032 ★秘密部屋★(リー視点)
くっそ! 何もかも頭に来る!
アーチさんもあのムイさん達もそしてグレイブさんも……一番ムカつくのはこの俺だ!
何思いっきりアーチさんに出し抜かれてるんだ!
ダンっと俺は踊り場の壁を叩く。
三階と二階の間の踊り場まで来たところで、グレイブさんは俺の手を離した。
「大丈夫だから。彼女に乱暴するような事はないから……」
まあそういう目つきではなかった。だとしたらやる事は一つだろうな。だから俺達を追い出した。
俺は眼鏡を外し、三階を見上げる。
三階に登り切った所に、ドアがある。そこを鑑定する。
何も仕掛けはないみたいだな。
「取りあえず、今日は客引きに……って、おい」
話すグレイブさんを無視し階段を上り始めると、手を掴まれた。
「悪いけどここに入る気ないから、手を離し……」
「待ってくれ。今、戻られたら困る」
「ふーん。あの人達が、フェアルに何をさせる気か知ってるって事か!」
「仕方ないだろう……」
「邪魔しないでくれる? 俺もある意味命がけだからさ」
「え……」
引っ張る手を振りほどく!
その言葉が効いたのか、グレイブさんは突っ立ったまま、追いかけてこなかった。俺は、そっとドアを開けた。
中から声が聞こえて来る。
「君は、カード師なんだろう?」
そうっと中に入り、衝立に隠れる。
「じゃ、俺達全員のステータス見てくれないか? カード師って魔法陣なくても出来るって小耳に挟んでさ。まずは俺から」
「でもカードがないと……」
ムイさんがそう言うと、ボソッと振るえる声でフェアルは返す。
バサッ。
何かが置かれた音がした。
「カードなら用意してある」
やっぱりそうか。カードまで用意してあるとは、用意がいい事……。
「フェアル。鑑定なんてする必要はないよ」
俺はそう言って、皆の前に姿を出した。
全員こちらを振り向いた。
テーブルにはまっさらなカードが数枚あった。俺はフェアルの前に出る。
「リーさん……」
彼女は俺の後ろで震えている。
「おい! グレイブ!」
「すみません……」
「行こうフェアル」
俺はフェアルの手を取り部屋を出ようとするも、ムイさんとラダーさんが立ちはだかった。
「どこ行く気だよ! 別に鑑定ぐらいいいだろう? お前が行っても構わないぜ」
「お断りします。俺は一度職業鑑定の職についているので、鑑定の間以外で行う事が禁じられています。なのでもし、その場所をお借り出来るというのなら行ってもいいですよ」
ムイさんの言葉に俺はそう返すと、後ろから小さく『え』と言う、驚きの言葉が聞こえた。やっぱりフェアルは知らなかったみたいだ。
「ほう。お前、ここに入りたいんじゃなかったのか?」
「別に……」
俺が返した言葉に、ムイさん達は驚く。
「紹介状まであるのに何を言ってやがる!」
「……俺は、全うな所に入りたいんで」
ガシッとムイさんが俺の胸倉を掴んだ。
「てめえ、何が全うなところだ! ランクが高いカムラッド程全うじゃねぇよ! いいか! お前達は、魔力までしか鑑定しない! 魔力4以下の者は職業しかわからない! それでどうやって、やっていけって?」
「そんな事俺に言われても……」
「それに仲間内なら鑑定OKだろうが!」
「それで留める気ないですよね? 俺達を仲間にしたのは、その為でしょう? 俺は鑑定出来るかなんて確かめるまでもない」
「この……」
ムイさんの右手が振り上げられた! 殴られる! 俺はギュッと目を瞑った。
ガッツ!
「どういうつもりだ、グレイブ!」
痛みが来ないと思ったら、グレイブさんがムイさんの腕を掴んでいた。
殴られる覚悟はしていたけど、まさかグレイブさんが止めるとは思わなかった。
「すみません。少し生意気ですが、大切な友人なんです」
「ふん」
ムイさんは、俺から手を離した。
俺って友人だったんだ……。
「お前、自分のステータスって知っているか?」
「……ジャンプがあるぐらいしか知りません」
「そうか。俺は自分のステータスが知りたくて、カムラッドを設立した。お前ならこの意味わかるだろう?」
俺は頷いた。
カムラッドのリーダーは、ステータスを登録する事になっている。だから設立する時に調べてもえる。勿論本人も教えてもらえる。但し設立費用が掛かる。
他にも方法はある。普通にお願いするだ。お金は掛かるけど出来る。俺が鑑定をやっていた間は、ほとんど来なかった。
まあ約三か月の給料分だからね。安いか高いかは人それぞれの感覚だけど、魔力3以下だと、大したスキルは望めない。しかもレベル5以下が多い。知った所で何も変わらない人が大半だった。
そう思うと、大抵の人は知りたいけど鑑定にはこない。
「なあ、フェアル。俺達がかわいそうだと思わないか?」
フェアルはムイさんにそう言われ、俺を見た。俺は軽く首を横に振る。
カードは色々証拠が残る。それと相手が警戒心を持ってると鑑定出来ない。
それにフェアルがちゃんと鑑定出来ると知れば、彼らが手放すとも思えない!
「ごめんなさい……」
フェアルはそう、彼らに言った。
「そっか。じゃリーにしてもらおうか。鑑定の間を用意すればいいんだろう?」
「え?」
いきなり右脇をギーグさんに左脇をラダーさんに捕まれ、ペッダさんが寄りかかっていた壁のすぐ横にあったドアの奥に連れて行かれた!
「ちょっと何……。え……」
「リーさん!?」
何だよこれ!
連れて行かれた部屋の床には、魔法陣が描かれていた!
「ここが鑑定の間」
ムイさんが得意げにそう言った。
職業を鑑定する魔法陣が目の前にあった!
信じられない。この魔法陣は公開されていない。確かに一度は目にしているかもしれないけど、こんな複雑なのを一度で覚えるのは不可能だ!
だからこそ、職業鑑定の職に就くときに、鑑定の間以外では鑑定しない約束を取り交わす。
「これ……この場所って登録は?」
「するわけないだろう?」
「一体誰がこれを……」
勝手に描けば罰せられる。許可を得てないという事は、そういう事だ。
「そんな事どうでもいいだろう? もう少ししたら客が来る。フェアルがしないって言うのならあんたにしてもらう」
「冗談じゃない! バレたら俺は冒険者じゃいられなくなる!」
目を付けられているって言うのに出来るか!
これ幸いと冒険者を剥奪するに違いない!
「ほう。じゃフェアルがどうなってもいいと?」
「……あんた達わかってないね? 俺が嘘つくとか思わないのか? 確かめようがないのに」
「大丈夫さ。その間にフェアルも説得して、鑑定させてみる。そうすればOKだろう?」
それ俺、いらないじゃないか!
「残念だったね。それは無理だよ」
「どういう意味だ!」
俺の言葉にムイさんが問う。
「カード師って魔力までしか鑑定できないの! 試してみる?」
「え……」
俺の言葉に、フェアルが驚く。俺の言っている事わかってくれてるといいけど……。
「いいだろう」
ムイさんがそう言うと、ペッダさんがカードを取りにってフェアルに手渡す。
フェアルは青ざめ震えていた――。




