第22話「港町ヴィクトリア」
港町。人や物の流れ、すなわち旅客や物流を担う交通が、陸上と水上との間で転換する地点に形成された都市。舟運に適した海岸・湖岸・河岸において、陸上生活者と水上生活者の両方あるいはどちらか一方によって都市化が進む。流通拠点として発達すれば、陸上と陸上、あるいは、水上と水上とをも結ぶハブ港湾ともなる。
ここヴィクトリアは、港町として有名らしい。調理する魚は常に新鮮な物を使っているため、地方から多くの旅人がわざわざ訪れるほど。貴族の旅行者も多い。その為、俺が今まで寄ってきた村と違って、町にはあちらこちらに警察(?)がいる。
「こっちにも人、あっちにも人」
俺がいつも利用している駅と比べても段違いに多いぜ。東京の台所ってところもこんな感じなのか。それにしても……。
「良い匂いですね、シンヤ様!」
「ナンシー、もうちょっと離れてくれ。歩きにくい」
「と、言いながらニヤけてますよシンヤさん」
「もう、役所を探すんじゃなかったの? シンヤくんはまだこの世界にはいない人間なのよ?」
「分かってるよ。場所が分からないときは聞けばいいんだ」
日本じゃ常識だぜ。
「教えてくれそうな人はぁ……おっ、あの人がいいな」
俺はスキップしながらその人物に近づく。
「あの、すいません。役所の場所を教えていただけませんか?」
「……ん?」
声を掛けられ、振り向いたその人物は、俺が予想していた通りの人だった。耳が尖っているからエルフかな。それにしても、随分と肌が黒いな。褐色は男のロマンですたい。
「君、見ない顔だが旅人か?」
「はい。リザータウンからやってきました」
「……? また妙なところから来たものだな」
「旅の途中でパスポートをなくしちゃいまして。再発行したいんです」
「なるほど。それならこの道を真っ直ぐ行くと噴水のある広場に出る。円形にいろんな店が並んでいるが、北側にある緑色の看板の屋敷が役所だ」
「ありがとうございます美人なお姉さん」
「……」
むっ、勇気を出して誉めたのに表情一つ変えないとは。かなりガードが固いのか、ただ照れているだけなのか。
「シンヤくん、役所の場所聞けた?」
「ああ、分かったよ。こっちだって」
「シンヤ様ナンパしてませんでした?」
「し、してないよ……」
と、言いつつ、俺はナンシーに目が合わせられなかった。
「……おい」
「何でしょうエミリー警部」
「あの金髪の少年に監視を付けろ」
「はい」
(あの少年、パスポートを紛失したと嘘をついた。見た目はヒューマンの少年だが、どこか違和感を感じる……)
言われた通りまっすぐ歩いていると、しばらくして広場に出た。広場の中心には立派な噴水が佇んでいた。その一方で、気になる人混みを見つけた。何やら台の上に乗っている人が声を荒げて何かを喋っている。
「―――明日を見よ、進歩を止めてはいけない! 銃を取れ、弾を込めろ! 『山犬』この言葉を我々は甘んじて受け入れよう! 復讐の混沌たるはじまりの時において、我らは激昂し、宣言するのだ! 山猫に罰を与えよ! 罪を償え! 死に誘え! 我らは怒号し、咆哮をあげる! 山犬のためのパンを! 山犬のための住処を! 山犬のための癒しを! 我らは要求するのである!! 愛する者を無くし、家を無くし、心を無くした我らが、世界を変えていくのだ!!」
難しいことを長々と言っている金髪のイケメンがいる。選挙の演説か何かだろうか。よく分からない。しかし、山猫とは誰のことだろうか。
「シンヤ様、行きましょう。何か、気味が悪いです」
「あたしも、あまりいい気分ではありません」
ナンシーとエレンは気分が悪そうに俺の手を掴む。特に俺は何も感じないが。二人はこの雰囲気が苦手のようだ。
「この熱を感じるかダミアン? これがヘルハウンドだ」
「ありがとうビリー。マックス亡き今、君がいてくれたからここまで来れた。今後も僕を助けてくれ」
「当然だ、同志よ。共に行こう、我らが未来へ」
演説をしていた男と、下でそれを聞いていたこれもまた金髪の男が握手を交わす。
「……」
「どうしたダミアン?」
「……あの子は誰だ? 魔法使いのようだが、この街の子か?」
「……いや、見たことないな」
「一瞬だけ顔を見た。美しい人だった」
そう言って、ダミアンは花の甘い香りに誘われるミツバチのように歩みを始めた。
「どこへ行くんだ?」
「役所だ」
「ここだな」
俺はようやく役所の前までやって来た。窓から中を覗いてみると、結構人が居る。長椅子に座っている人もいるから、時間がかかりそうだ。
「混んでるみたいだから、俺ひとりで言って来るよ。3人はここで待ってて」
幸いにも、外にも長椅子が二つ用意されていた。一つで3人くらいは座れるだろう。
「一人で大丈夫?」
「……あ、やっぱアリスついて来て」
簡単に意思を覆せるのが俺のすごいところである。
「もう、しょうがないわね」
「あっ、ずるい! アリス抜け掛け!」
「そっ、そんなんじゃないわよ!」
「卑怯よアリス! 自分だけ良い格好してシンヤ様に気に入られようだなんて!」
「そんなんじゃないって言ってるでしょ!」
こんな人目の付くところでケンカはやめてくれよ。こんな形で目立つのは恥ずかしいぜ。すごい視線を感じるぜ。わざわざ立ち止まって見てる人もいるし。エルフはクスクス笑ってるし。
「二人とも落ち着いてください。ナンシーさん、ここは我慢しましょう。シンヤさんが最初に指名したのがアリスさんなんですから」
やはりエレンをパーティに加えて正解だったな。アリスとナンシーのケンカを仲裁することができるのは彼女だけだ。
「むうぅ……しょうがないわね」
頬を膨らませてふてくされるナンシーだったが、どうにか言うことを聞いてくれた。
「じゃあ、行こうか」
俺はアリスを連れて役所に入っていた。
中は割とシンプルな作りだった。全体が木で造られていて、まだ新築であるかのような香りが鼻をつく。受付の窓口は全部で4つ。そのすべてが埋まっている。広場側には窓があり、その近くにはベンチが用意されていた。しかしなぜかこのベンチは鉄製。
「空いたわよ」
アリスは迷わず、タイミングよく空いた「4」と書かれた窓口へ向かった。
「いらっしゃいませ」
しゃがんでいたのか、下から顔を出したのは可愛らしい人間の女性だった。
「パスポートを作りたいんですけど……」
「ではこちらの用紙にご記入をお願いいたします」
「シンヤ君の名字って『Mayonaka』で合ってる?」
「ああ」
渡された用紙への記入はアリスにやってもらう。俺はこの世界の文字は読めないし、書けない。まぁ、ほとんどアルファベットだが。
「性別は男性。種族はヒューマン。年齢は17歳……」
さらさらと迷いなくペンを進める。わざわざ説明事項を読んでいるわけでもなさそうだ。どこに何を書けばいいのか、ぱっと見ただけで分かるのだろう。
「書けました」
「はい、ありがとうございます。少々お待ちください」
受付嬢はその用紙を手に奥に行った。何やら上司らしき人と会話。そしてハンコみたいなのを押し、何か書き込んでいる。
「……登録が完了いたしました。こちらはご記入用紙のコピーです。受け取り時に必要になりますので必ずお持ちください。パスポートは明日の正午以降、受け取り可能になります」
「ありがとうございました」
終わったのか、アリスはお礼を言った。それに続き、俺も軽く会釈をした。
役所を後にした俺たちは、ナンシーとエレンと合流し、適当な宿を探しに出かけた。用紙のコピーは、なくすといけないのでアリスが預かってくれている。
「この町、宿が多いな。今まで立ち寄った村は一つぐらいだったのに」
「ここは観光地としても有名だからなのよ。遠い所から海鮮料理を食べに来る人が多いのよ」
「へぇ……」
「でもアタシたちはお金ありませんからあまり高額な宿には止まれませんけどね」
「ナンシーさん、何か怒ってません?」
「べつに怒ってないわよ」
「あっ、じゃあ、ココなんかいいんじゃないか?」
俺はまたナンシーとアリスがまたケンカをはじめないうちにささっと宿を決めた。正直どこの宿が良いかなんて俺には分からない。ネットで評価が見れるわけじゃないし。
「そうね、一人10Ntなら大丈夫ね」
アリスは宿の前に張られている看板に書かれている文章を読み、納得したように首を縦に振った。
今日は何だからいつも以上に疲労が溜まってる気がする。早く部屋に入って横になりたいよ。




