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第7話「シンヤVS.デヴィット」

俺と少女はジャングル内を駆け抜ける。地面から飛び出た木の根や、人の身長ほどある巨大な葉っぱなどが行く手を阻む。どこに船があるのか分からないが、とりあえず海に出れば何とかなるはず。そう信じ、俺たちは足を動かし続ける。


「もうすぐジャングルを抜けるわ」


少女の言葉を聞き、前を見る。確かに少しだけ光が挿している。


「やったあぁ!」


俺は両手を上げ、まるであの有名なお菓子会社のロゴマークのようなポーズをとった。


「ここは砂丘ね」


少女はそう言った。

しかし俺は砂丘よりも海よりも、出てきたジャングルよりも別の、あるものにくぎ付けになった。


「おい、冗談だろ?」


ジャングル内では空も霧に覆われていたため分からなかったが、浜辺に出た瞬間、濃霧はなくなり、夜空がはっきり見えるようになった。だが問題はその夜空、明らかに地球のものとは違っていた。


小さな星々の光が輝いて、大きな月の光がある。それが地球の夜空だ。ほとんどの人が俺と同じことを言うだろう。しかしここは、空には巨大な惑星がいくつも見えていた。青い惑星、赤い惑星、茶色い斑模様の惑星など、見たこともないたくさんの惑星が、手を伸ばせば届くんじゃないかと思うくらいの距離にある。まるでSF映画の世界にいるのかと思うくらいだ。俺は気が狂いそうになった。


「……ここは、どこだ?」

俺は太陽系第三惑星、地球という星にいたはず。


「ここは惑星プロエレス。7人の冥王が作りし世界。あなたはどこから来たの?」


その言葉から察するに、彼女もすでに俺がこの世界の住人ではないことに気づいているようだ。


俺の全身から汗が噴き出す。

俺は日本に住んでた。ド田舎だったけど、住民はみんな暖かく、食べ物もおいしい良い村だった。


「私はアリス。あなたの名前を教えて」

「俺は……シンヤ……真夜中真夜中」


この時、俺はまだ知らなかった。ここから始まる大冒険を。


『どこへ行った!?』

『決して逃がさんぞ人間ども!!』


ジャングルの奥からリザードマンたちの怒涛が聞こえる。数がいるのか、まったく振り切れない。ピタリとついて来る。こんな場面に慣れているのか。


「見て! 船はあそこよ!」


アリスが指を刺した方向には、漁船くらいの大きさの船が止まっていた。


「アリスはあれに乗ってきたの?」

「私が乗ってきたのはもっと大きな船だったわ。あれは恐らく漁に使う船ね。この辺りは凶暴だけど美味な魚が多いって聞いたことがあるわ」


リザードマン(半漁人)が魚を食う光景。想像したらちょっと笑ってしまった。あ、リザードマンは爬虫類っぽいから共食いにはならないのかな。


「急いで」

「誰もいないことを祈るぜ」


俺とアリスは船に向かって走り出した。ここもかなり砂がもっているので歩きにくかったが、船まで残り数mまで来たところで、石の混ざった砂が多くなったため、歩きやすくなっていた。


「奴らの気配はないわね」

「まどろっこしい事はやめよう。俺が先に言って、安全を確かめたら呼ぶから」

「危険だわ」

「大丈夫、俺の強さを見ただろ」


俺はすっかり自信に満ち溢れていた。高い場所から落ちても痛くないし、石を蹴れば空の彼方まで飛んでいく。たとえ夜空に変な惑星があろうと『わ、くせぇ』の勢いで乗り越えてやるぜ。


「気をつけて」

「おう」


俺は熟年の漁師のように堂々と船に近づいた。


どんっ、と足音を立てて船に乗り込む。靴に砂が入っているため気持ち悪かったが、気にせず船内を旋回する。リザードマンがいないどころか、しばらく使われていないかのような感じがした。


「どうやって動かすんだこれ」


地球の船のようなハイテクマシンで動かすわけもあるまいし、かといって舵の丸いハンドルみたいなものもない。


考えてもこの世界のことは分からないので、とりあえずアリスを呼ぶことにした。


「おーい! どうやら大丈夫そうだよ!」

「そう、よかった―――」


どん。


俺にも微かに聞こえる鈍い音がアリスの後ろでした。


「―――なっ!?」

「まったく、こんなネズミを捕まえるために俺が駆り出されるとはな」


岩陰から一体のリザードマンが姿を現した。


「おい小僧、こっちへ来い! さもなくばこの娘の首が吹っ飛ぶぞ!」


大声を出して俺に忠告してきた。

俺は仕方なく指示に従うことにした。


「そうだ、良い子だ。ほら、もっと来い」


このリザードマン、他の奴らとは雰囲気が違う。それは装備や武器の違いじゃない。体からにじみ出るオーラが違うのだ。


「そうだ……もっと、もっと来い」


どこか隙はないか。徐々に距離を詰めていきながら考える。あいつの腕の動きより早く俺の脚が動いてくれれば、アリスを助けられる。だがあいつが持つ剣はアリスの首に触れている。瞬間移動でもできなければあいつより早く動くのは無理だ。


「よし、そこで止まれ」


俺はリザードマンの数m手前で止まった。やはりむやみに近づかせてくれないようだ。


「お前だな。俺の仲間を次々に倒していったガキというのは」

「だったらどうする?」

「どうもしないさ。それを決めるのは俺ではない。俺はただ金さえ貰えればそれでいい」


こいつ、自分の腕に自信を持っているな。下手にやり合うのは危険だ。現にこいつは俺たちの居場所をどのリザードマンよりも早くつきとめている。


「お前らが助かる方法は二つある。一つは俺をブッ倒してその船で逃げる。もう一つは、リザータウンからの報酬より多くの金を出せば、俺が助けてやる。さぁ、どうする?」


こいつがどれだけの報酬を約束されているか知らないが、金はある。だが日本円だ。この世界で通じるとは思えない。ならばこいつを倒して船で逃げるしかないが……。


「時間はないぞ。すぐに他の連中もやってくる。そうなればお前らは一生暗い地下牢で暮らすしかない。女の方は半永久的に肉便器として使われるだろうが、男のお前は娯楽の見世物として使われ、すぐに殺されるだろう。奴隷として生かしておくのは危険すぎるからな」


よく喋る半漁人だな。油は乗ってそうだが不味そうだ。


「時間はないぞ。どうする?」

「……お、俺と一対一で勝負しろ。それで俺が勝ったら彼女を放せ。俺が負けたら好きにしていい」

「……ふ、ふはははははっ!!」


リザードマンは大口を開けて笑った。


「小さい頭で必死に考えた結果がそれか! そんな提案に俺が乗ると思ったか!」

「乗ってくれるまで頼み続けるさ。頼む」


俺はリザードマンに頭を下げた。


「―――っ!?」


俺の行動を見たリザードマンは動揺しているようだ。だがアリスから剣を放した感じはしない。


「……面白いヤツだ。いいだろう。お前の下らん提案に乗ってやる。ただし、制限時間以内に俺を倒せなかった場合も負けとする」

「一瞬で勝負をつけてやる」

「いきがるな、ガキが」


リザードマンはアリスを岩に寄り添わせるように寝かせた。


「素手で俺と戦うのは無謀だ。これを使え」


リザードマンは腰に付けていた二本ある剣のうち、少し短めの剣を俺の目の前に投げた。


「やってやる」


俺は剣を抜いた。


「始める前に自己紹介をしておこう。俺の名はデヴィットだ」

「俺はシンヤ」

「シンヤ。俺は貴様を倒して金をもらう」

「デヴィット。俺はお前を倒してアリスと共にあの船で逃げる」


自己紹介を終え、再び睨み合う俺とデヴィット。


剣道の経験など、中学の時に体育の授業でちょっとかじったくらいだ。しかもこれは竹刀じゃあない。本物の剣なのだ。俺の剣は相手のよりリーチが少しだけ短い。短剣が長剣に勝つにはどうしたらいいのか全く分からない。


「いくぜおい!!」


とかなんとか言っているうちにもう始まってしまった。デヴィットがものすごい勢いでこちらに向かって来る。


「うっ!」


何とか一撃目は防いだ。だが休む間もなく攻撃は繰り出される。俺はそれを受け止めるので精いっぱいだ。


「どうしたシンヤ! その程度か?」

「うるせぇ!」


俺は力いっぱい剣を振った。


「おっと」


運よくデヴィットを遠ざけることができた。やはり今の俺は地球にいた頃と比べてパワーがある。あとは経験だけだ。おそらく力だけならほぼ互角。勝負を決するのは経験の差か。


「時間がないからどんどん行くぜ!」


考える時間すら与えてくれない。今の交戦でヤツは俺がド素人だと見やっただろう。


「ハアァッ!!」


掛け声とともにまた奴が来る。その動きを捕えることはできる。隙も当然あるだろう。だが体が反応してくれない。防御は出来ても、攻撃ができない。


「ウラアァッ!!」

「ぐふっ!?」


腹に蹴りを入れられ、俺は吹っ飛んだ。


「よく俺の攻撃を防ぎきっているな。だが今の一撃で貴様は死んでいたぞ。俺が剣ではなく足で攻撃したおかげで、貴様は今生きているのだ。さぁ立て。俺はまだ満足していないぞ」

「くっ……」


腹の痛みに耐えながら、俺は立ち上がった。




それから俺たちは戦い続けた。決して長い時間ではないかもしれない。だがそのときの俺にとってはとても長く感じられた。デヴィットの攻撃をひたすら受け続けるだけの戦闘だったが、それは俺にとって必要な時間でもあった。デヴィットが早くに決着をつけなかったおかげで、俺はあることに気がついた。


「ふん、所詮こんなものか。なぁシンヤよ。そろそろ終わりにしよう」


デヴィットは剣を握り直した。


「その首、貰ったあぁ!!」

「はああああぁぁぁっ!!」


俺は最大の力が出せるように、最大の加速ができるように、手と足に力を注ぎ込んだ。


「ウッ―――!?」


デヴィットの動きが止まった。

デヴィットの脇から赤い血が流れる。リザードマンの血も赤いんだな。


「や、やりやがったな……」


そして剣を振り下ろすポーズをとったまま、デヴィットは倒れ込んだ。その衝撃で砂がふわりと舞い上がる。


「最初は怖くて剣を振れなかった。だけどあんたはなかなか俺を殺さなかった。それは俺に覚悟を決める時間を与えてくれた」


剣を振る覚悟。相手を斬る覚悟。相手を傷つける覚悟。赤い血を見る覚悟。そのすべての覚悟が整い、俺は最初の一撃に踏み出した。


「そして見事に成功したよ。あんたのおかげでこの世界の重力にも慣れてきた」

「お、お前は、この世界の人間ではないのか?」

「俺は地球生まれの地球育ちだ」

「ち、地球? 聞いたことが、ある。その昔、地球という異世界から一人の男がこの『ミッドナイト』に迷い込んだ。そして、地球とミッドナイトを繋ぐ異空間を作った、と。その異空間の入り口を守る一族が、今なお存在しているという」


ちょっと待て。宮古村に伝わる伝説通りなら、最初にここに来たのは女性のはずだ。しかし、デヴィットが口にした話も嘘ではなさそうだ。


「その一族はどこに?」


これは確かめるほかないぜ。


「ここから東に恵土という巨大な人間の都がある。そこに行けば……がはっ!」

「デヴィット!」


俺は自分の服を抜いでデヴィットに傷口に当てた。


「止せ。俺は戦いに負けた。情けは無用だ」

「だけど!」

「この先、お前の前にいくつもの壁が立ちはだかるだろう。そのたびに立ち止まっていたら、この世界では生きていけない。立ち止まるなシンヤ。歩き、続けろ」

「デヴィット……」

「あの船は魔法の力で動く。あの嬢ちゃんは魔法使いらしいな」

「デヴィットも一緒に行こう! こんな島にいちゃダメだ!」

「それもいいな。だが、悪いなシンヤ。ここは俺の故郷なんだ。それに、どうやら、ここまで、みたい……だ……―――」


デヴィットの目はゆっくり閉じられた。


「デヴィット……デヴィット! デヴィット―――!!」


俺は徐々に冷たくなるデヴィットに向かって何度も叫び続けた。


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