんの言いたい事がわかっただろうに……。

 俺には描くのが不可能だって事が!


 「さて、普通の鑑定師の場合、五、六年職業鑑定をした所で、最大MPはほぼ増えません。何せ鑑定に来る人はそんなにいないので、MPを使わないですから。リー、お前今まで何人鑑定した?」


 「覚えている訳ないじゃないですか。でもまあ、百人ちょっとだと思いますけど……」


 普通なら最大MP100のままだろうな。俺は千超えてるけど……。


 「この程度なら100のままだ。さてMPが100しかないリーが、これを一人で描く事が出来たかって事だけど……」


 ギロリとアーチさんは、ムイさんを睨む。


 「MPを回復すればいいだけの話だろう?」


 「回復ねぇ……」


 ボソッとアーチさんが言う。


 「リー、お前が回復薬用意したのか?」


 「自分に必要がないモノを持っている訳ないでしょう」


 「こっちで用意した」


 ムイさんがそう言った。

 バカだな。そう言わせたいから俺に振ったのに……。


 「リー、教えてやれ」


 そこだけ俺にかよ……。

 はぁ……。


 「魔法を扱える冒険者がいるカムラッドには、MP回復薬が無償で支給される。だが、それを他に譲ったり売ったりすれば罰せられる。また使用するのも仕事の時だけで、私用で使う事も禁じられている」


 「買えばいいだけだろ?」


 俺が説明すると、案の定そう返って来た。


 「それ、どこで買った?」


 アーチさんには笑顔はない。真剣な顔つきで聞いた。

 ムイさんは平然を装っているけど、そう聞かれたのだから、自分の答えが不正解だったのに気付いたはずだ。


 「まずこの国では、そこら辺に売ってませんよ、ムイさん。見かけた事ないでしょう? 魔法を乱用されないように、この国では管理されているんです」


 「さっきお前、剣士しかいないって言ったよな? まずはその回復薬の出所を聞こうか。まさか今更ファビオンさんが持っていたなんて言わないよな?」


 俺が更に説明すると、アーチさんが畳みかける。


 「ま、まさか。私はそんなモノは見た事もありません! あ、私の疑いは晴れましたよね? 解放して頂いても……」


 ファビオンさんが今がチャンスとアーチさんに言う。

 マズイ! このままでは、こいつに逃げられる!


 俺が口を開きかけると、俺を制するようにアーチさんが手を俺の前に出した。


 「ファビオンさん。我々はあなたがここに入ったのを確認してから突入致しました。この魔法陣の大きさだと、十分足らずで描けるモノではないんですよ。申し訳ありませんが、あなたも一緒に来て頂きます」


 ファビオンさんは愕然とした顔つきになった。


 「何だよそれ……」


 そうだったら最初から言えばいいだろうが!!


 「お前、それすら知らなかったのか……」


 俺の呟きを聞いたアーチさんは、呆れた様に俺に振り向き言った。


 「連れて行け!」


 アーチさんがそう言うと、ムイさん達は連行されていく。


 「お前達も来いよ」


 そう俺に言って、アーチさんも出口に向かう。


 「よかったぁ! リーさんが捕まっちゃうかと思った~」


 フェアルが目に涙を溜めて近づき言った。

 確かに俺もそう思ったけど……これ、恥かいただけじゃないか!?


 はぁ……。

 ――やっぱりあの人は侮れない。

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