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2015年・2016年・2017年

生活の無意味さ・ほか4編

間違った街


気分が悪いのは珍しく飲んだ安酒のせいじゃない

鈍感な気分でぶらついて

入ったことのない裏道で

女が撲たれているのを見たから

あれはあの夜の娘だったか それともいつかの…

ジット見つめるだけのおれ

ジット見つめるだけの

ともかく護身用ピストルは何処にもない

落としたのか 盗られたのか

いいや もともとそんなものはどこにもないのに

目に視えないものを尤も恐怖する と

あなたが言ったのをよく憶えている

仄暗き血光に具現化されたこの街には

熱りたった情念がまだ残存している

ねえ遠くからガス管の漏れる音がして

いつ引火して崩滅するかわからぬ建築で

じっくりと朽ち果てることなど可能かい?

まだ終わらない陳腐な景観だけが

住人にもっと自殺を求めている

屍と魂をこそげ落として

街は住人をむさぼる魔獣のささやき

厳しき父 優しき母 それすら喰われて

そのうち昂奮するこの身体までも

欲望する奴らに与えねばならぬだろう

べたつく汗はとっくに乾いて

嗚呼、恋やら愛やら

ハナから期待などしていない

嗚呼、結末やら開闢やら

ハナから秘密にしなくてもいい

街は音楽に充たされているのに

この場所を出る汽車はない

暁光、首も垂らして

酔いもそろそろさめる頃

あいもかわらず女は撲たれている

どうしようもないのだ!

まだ歩かねばならぬこの脚を

どうか切断して

せめて墓標代わりにしてください

千切れた太腿には

誰にも読めない文字を彫ってください

けれどそれは誰の名前?

おれの名前は?













泥の女


剥ぎ取られたか細い手脚

毟られた乱れ髪 どう調理しても喰えぬ肉

すっかり鈍ったハウンティングナイフ

愛嬌のある乳房は跡形もない

飛び散った血もすっかり酸化して

こびりついたみにくい脂

嬲られて 嬲られた

身に搭載されたものが

ぽろぽろ取れていく感覚

けれど切り刻まれたところで

もう性行為のような心地よさもない

その姿 まるで泥で出来た犬

吠えることもできず 四つん這いもできない

身体の可動域もわからないまま

どうやっても涙を流すこともできないの

かわいそうな肉 かわいそうな畜生

いいや ちがう!

わたしは犬じゃない!

こんな姿でもわたしは女

弁別もできない 経由もできない

扱いにくい狭い管を 肉襞を

切れ味の悪いその刃物で

さらに捌いて さらに散らして

それでもお願い もっと激しく

陵辱してください

愛する人よ

私をもっと

かわいそうな泥にして
















ため息以下


外骨格はどこにも

頭蓋骨はどこにも

干からびた息づかい

思わず涎を垂らした料理は腐って

買える酒の量は減るばかり

もう一杯ください

モウ一杯だけクダサイ

日々は過ぎていきます

受け継いだものも焼尽

そのたびに水嵩は増して

いつしか溺死量まで達するはず

ため息も吐けない生活を

どうやっても護れぬ自堕落さを

どうぞ嘲笑ってください

だれか嘲笑ってクダサイ




















野垂死に


理知的な大人を演じたかったの

光るものばかり見つけて

夢には馬 現には空蝉

哲学者ぶって巨きく口を開けた姿は

まるで廃棄された発電所みたいね

貯め込んだものはまるで意味のない夢

線の繋がっていない電話は鳴らないなら

谷底の生活も悪くはないか

高らかに闊歩しても

安らかに逝去しても

どれもこれも野垂死に

だれもかれも野垂死に

もうそこに出口はないわ

あるのは行きどまりだけ

空包みばかりが落ちている・・・






















生活の無意味さ


気を遣れない殺害に意味などない

道徳観も膨らみすぎたアナアキイ

漲る情感もどんな喩えも意味がない

どこまでいってもアナロジイ

倦みに倦んだ空虚の自殺願望

端から端までせりふを附けても

誰からも意味を与えられぬ実生活

修辞的誇張だけが独り歩きして

あーもう馬鹿らしくて仕方ない

首の皮一枚 薄っぺらい抱擁

可笑しくて可笑しくて

わざと胡乱な目を剥いて

何んにも喋んなくたって

過呼吸気味に息があがるだけ

猶予のない生活があるだけで

かつてとおんなじように先は泥

だけど信じたい

どれだけ人を殺めても

どれだけ自ずの首を吊っても

あなたとのキスには意味があるんだって

うまく生きるのにしくじっても

それでも

それでも恋はしたいものです






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