ふるさと
【ふ】るさとの空が、夕暮れ時の色に染まっていた。それでも、まだ西の空は明るい。
美しい残照だな。
たぶんぼくは、このけしきをもう一度目にしたくて、ふたたび、この場所に戻ってきたのだろう。
いまにして思えば、ながい、ながい、けれど、それでいて短かかったようにも思える、そんな旅だった。
瞳を閉じる。瞼の裏に、昨日までの旅の記憶が、鮮明によみがえる。
旅のはじまりは、そう、こんな感じだった。
【る】ろう(流浪)の旅に出たい。
ある日突然、ぼくは、そんな衝動に駆られていた。
なんのことはない、それは、喫茶店で、ある雑誌に目を通していたときだった。
その中に掲載された記事に思わず、心を鷲掴みにされてしまったのだ。
『自分探しの旅』ーーそんな、タイトルの記事だった。
人はどこから来て、どこに行くのか。人生は旅であり、「未知のものへの漂泊」である。
哲学者三木清は『人生論ノート』で、こう述べている。
自分って、いったい、何者なのか? どこに向かって旅をしているのか。できるだけ若いうちに、その答えを見つける旅をしよう。ただし、その答えは、鏡のように機能する他者の客観的な『目』を通してのみ、明白になるのである。それを前提に、「未知のものへの漂泊」をしよう。
そういう文句が、ぼくの心を、大いに揺り動かしていた。
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