031 ★アーチの策略★(リー視点)
俺達は、次の日ギルドに来るように言われ、昨日は帰された。
今回は、フェアルに助けられた。彼女があんな風に言わなければ、問い詰められていた。
『こんな事にならなければ、リーさんだって疑われなかったのに』
まあ彼女がその場を回避する為に考えて言った言葉ではなく、本音なんだろうけど……。
俺はチラッと横に座るフェアルを見た。彼女は俯いて、アーチさんを待っている。あの人もルーズと言うか……来いと言って置きながら遅い!
ガチャ。
「お待たせ。いやぁ、ヌティーナは書類を一切書いてくれなくて……遅くなった」
「それ、元々おたくの仕事だろうに……」
「いやぁ、リーは優秀だったな」
俺の呟きが聞こえたのか、アーチさんはそう言う。
「で、呼んだのは、最終確認の為な」
そう言って俺達の前に座るとアーチさんは、手に持っていた書類をめくる。そして読み上げ始めた。
「女性と偽り、フェアルに近づいたマーリンは、女性しか入れないと言って洞窟にフェアルを誘い出し、いかがわしい行為に及ぼうとするも、怪しんだリーが後をつけそれを止めた。怒り狂ったマーリンは、マジックアイテムでリーに攻撃し、暴発したマジックアイテムで自らも……」
「え……」
「ちょ……。全然、俺達が話した内容と違うだろう!!」
俺が驚いて言うも、アーチさんは腕組んでため息をつく。
フェアルは、警戒されていたと知っただけで、泣きそうだったんだ! 殺されかけたとはいえ、そんな貶めるような内容にしたら、また落ち込む! そうなったら面倒だ!
「お前なぁ。あんな内容を提出……」
「……あってます」
うん? 静かにだけど、肯定の言葉が横から聞こえた。
「フェアルの方が話がわかるな」
そうアーチさんが言うと、フェアルは首を横に振った。
うん? え? そういう事されそうになったって事? そう言えば壁に押し付けられて……。
「え!? あいつ、君にそんな事しようとしていたの? あの楽しみってそういう事?!」
「そ、その後、殺すって言われて……」
顔を真っ赤にして俯き、消え去りそうな声で答えた。
「なんて奴だ!」
って、どうなってるんだ! あそこに誘い込んだのって殺す為じゃなくて……。
「まあ、貴重な体験したなぁ……。じゃこれは、事実という事で」
「貴重って!」
「そんなに怒るなよ」
そうだ。この人に腹を立てても仕方がない。
そう思っていると、アーチさんは書類の続きを読み上げ始める。
「三人で山に向かうと連絡を受けた俺は、そこに賊のアジトがあると言う噂もあり、三人の身の安全の為に冒険者数名を引き連れ向かった所、アジトを発見。そこに三人が倒れていた。以上」
昨日の帰りに、あの後何があったのか彼女に聞いたら、アーチさんが助けに来てくれたと言っていたけど、この書類に書かれている事は本当なのか?
出来過ぎていないか?
「なんだ? おかしなところでもあるか?」
俺がジッとアーチさんを見ていると、そう言ってきた。
「いや、その内容本当ですか?」
「あぁそうだ。でだ、その時に水をせき止めてあった岩もどけて置いた。今はちゃんと水路に水が流れている」
あ、水路の事すっかり忘れていた。
「で、これ……」
アーチさんは、俺達の前にスッと、封筒を置いた。その封筒には、紹介状と書いてあった。
「言っただろう? 口添えしてやるって」
「え? で、これどこのカムラッドの……」
「どこってマーリンが入ろうとしていた所に決まっているだろう? もう言ってはあるから。それなくてもいいけど、形式的にな。頑張れよ、二人共」
マジかよ……。あんな事があったんだ。歓迎されないような気がするんだけど……。
チラッとフェアルを見れば、紹介状と書いた封筒を手にして嬉しそうにしている。
まぁ、いいか。知り合いもいるし。
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俺達は紹介状を持って、マーリンが入る予定だったカムラッド竜牙に向かった。グレイブさんが、通りに迎えに来てくれていた。彼の案内で迷わず事務所に辿り着く。
通りのずっと奥で古びた建物の三階だった。
フェアルはキョロキョロと辺りを見渡している。思っていたところと違ったんだと思う。けど、Fランクのカムラッドなんてそんなもんだ。この通りに部屋があるだけマシ。
「あの連れて来ました」
グレイブさんがドアを開け、そう言って入って行く。
中は入ってすぐに二人掛けのソファーが迎え合わせに置いてあり、その間にローテブル。そしてその奥は衝立がある。
「こっちだ」
その奥から声がかかり、俺達は衝立の裏側に進んだ。そこには少し大き目のテーブルが一つぽつーんと置いてあった。イスはない。
そこにガラの悪そうな男が一人、肘をつき酒を飲んでいる。
「よう。俺がリーダーのムイだ。で、こいつがラダー、そいつがペッダ、そしてそこで飲んでるのがギーグ」
そうムイさんが自己紹介をしてくれた。ムイさんの後ろに立っている男がラダーさん、壁に寄しかかり腕を組んで、俺達を睨んでいるのがペッダさん、そしてテーブルで酒を飲んでいるのがギーグさん。全員腰に剣を下げ年齢は三十代に見える。
「俺はリーで召喚師です。彼女はフェアル……」
自己紹介の途中でムイさんが俺の左側に立ち、ガシッと右の肩を抱いた。痛いぐらいギュッと肩を握られる。
「なあ、リーくんよ。おたく、大怪我したんだって? もう大丈夫なの?」
「はぁ…。お、お蔭さまで……」
なんだ一体……。
「それはよかった。ところでおたくが、せき止めていた岩をどけてくれたんだってな。ありがとうよ。でアーチさんがおたくらをここに入れないと、報酬くれないって言うからさ、OKしたんだよ。そしたらどうだ、おたくの治療費で報酬は飛んだってよ!!」
「いっ……」
ギュッと肩を握られ激痛が走る。
そんな話聞いてない! ってあの人、俺も嵌めたな!
手を離したと思ったらドンと背中を押され、グレイブさんに衝突するように彼に抱き留められた。
「治療費分、今日から働けよ!」
「リー、大丈夫か」
ボソッとグレイブさんに問われ、俺ははいと頷く。チラッとフェアルを見ればビクビクと怯えていた。
最悪だ。あの人、最初からここに入れる気なんてないだろう!
「グレイブ。ほら、客引きに行け」
「……はい。リー行こう」
俺は右肩を擦りながら頷いた。
「フェアルは残れよ」
その言葉に俺は驚いて振り向く。
いや無理だろう。あんな目にあったばかりだ。こんな見ず知らずの男達の中に一人なんて!
フェアルは、思った通り青ざめている。
「すみませんけど、彼女冒険者なりたてで、暫くは俺と一緒に……」
「はぁ、何甘い事言ってんだよ!」
壁に寄りかかったペッダさんが凄んで言った。
「行け」
顎をクイッとしてムイさんが言うと、ガシッとグレイブさんが俺の腕を掴みドアに引っ張っていく。
「ちょ……グレイブさん……待って」
「大丈夫だから行こう!」
振り払おうとするも振り払えない! 同じ男なのに!
「あ、リーさん!」
フェアルが泣きそうな声で俺を呼ぶも、ドアの外に俺は連れ出された!




