023 ☆またもや不機嫌な彼☆
はぁ……。
このため息は、前を歩くリーさんのです。
お金を持ち合わせていない私の分もリーさんが出してくれました。……正確には立て替えてくれました! そしてリーさんの分の食料も私のリュックの中です。
優しいんだか優しくないんだか……。
「そうだ。自己紹介がまだたったね。俺はリー。鑑定師。彼女はフェアルさん。カード師。で君は?」
前を歩くリーさんは、チラッと私と並んで歩くマーリンさんを振り向いた。
「あ、マーリンです。結界師です。宜しくお願いします」
「宜しくお願いします! 結界師って結界を張る事が出来るんですよね?」
こくんとマーリンさんは頷く。
「ふーん。結界師とかならそれなりのカムラッドに入っていたんじゃない? どうしてグレイブさんの所に?」
「私、違う国から来て……」
「……鑑定は違う国でしてるよね? なんでわざわざこの国に?」
何だろう? やけにマーリンさんに食って掛かってるような気がする。
ま、まさかと思うけど……リーさんってグレイブさんの事を!!
「私、結界師と言っても魔力が2で……。この国ならモンスター退治じゃなくても仕事があるって聞いて……」
「ふーん」
「一緒に頑張りましょう! マーリンさん!」
俯いて答えるマーリンさんを元気つけようと言うも、何故かリーさんは怖い顔でこっちを見ている。
もう! 一体何なのよ!
そう言えばリーさんって、何で私と一緒に行動しているんだろう? 確かに普通の冒険者になってしまって、原因は私にあるかもしれないけど……。だからこそ、一緒に居たくないとか思わないのかな?
あ、そっか! 私が余計な事話さないか見張る為!?
それに余計な行動して王宮にバレたら大変だから……。
必要以上にマーリンさんに近づいて、彼女にバレたらどうしようとか思ってる? 行動はともかく、話したりしないのになぁ……。全然信用されてないし。
「何かごめんね。彼、怒ってるよね?」
私が俯いて考え事しながら歩いていると、そうマーリンさんが呟いた。
「あ、マーリンさんのせいじゃないから大丈夫です。全部、私のせいだから……」
「君のせいって?」
「え? いえ……。言えないんです。ごめんなさい」
マーリンさんは首を横に振ってほほ笑んだ。
「言えない事は話さなくて大丈夫よ。私も一緒だから……」
「うん……わぁ」
頷いていると、急に引っ張られた! リーさんがムッとした顔で私を引っ張っていた!
「な、何?!」
「何じゃない! 何仲良くなってるの!」
「え……」
何それ! 私は誰とも仲良くしてはダメなの!? それって酷くない?
私はリーさんの手を振り払う。
ふーんだ!
「私の勝手でしょ!」
「大丈夫? 彼ってやきもち焼きなのね」
くすっと、マーリンさんは言った。
いや違うと思う。
私が近づいて、何か失敗するんじゃないかと焦っているだけだと……。
今度はリーさんが、私達の後ろから監視するように歩いている。
もう! 嫌だ~!
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夜も更けてきて、山の入り口で野宿をする事になった。
初めての体験!
知識では知っている。まず必ずたき火をする事! そしてそれを消さない様にする事!
私達は木を集め、マーリンさんが火を付けてくれた。
そして簡単な食事をとる。
「食べ終わったら先に二人共寝ていいよ」
ボソッとリーさんがそう言った。
「ありがとう。では、お言葉に甘えてそうしましょう」
マーリンさんはそう言って、リュックから薄いけど毛布の様な物を出した。何かいっぱい入ってると思ったらそんなのが入っていたんだ。
「一緒に入る?」
毛布にくるまっていたマーリンさんが、毛布を持って手を広げた。私がジッと毛布を見ていたからだと思うけど……。
チラッとリーさんを見れば、マーリンさんを憮然として見てる。
何がそんなに気に入らないのかな……。
「はい……」
「え!?」
気が付けばマーリンさんが横に来て、私を一緒に包み込んだ。
「ちょ……何やってるの!」
何故か驚いてリーさんが叫ぶ。
「女同志だものいいでしょ?」
「………」
マーリンさんがそう言うと、リーさんは何も言い返さなかった。膝を抱えそっぽを向いている。
もしかしていじけている?
もしかしてリーさんは、私達の仲に入りたいとか??
うーん。今一わからない……。
やっぱり暖かい。寒くはなかったけど少しひんやりしていたから……。
リーさんは、寒くないかな?
チラッと見れば、ジッと炎を見つめていた。私もその炎を見つめている内に眠ってしまった……。
ふと目を覚ますと、ゆらゆらと揺れる炎が目に入って来た。
そうだった。ここは外だった。目線を上げると、マーリンさんは、ジッと何かを見つめていた。その先は――リーさん?
リーさんは、膝を抱えて眠っていた。
いつの間にかリーさんも寝ちゃったんだ……。
それにしてもマーリンさんがリーさんを見つめる視線は、優し気な感じは一つもしなくてちょっと怖かった。
何だろう?
もしかして二人って知り合いとか?
そんな感じはしなかったんだけどなぁ……。
次の日、朝ごはんを食べ、水路の調査。
一滴も水が流れていない。これを辿って行く。
リーさんとマーリンさんは、普通に登って行く。私はつまずきながら……。
水路の横を歩くのだから道なんてない!
「大丈夫?」
「あ、はい。なんとか……」
マーリンさんは、声を掛け手を引っ張ってくれる。
私より大きな手。そう言えば、背丈もリーさんぐらいだったかも。
リーさんは、チラッと私達を見ただけで、ひとりでサッサと登って行く。
何か思い出すなぁ……。
前は山を下りていたけど、その時もサッサと……でも最後は手を引いてくれたっけ。
今回は何で機嫌が悪いんだろう?
昼近くになって、小屋を発見する。
「人がいるか見てみましょうか」
マーリンさんがそう言うと、リーさんが頷いた。
何かよくわからないけど、リーさんの機嫌が直ってる?
ニッコリはしてないけど、ムッともしていない……。
「すみません……」
「はいな」
マーリンさんが声を掛けると、中から返事が返って来た。人が居た!
「そこの水路に水が流れてないようなのですが、何かご存知ありませんか?」
「あぁ、俺も調べに来た。原因はもっと先のようだ」
小屋から出て来たのは、がっしりとした四十代くらいの男の人。その人は、更に上を指差す。
「あそこに水龍様を祭っている神殿がる。きっとお怒りなのだろう」
「え? 水龍ですか? わかりました。調べてみます。ありがとうございます」
マーリンさんは、男の人に頭を下げた。慌てて私も下げる。
「水龍……?」
ボゾッとリーさんはそう呟き難しい顔つきをした。




