022 ☆スキルの使い方☆
リーさんにスキルの勉強するように言われたけど、これ意味ないよね。相手のステータスをカードに書き込むのには、私に警戒心を持っていてはダメなんだから、モンスターに使えないし……。
はぁ……。
「そんな所に突っ立って何してるの?」
聞き覚えのある声。
「リーさん」
顔を上げればリーさんとアーチさんが立っていた。買い物が終わったんだ……。
なんかリーさんの雰囲気が凄く変わっている!
別れた時は、白に近い水色の服に灰色のズボンだったのに、今は黒……いや濃い紫色の上下。服の上から黒いベルトをして、ナイフを下げている。
そして今まで通り、肩掛けの茶色い鞄を斜めに掛けていた。
「何?」
「え? いや、服装が変わったなって……」
「装備一式買いそろえたよ。君もそうしたら?」
そうしたらって……お金があればしますけどね!
「……お金が入ったらそうします」
「お前ら、カムラッド探ししてこい。余りにもランクが高い所なら無理だが、それなりの所なら口添えしてやる。個人で受けるのは無理だろう?」
「え? 本当?」
私が聞くと、アーチさんは頷いた。
よかったぁ。力仕事なんて私達に無理だしどうしようかと思っていた。リーさんは、アーチさんは味方じゃないって言っていたけど、味方だよ~。
チラッとリーさんを見れば、嬉しそうな顔つきではない。どちらかというと不満そう。そう敵対心を持たなくてもいいと思うんだけどなぁ。
「わかりました。カムラッド街に行って来ます」
「おう! 頑張れよ」
軽く手を上げ、アーチさんは冒険者ギルドの建物に入って行った。
「さてと……一応行っておくか」
「行っておくかって……」
スタスタと歩き出したリーさんの後を私はついて行く。
「あのね。アーチさんはあぁ言ったけど、俺達が入れる所なんてないよ」
「え?」
そう言って歩きながらカムラッドの説明をリーさんはしてくれた――。
カムラッドは、メンバーや仕事のこなし具合からランク分けされていて、AからFまであった。
Aが一番ランクが高く、モンスター退治から何でもこなす。Fが最低ランクで、個人で出来ないちょっとした仕事をする。
勿論、職業によってどこのランクまでというのはないが、足手まといでしかない自分達を受け入れてくれるカムラッドはそうない。
アーチさんが口添えしてくれて入ったとしても、雑用とかする程度。カムラッドに入れば、最低限のお金は毎月貰えるけど、使えない自分達は肩身の狭い思いをする事は間違いないそうです――。
そんな事聞いたら入りたくないよね……。リーさんの言う通りかも。
あ、でも、仲間のスキルを使って戦闘する事は出来るかな? うーん。
「ねえ、じゃさ。強い人のスキル使って私が戦闘するってのはどう? それなら役に立つよね!」
「君はバカなの? 例えばそのギルドで唯一の魔法を扱える人がいて、それを君が奪って使ったら相手はどう思う?」
「え?!」
「それに気が付いたらその人は怒るだろうね」
確かに……。相手が納得していたらいいかもしれないけど、それが自分の最大の売りだったら凄く怒るだろうね。な、殴られるかも……。
「それにそれ知られたら、君はスキル泥棒みたいな事させられると思うよ」
「……え? 泥棒?!」
リーさんは頷いた。
「違うカムラッドの人からスキル盗む様に言われてやらされるだろうね。別にそれが君の能力だからダメって事はない。けど、それが知れ渡れば、そういう目で見られるだろうね。それにその盗むのも相手が警戒していたら出来ないのなら、知られてしまったら出来なくなる」
「っそ、そうだね……」
そっか。他人からみたらこの能力は泥棒なんだ……。え? じゃ、私に何が出来るの?!
「それとその事が王宮に知れたら、俺達がしたからくりがバレるだろうね……」
ボソッとリーさんは呟いた。
ってそれが一番やばいんじゃない!
じゃ私この能力使えないの?
これじゃ、本当に雑用しか出来ないよ……。
「君、頭使いなよ」
立ち止まってリーさんは振り向いて言った。
「それが君の一番の強みなんだから。知られない様に使うんだよ。君のステータスなんて誰も見れないんだから。そして職業鑑定の間以外では、ステータスを見れない。それが世界の常識。だから見れる俺達は、それも上手く使おう……」
「うん……」
私は力強く頷いた。
そっか。自分が他の人のステータス見れるから忘れていたけど、他の人はステータスを見る事が出来ないんだった。
私のカード転写とリーさんの自動鑑定。条件はあるけどその場で鑑定出来るってある意味凄いよね。
「あれ、君……」
うん? フッと顔を上げるとグレイブさんが目の前にいた!
やばい!
「グ、グレイブさん……」
「あれ? 俺、自己紹介したっけ?」
しまった~!! つい呟いた言葉に、グレイブさんは首を傾げる。
「グレイブさんだって……」
って何故かリーさんも反応してるんだけど。
「あの……リーです。覚えていませんか?」
「え? リー!? 何年振りだろう。大きくなったなぁ! って職業鑑定の仕事に就いたって聞いたけど……」
え? リーさんの知り合い!? 驚いて二人を見ているとリーさんに睨まれた……。なんで?
「普通の冒険者をやりたくて……。あ、そうだ! 約束覚えています?」
「え? あぁ、覚えているけど……」
リーさんの質問にグレイブさんは口を濁す。何か約束していたみたいだけど……。
「あ、グレイブさん。その方は依頼の人ですか?」
その声に私達は振り向いた。
フード付きの白いローブを纏った女性が立っていた。年齢はきっとリーさんぐらい。長い桃色の長い髪が左側のフードから出されていて、軽くウェーブが掛かっていて、何故か瞳は金色。髪の色と全く違う瞳って珍しい。
ジッと見ていたせいか目が合うと、ニッコリ微笑んだ。
「あ、マーリンさん。いや、彼らは……そうだ! 君の方の依頼はどうなった?」
「原因は多分あの山の上だと思うんです……」
何の話かわからないけど、マーリンさんは遠く見える山を指差した。
「一人で出来そう?」
グレイブさんが聞くと、マーリンさんは否定も肯定もせずに、困り顔になった。多分難しいのかもしれない。
「その人もカムラッドの人?」
「彼女はマーリンさん。まだ正式じゃないんだ。任された仕事をこなせば合格。それで彼女と一緒にどうだ? 俺がマスターに言ってやるからさ!」
っち。
リーさんが質問すると、グレイブさんから一緒にと返って来たんだけど……。何故かマーリンさんをチラッと見た後、舌打ちしたんですけど! え? もしかして、グレイブさんのいるカムラッドには入りたくないの?
「手伝ってしまっていいんですか? この人のテストなんですよね?」
「構わないさ。君達のテストも兼ねてって事で……。で、どう?」
「フェアルさん、どうする?」
って私に振るんですか? い、嫌なんだよね?
「あ、あの……。マーリンさんはいいんですか? 私達増えても力にならないと思うんだけど……」
私はマーリンさんに振った。
彼女はニッコリとして頷く。
「私は一緒にやって頂いた方が助かります」
「うんじゃ、決まりだな。リー宜しく頼むな!」
「……はい」
リーさんは、ニッコリと頷いた。
うーん。リーさんの考えている事がわからない。
ってもしかして、リーさんって女性嫌いとか? ……あり得るかも。マーリンさんってリーさんと歳近いし、普通優しくするよね?
うん。きっとそうだ!
「じゃ、仕事内容聞こうかな」
グレイブさんがカムラッドの事務所に戻って行って、リーさんがマーリンさんにそう質問した。
「はい」
短く返事をした後に、マーリンさんは仕事内容を話してくれた。
畑に流れてくるはずの水がどこかでせき止められているらしく、その原因を調べて元通りにする事だった。
モンスター退治とかじゃなくてよかった!
で、先ほど指差した山に原因がある事まで突き止めたらしい。
「じゃ食料確保しないとね」
「食料?」
リーさんの言葉に聞き返すと、眉間に皺を寄せる。
「あのね。あんな所に馬車通ってないし。歩いて行くしかないでしょ? 行き返りの事を考えて三、四日分持参しないと飢え死にするよ!」
「あ、私もこれから買いに行くところだから一緒に行きましょう!」
「え!?」
マーリンさんがそう誘ってくれたけど私、そんなにお金ありません! どうしましょう!?




