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第20話「仲間と家族」

ナンシーをボーアファミリーから取り返した俺たちは、アーサーさんが剣を直し終わるのを待っていた。ナンシーの足はアリスお得意の回復魔法ですぐに治ってしまった。そして次の日には目を覚まし、いつもの元気なナンシーに戻っていた。逆に俺は調子に乗って走り回ったせいで激しい筋肉痛に襲われ、しばらく動くことができなかった。アリスの魔法は体の傷は治せても、筋肉痛や腹痛、頭痛、病気といったものは治せないのだという。




それから数日後。


「ふうぅ……」

「具合はいかがですかシンヤさん」


ベッドで横になっている俺にエレンちゃんが水を持ってきてくれた。


「かなり楽になったよ。そういえば、寝室はちょっと涼しいんだね」

「それはアイスストーンのおかげですよ」


エレンちゃんは部屋の中央に置かれている青く輝くピンポン玉くらいの石を指差した。


「いくらドワーフでも、この暑い溶岩の中で睡眠を取れば、脱水症状で死んじゃいますので、アイスストーンという魔法のアイテムを使って部屋を涼しくしているんですよ」


なるほど、そんな魔法のアイテムがあるのか。地球で言うところのクーラーみたいなもんか。


「他にも、ホットストーンというのがあって、それは逆に部屋を暖かくしてくれるんですよ」

「へぇ……」

「あ、触るのは結構ですけど、割れてしまったら効果がなくなるんで、落とさないでくださいね。一つ2000Ntしますので」


それを聞いて俺は触るのを躊躇した。


「でも触る」


ほうほう、石自体は冷たくないんだな。地球にお土産として買っていこう。


「―――シイィンヤ様アァ!!」


下の階からナンシーの声がしたと思ったらすごい勢いで俺に飛び付いてきた。この部屋には扉がないため、余分な動作や時間をかけるが必要なく俺に抱き着けるメリットがある。とナンシーは喜んでいる。


「あ」


その衝撃でアイスストーンを放してしまった。


「おっと」


しかしエレンちゃんがこのことを予想していたかのように落ち着いて受け取る。


「危ないじゃないかナンシー」

「だってシンヤ様が元気になったって聞いてぇ! アタシ嬉しいんですよ! 助けてくれたこともちゃんとお礼言いたかったし! やっぱりシンヤ様とアタシは赤い糸で結ばれているんですよ!」

「分かったからちょっと落ち着いて」


俺は興奮冷めやらぬナンシーを落ち着かせ、一度ベッドに腰を落とした。


「……皆さんは、シンヤさんの武器が治ったらまた旅に出るんですか?」


エレンちゃんが少し悲しそうな表情で訪ねてきた。


「ん、そうだね。いつまで世話になるわけにはいかないし、早く恵土に行きたいし」

「あたしも、連れて行ってくれませんか?」


唐突だった。


「……え、いや、でも……」


俺が断る言葉を探しているうちに、エレンちゃんは次の言葉を言った。


「当然戦闘に関しては素人です。でも皆さんの装備品を直すことはできます。戦いになれば武器や防具は痛みます。それを直すくらいは出来ます」


う~ん。どうも説得力に欠ける言葉だが、傷つけるわけにもいかないし……。


「それは村や町に寄ったときに、今回みたいに直してもらえばいいじゃない。わざわざあなたが行かなくても……」


ナンシーはこれ以上恋のライバルが増えないために言ったのだろう。本心からエレンちゃんのためを思って出た言葉ではないだろう。


「荷物運びでも何でもします。あたし、昔から冒険に憧れていたんです。男の子たちは10歳を過ぎた頃から冒険者の見習いとして洞窟を出て行く人を何人も見ました。でもあたしは、女という理由で祖父が許してくれないんです」


これは難しい話になって来たぞ。ナンシーのように戦闘ができるなら別だが、こんな優しい子を危険な旅に同行させるわけにはいかない。アーサーさんが反対しているならなおさらだ。これは家庭の問題。赤の他人の俺らがどうこう言える問題じゃない。

冒険者を地球の感覚で言うと「芸能人になりたい!」と言っているみたいなものだろうか。そう言えば俺も昔、小学生のお楽しみ会でネタを作ってみんなの前で披露した時、かなりウケたのを覚えている。そして家に帰って「芸人になりたい!」って言ったら父ちゃんにぶん殴られたっけ。


「悪いけど、エレンちゃんを同行させるわけにはいかない」


俺は珍しく女の子に厳しく当たった。


「……エレン、そんなに冒険に行きたいのか?」


すると、その話を聞いていたのか、アーサーさんがやって来た。その後ろにアリスもいる。


「おじいちゃん……」

「わしはずっと反対してきた。女が冒険者などと。じゃがそれは、お前と離れたくないがためだった。お前にはわしの後を継いでほしい」

「……ならば、鍛冶の修行という形でならどうでしょうか? いろんな世界を見て、いろんな人と触れ合うのも修行だと思います」


後ろにいたアリスがそう提案した。


「そうじゃな。それがいいかもしれん」

「おじいちゃん……じゃあ……」

「ああ。行っておいで。ただし、必ず無事に帰ってくること。そのときはわしの後を継げるくらいの武器を作れるようになってくること。分かったな?」

「はい!」


感極まったのか、エレンちゃんは涙を流しながらアーサーさんに抱き着いた。


「あ、それとシンヤ君。君の武器と防具が完成しているぞい。ほら、これじゃ」


アーサーさんはアリスを見た。いや、アリスが持っているそれを見たのだ。


「完成したんですね。ありがとうございます」

「着てみなさい」


その言葉を聞いて、俺は早速装備してみることにした。


「……わあぁ。シンヤ様かっこいいです!」


俺の新しい姿を見てナンシーが両手を合わせ、目を輝かせている。


「似合ってるわよシンヤくん」


アリスも誉めてくれた。


「はい、鏡です」


エレンちゃんが全身が映る三面鏡を持ってきてくれた。


「どうかね。防具のサイズや柄の持ち心地は?」

「ぴったりです。初めて着るはずなのに、もう何度も着ているかのような感じです」


これが俺か。今までは単なるコスプレのような姿だったが、これで俺もやっとこの世界の住人になれたような気がした。西洋の騎士にでもなったような気分だ。最高だった。


「ここに1000Ntあります」


俺はベッドの横に置かれていた小汚い小物入れのような袋をアーサーさんに差し出した。


「……200Ntくらい貰っておこうかの」


しかし彼は袋の中に手を入れ、一掴みした分だけを自身のポケットに入れた。そして残りの金は再び俺の元へ戻ってきた。


「しかし……」

「いいんじゃよ。金は冒険には必要不可欠。宿にも泊まるし船にも乗る。食事も当然、備品も必要じゃ。わしは一人分の食事代があればよい」

「おじいちゃん……」

「エレン。ちゃんとするんじゃぞ。皆さんに迷惑はかけんようにな」

「おじいちゃん……ごめんなさい。いつも、あたし……わがままばっかで」

「お前はわしの可愛いただ一人の孫じゃ。孫はもっとわがままな方が可愛げがあったわい。それなのに……まじめすぎるところがお前のお父さんそっくりじゃ」


アーサーさんとエレンちゃんはお互いを強く抱きしめ合った。


「シンヤくん……」

「ああ」


空気を呼んでアリスが声を掛けた。それを合図に、俺もナンシーも部屋から出て行った。もう二度と会えないわけじゃない。それでも家族との別れはつらい。俺は父ちゃんと母ちゃんに何を言わずにここに来てしまった。今、何を思っているんだろうか。




「家族、か……」


アリスは膝を抱えて座り、遠くを眺めていた。


「家族に会いたくなった?」

「そんなこと……あるけど」

「アリスもまだまだ子どもだなぁ」

「何よ、シンヤくんの方が子どもでしょ」

「シンヤ様はアタシにとって白馬に乗った王子様ですよ。命も救ってくれましたし。これでより愛が深まりましたね!」


ナンシーが後ろから俺に抱き着く。


「ちょっと! あんまりくっつかないでよ!」


あ、この光景、ここに来た時と同じだ。数日この洞窟にいたけど、何にも成長してないな。


「そう言えば、シンヤ様はどんな理由で旅をしているんですか?」


ナンシーが唐突に尋ねてきた。


「―――それ、あたしも聞きたいです」

「あ、エレンちゃん」


洞窟の出入り口からエレンちゃんが大きなリュックを背負って顔を出した。


「そう言えば、ナンシーにもちゃんと話したことなかったな。俺はさ、ミッドナイトの住人じゃあないんだよ。地球っていう世界からこっちに来ちゃったんだ。その理由を知っている人が恵土という国にいるっていうから、ただひたすら東に向かっているんだよ」

「へぇ……そうなんですか。ねぇシンヤさん! その話、もっと聞かせてください!」


エレンちゃんが俺の右腕を掴んだ。小さいながらも胸のふくらみを感じる。やわらかい。気持ち良い。


「ちょっと! アタシのシンヤ様にくっつかないでよ!」


左腕にナンシーがくっついた。


「地球のお話、もっと聞きたいです! 一体どんなところなんですか?」

「アタシが一番に聞くの! ねぇシンヤ様! アタシに最初に教えてください!」

「え、えぇ? こ、困ったなぁ」


また顔を赤くして鼻の下を伸ばす俺。


「もう! ふざけてるならみんな置いてくわよ!」


そして同じく顔を赤くして怒るアリス。


「ああ! 待ってよアリス!」


こうして、四人パーティになった俺の旅は、ますます賑やかになりそうだ。




「頑張るんじゃぞ、エレン―――」


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