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自殺の謎

 夕子の葬儀から帰って、その夜も俺はあまり眠れず過ごした。夕子を亡くしたことも悲しかったが、どうして自殺してしまったのか、その理由が俺を悩ませた。葬儀や告別式でも、両親や友人も何故なぜ夕子が死んだのかわかっていないようだった。


 俺は夕子がどうして死んだのか考え続けた。昨日の夕子の様子を思い出す。部活でチラッと見ただけだったが、特にいつもと違う様子はなかった。告別式の前に同級生の友達が集まっていたが、話を立ち聞きした感じでもみんな意外に思って、驚いているようだった。かつての俺のようにいじめられていた訳でもない。家庭環境の問題でもない。夕子のお父さんやお母さんは、働いていて日中家にはあまりいなかったが、優しくていい人達だった。学校で何かトラブルがあったという情報もない。俺もどう考えてみてもわからなかった。夕子は人知れず何の悩みを抱えていたんだろう。俺は考え続ける。


 「おい」


 懐かしい声が俺の頭の中でした。やはりギョッとしたが、今度は俺はあたりを見回したりはしない。誰の声かはっきりわかっているから。化け猫の声だ。


 「いいかげん下らない事を考えるのをめてくれないか。夕子ちゃんがどういう理由で死のうがお前には関係ないだろ」


 俺と化け猫の心はつながって一つになっている。でも俺があまりに夕子の事ばかり考え出したので、化け猫は不愉快になったようだ。うるさいんだろうか。・・・そう言えば思い出したが、俺は元々ネコはあまり好きではなかったのに、時々そこらへんの野良猫を捕まえて抱きしめたくなることがある。その時同時になぜか気持ち悪くなる。化け猫は夕子のことが嫌いなのかもしれない。鎧武者に襲われた時でも、夕子は捨てて逃げろと言った。


 俺が夕子のことを考えるのを止める気がないのは化け猫にもわかっている。お互いの思考というか、思っていることは筒抜けというか同じだ。


 「・・・いいだろう。俺の寿命は縮むが、奥の手を使う。そんなに夕子ちゃんが死んだ理由が気になるなら、直接本人に聞いてみればいい」


 「時をさかのぼる秘術か・・・どうせあの時死んでいればなかった命。10年や20年縮んでもどうということはないな」


 俺は化け猫の力で一昨日の夕方へ戻った。夕子がまだ生きていた時間に。辺りを見回すともう夕焼けの太陽は山に隠れてしまっている。星座がはっきりと見えるほどではないが、半月は輝きを増し始めていた。俺はあまり人に見られないように気を配りながら移動した。この世界には現在俺が二人いる。出っくわしたらどうなるのかは知らない。ドッペルゲンガーの伝説のように、俺は消えてしまうかもしれない。化け猫もかつてやったことがないからわからない。そんな危険をおかす気もない。


 夕子の家の前にはすぐに着いた。音も立てずに素早く屋根にのぼると、アルミサッシの窓に軽く衝撃を与えて鍵を外し、窓から中へ入った。夕子の部屋は小学生の頃とあまり変わっていなかった。勉強机もベッドもそのままだ。俺は靴を大屋根に置いて侵入した。もはやこそ泥だかストーカーかだが、そんなことを言ってもいられない。俺は夕子の部屋の屋根裏にひそんだ。そして下の部屋の物音をうかがっていた。夕子が自分の部屋で薬を飲んだことは聞いていた。

 

 ・・・


 夕子は部屋で特に何も言葉は発っさなかった。独り言はあまり言わないのだろう。だが、ついにおかしなことをつぶやいた。


 「高谷たかや君のところへ行こう」


 その遊びに行こうぐらいの自然な軽い感じに俺はあせった。俺は慌てて天井板を外し、下に飛び降りて電気をつけた。暗い部屋で一人ベッドに座っていた夕子は驚いたようだが、息を呑んだだけで、声を上げることもなかった。俺が音もなく静かに降りたこともあるだろうし、敵意も害意もなかったのが伝わったのかもしれない。何より夕子はすぐに俺だと気がついたからか。


 「何をしようとしている・・・のかは聞く必要はないな。俺が聞きたいことは一つ。どうして死のうとしてるんだ」


 驚きから立ち直って夕子は言った。


 「・・・知らない。あんたに関係ないでしょ。・・・あんた一体誰?・・・何者なの」


 俺は逆に質問を返されて戸惑った。化け猫のことを他人に話すのはタブーだった。化け猫にかれていることを他人に知られると、俺は化け猫からは離れられるが、死んでしまう。夕子は部屋へ勝手に侵入してきた俺を非難はしなかったが、これ以上話をしてくれる様子もなかった。どうとでもしてくれ、というふて腐れた様子の夕子を俺は持て余した。どうすればいいんだろう。俺は薬を取り上げてから夕子の手足をしばり上げた。俺何やってるんだろうとは思いながら。でも放って置く気にはとてもなれなかった。ここに居座いすわるのも気まずいし・・・夕子は、不機嫌だがどこか投げやりな感じで、抵抗もあまりしなかった。


 「・・・なんでこんなことするの」


 「・・・どうしても・・・死んで欲しくないんだ」


 俺はその場を去った。これ以上居ても夕子が自殺の原因を話してくれそうにないのは分かっていたし、時間の無駄だ。俺は元の時間へ戻った。戻った世界で夕子はまだ死んではいなかった。だが病院へ入院したようだ。父親の薬を持ち出していたのが見つかって、様子もおかしいのに両親が気付き、自殺未遂がばれたようだ。自殺しようとしていたら、丁度入ってきた泥棒にしばられた、ということになったらしい。そんなことってあるんかな・・・俺のことは言わなかったらしい。死んでしまうよりはいいが、問題は先送りされただけかもしれない。


 俺はもう一度過去へさかのぼるつもりだった。今度はもっと前に。何か夕子を自殺に追い込む程の事件が起こる前の時間へ。俺の寿命はさらに縮む上に、色々と危険性も増してくる。下手をすると俺が過去に何人も増えていく。書き直しをし過ぎた下手くそな絵みたいに、繰り返すほどに過去がだんだんとぐちゃぐちゃになっていくんだ。


 ※ストーカーは犯罪ですw あなたが危険な依存心をきれいに捨て去れますように。

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