017 ★自動鑑定の産物★(リー視点)
図書館は思ったより近場にあった。
中は広々としていて、三階まであった。
二階の奥の席に座らされて、凄い厚い本を目の前に置かれた。
「ちょっとめくって見てもらっていいかい?」
頷いてページをめくる。
「文字は読めそうかい?」
「うん。読める」
本を読むのは好きだった。だからある程度難しい文字でも理解出来なくても読む事は出来た。
「そうか。……うん? 悪いが呼び出しだ。ここで一人で居られるかい?」
「うん。読んで待ってるよ!」
「そうか。じゃ後で迎えにくるからな。まあ読み終わらないとは思うが、終わってもここにいるようにな」
「うん」
ダウスさんは、俺の頭を優しく撫でて部屋を出て行った。
俺は試したい事があった。
本を鑑定したら、内容が読めるのか。
眼鏡をずらしやってみると、本の説明のみだった。
ページを開き中身を鑑定すると、自分の頭の中にある『本』が書き換えられていく。わからなかった単語に解説がつく。わからないものは不明という形で、単語が本に刻まれていく。
楽しくなってページを勢いよくめくる。
読まなくても見るだけで、鑑定し頭に鑑定結果として刻まれていった。
不思議と集中しているせいか、この本だけ鑑定が行われていた。
十分ほどして流石に頭痛がしてきてやめた。
「あれ? こんなに長く大丈夫だった?」
ここで俺は気が付いた。時間じゃなくて情報量で頭痛が起きると。
上手く情報量をコントロールすれば、頭痛は起きない?
視野には入っていたけど、集中すればそれだけを鑑定するみたい。
頭痛が納まると、また本のページをめくって行った……。
段々と鑑定するスピードが上がっている感じがする。けど、頭痛が起こるのは早まらない。
よくわからないけど、スピードもアップして、情報の容量もアップしている?
三分の一ほど読んだところで、頭痛が酷くなり休憩する。
「ふう、疲れた……」
「もうそんなに読んだのか?」
「あ、お帰り」
一時間ちょっとして、ダウスさんが戻って来た。
「今日はもうこれで終わりだ。王宮の近くの宿に泊まる手配を取った。ご両親とゆっくり休むとよい。また明日迎えに行く」
「明日も何かあるの?」
「ちょっとした検証だ」
頷くとそう答えた。
親と一緒に来ていたが、二人は王宮には入れなかった。
「ねえ、明日もここに来れるかな?」
「こことは、図書館の事か?」
俺は頷く。
「そうだな。では明日もここに来よう」
「うん!」
俺は図書館に来れるのを楽しみに宿に向かった。
次の日、約束通り迎えに来たダウスさんと一緒に、王宮内にある大きな部屋に連れて行かれた。
目の前にあるのは台。両端から中心に向かって高くなっていき、途中から平らになり、更に中心部分に穴が、いや間が空いている。
これは何だろう?
ハッとするも眼鏡を掛けているので、鑑定は行われなかった。
ドキドキする胸に手を当てる。
「今日はちょっとした検証だ。あちらから登って向こう側にジャンプしてほしい」
「え!」
エルネスさんのそう言われ、チラッと離れた所にいるダウスさんを見ると、大丈夫と頷いた。
「君にはジャンプのスキルがあるらしい。それを確認したい」
確認って……それって、ダウスさんの鑑定を信じてないって事?
いや俺は信じるけど、あの高さをジャンプして向こう側にって……。
見た目、ジャンプして行けない距離ではない。ただ高いので恐怖心がある。
でもダウスさんを信じて、助走をつけてジャンプした。
「わぁ!」
思ったより距離を飛び、危なく坂を転げる所だった!
何これ!
自分でも驚いて後ろを振り向く。
そして何度かジャンプの検証が行われた。
「ジャンプのスキルはあるようだな」
ハシントさんが呟いた。
その呟きで、検証は終わった。
その後また少し庭園でダウスさんとお散歩をする。
ベンチに腰を下ろし休憩。
「ジャンプは怖くなかったか?」
「うん! 最初の一回目だけ怖かったけど、後は面白かったよ!」
「そうか」
また頭を撫でられる。
「今日も図書館行くんだよね?」
「あぁ。これから行くよ」
「あれ鑑定するとね、わからなかった事がわかって楽しんだ」
「鑑定だと?」
俺はハッとした。
つい鑑定していた事を口走ってしまった!
「ご、ごめんなさい!」
「具合は悪くならなかったのか?」
「……うん。集中してそれだけの情報を取り入れるようにすれば大丈夫みたい」
「そうか。だいぶコントロールできるようになったみたいだな」
俺は、叱られなかったと安堵する。
「えへ。だいぶ頭の中の本がわかるものになったよ!」
「頭の中の本?」
「うん。辞書みたいな感じのあるよね? それだよ」
頷いて答えると、ダウスさんはガシッと俺の両腕を掴んだ。
「それ、誰かに話した事はあるか?」
「え? ううん。今日が初めてだけど……」
「いいかい。その事は誰にも言ってはならん。それは鑑定師が持っている物じゃない! たぶん君のバットスキル、自動鑑定のスキルの産物だ!」
「え? ダウスさんもないの?」
俺を見つめたまま、静かに頷いた。
皆持っている物だと思っていた。いや鑑定師かもしれないと思った時から、鑑定師なら持っているという認識になっていた。
「じゃ、みんな鑑定した結果どうしてるの?」
「どうしてるって……。君の場合はどうなってる?」
「本の中に、結果が保存されているよ」
それを聞いたダウスさんは、目を見開いて俺を見つめる。
「さ、さっき、本がわかるものになったと言ったが、あれはどんな感じなのだ?」
「鑑定されて新しい情報が入ると、上書きとか追加とかされるけど……」
「君の中には、鑑定した結果の本が存在しているというのか……」
俺は首を傾げる。俺にとって鑑定が出来る様になってから、当たり前の事だったから不思議がられるのが不思議だった。
「いいかい。それはご両親にもハシント様にも……兎に角誰にも教えてはならないよ! いいね!」
「うん……」
俺は俯いた。
もう図書館に連れて行ってもらえないのかな?
「では図書館に行こうか」
「え! 連れて行ってくれるの!?」
「そう約束しただろう?」
「ありがとう!」
俺は嬉しくなって、ダウスさんに抱き着くと優しく頭を撫でられた。
図書館では昨日と同じ席に座り、同じ本を用意してくれた。
「私もとなりで見ていていいかい?」
「うん。いいよ」
俺は昨日の続きのページを開き、眼鏡をずらす。
鑑定が始まり、頭の中の本が書き換えられていく。
頭が痛くなり、休憩する。
「ふう」
「うん。凄い集中力だな。しかもかなりの速さでページをめくっていた……。読んでいるスピードではない」
「うん。別に読んでないからね。サッと見ただけ」
ダウスさんは、神妙な顔つきで頷いた。
それからこの日は、この本を読み終わるまで図書館にいて、昨日と同じ宿に泊まった。




