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第16話「伝説の鍛冶職人」

イメージと違うボロボロの木の扉を叩いて、中に入るための許可を得る。


「すいません、誰かいませんか?」


コンコン、と二回叩いたが返事がない。穴の開いた扉から中を覗き込むと、そこにはまるでガラス工場のような光景が微かに見えた。家というより工房としてだけ使っている感じがする。生活感はない。それだけは覗き込んだだけで分かった。そして奥に続く階段は。


「シンヤ様。とりあえず入ってみましょうよ」


ナンシーの意見を取り入れて、俺はゆっくり扉を開けた。


「すいませーん!」


先ほどよりも大きな声で呼びかけてみると、上からドタドタと足音が聞こえた。


「―――あ、お客様ですか?」


すると二階から中学生くらいの女の子が姿を現した。


「あなたが、伝説の鍛冶職人ですか?」


俺がそう質問すると、彼女はゆっくり首を横に振った。


「それはアタシのおじいちゃんです。呼んできますからちょっと待っててくださいね」


そう言って、少女は再び二階へ戻った。

それからすぐに少女は一人の老人を連れて戻ってきた。


「わしに何か用かの?」


俺はその姿を見てほっとした。もっと頑固そうな親父が出てくると思ったら、優しそうなおじいちゃんだ。宮古村を思い出すぜ。


「武器を直してほしくて。これが、その武器です」


俺は布に包んであるデヴィットの剣を見せた。


「ふむ……」


おじいちゃんはまじまじと剣を眺めた。


「これはリザードマンが作った剣じゃな」

「分かるんですか?」

「当然じゃ。それぞれの種族が作った武器には一見特徴などないように見える。見なさい、これは柄の部分に竜が刻まれている。リザードマンの作る武器すべての武器にこの竜が同じ形で描かれておる」


すごい。鳥肌が立った。これが伝説と言われる所以か。いや、それよりも驚いたのは、リザードマンの手の器用さ。人間より大きな手をしているくせに、こんな消しゴムに印を掘るような細かい作業ができるなんて。


「自己紹介が遅れたな。わしはアーサー。こっちは孫娘のエレンじゃ」

「はじめまして。エレンと申します。アタシもいつか、おじいちゃんみたいな鍛冶職人になれるように頑張っています」

「俺はシンヤ。よろしく」

「アリスです。魔法使いなの。回復系が専門だけど、少しだけなら攻撃も可能よ」

「ナンシーよ。弓使いで、百発百中なんだから」


みんなそれぞれ自己紹介をした。


「さて、紹介が済んだところで立ち話もなんじゃ、二階へ来なさい。座って話そう。エレン、お客様に飲み物を」

「はい」


俺らはアーサーさんに連れられた。二階の雰囲気は一階とは違い、洋風の爽やかなリビングという感じだ。外の溶岩とあまりマッチしていない感じだが、これも職人のセンスなのだろうか。


「さて、話を聞こうかの」

「先ほども申しあげたとおり、この剣を直してほしいんです。これはデヴィットというリザードマンから預かっている、大切な剣でして……」

「ふむ……直すのは構わんが、金は持っておるのかね?」

「あ、はい……」


実を言うと、このミッドナイトでお金を手に入れるには、当然働いて稼ぐという方法があるのだが、この世界では存在が確認されていない俺が職業に就くことができない。なんでも、身分証明書が必要なようで、大きな町で発行してもらわなければならない。さらに発行してもらうには5Ntかかるらしい。発行期間は、混み具合にもよるが、大体1~3日ほどらしい。


話を元に戻すが、道中モンスターを倒してその素材を売ってお金に変えているが、大した金額じゃないのは俺でも分かった。こんなすごい職人なら、かなりお高いんだろう。


「実は、ここにいる3人の持ち金を合わせても100Ntにもならないんです」

「ふむ、さすがにそれだけでは、その場しのぎのことしかできんのう」

「金は何とかします。直している間に、稼いできます」

「そうは言ってものう……この辺りにそんな大金になるような素材を持つモンスターはおらんのじゃよ」

「お願いします!!」


俺は土下座をした。俺みたいな奴の土下座にどれくらいの価値があるのか分からないが、やはり俺も日本人、これが一番効果があると思い、無意識にこの形をとっていた。

「君はシンヤ、と言ったかな? どこから来たのかね? 名字は?」

「はい。説明しても信じてもらえるか分かりませんが、俺はこの世界の人間ではなく、地球という星からやってきた、というか、転生した、というか……。性は、真夜中です」

「真夜中?!」


アーサーさんが目をカッ開いた。何か化け物でも見たような顔をしている。


「それがどかしましたか?」

「何と説明したらいいか。とても運命的なものを感じる」

「一体どういう事なんですか? もったいぶらないで教えてくださいよ」

「……うむ。実は十年ほど前にも、君によく似た女性のヒューマンがわしを訊ねて来たんじゃよ。その女性の性も『真夜中』じゃった」

「それは本当ですか?!」


俺は再び鳥肌が立った。思わず机を両手で叩いて立ち上がった。


「シンヤくん。まさか……」


アリスも気づいたようだ。


「俺は姉を探すために旅をしています。姉の名は……真夜中キラリです」

「キラリ……やはり君はあの子の身内じゃったか」

「姉を知っているんですか? 姉は今どこにいるんですか? 教えてください!」

「……残念じゃが、彼女が今どこで何をしているのかは分からん。ただ当時は、人々を救うために旅をしている、と言っておったな」

「人々を、救うために……?」


どういうことかさっぱりわからない。アーサーさんの話に出てくる女性が本当に俺の姉ちゃんなのだとしたら、人々を救うとはどういうことだ。宮古村にあったあの遺跡は、一体何のためにあんな所にあるのか。


「アーサーさん。俺は答えを知るために恵土に行かなくてはなりません」

「ふむ。海を渡るのじゃな。あの土地は強力なモンスターが多い。なおさら武器や防具は欠かせん。こうなってはわしも無関係ではない。いいじゃろう。お主の剣、直してやろう」

「ありがとうございますアーサーさん!」

「その防具はどこで買ったのじゃ?」

「これは、小さな村に立ち寄った際に、誰も使っていないものを譲ってもらったんです」

「なるほど。ではそれをもとに防具も作ってあげよう。今の君は軽装すぎる。見た目からしてスピードタイプではなさそうじゃしな」

「何から何まで、本当にありがとうございます」

「作るのに数日かかる。それまではここでゆっくりしておるとよい。とは言っても、暑すぎるかの?」


俺たちはお言葉に甘えてここに寝泊まりさせてもらうことにした。このドワーフの里に宿屋はあるが、生憎いっぱいで空きがないそうだ。武器や防具の完成を待っている人で埋まっている。食事も予約で余裕がないため、すべてをアーサーさんのお孫さん、エレンちゃんが面倒を見てくれることになった。


「すまないがエレン、鉄鉱石を取ってきてくれんか?」

「もうなくなったの? しょうがないわね」

「鉄鉱石を取りに行くならあたしも手伝うわ」


ナンシーが手を上げて自ら名乗り出た。


「助かりますナンシーさん。少し遠いんですけど、大丈夫ですか?」

「うん。全然平気よ(あたしもシンヤ様のお役にたたなくちゃ!)」


ナンシーはラミロ曰く、仕事をほとんどしない、怠け者タイプだと聞いていたが、案外自ら進んで仕事を探すんだな。16歳なのにもう立派な社会人の様だ。


「じゃあ俺は……アリス、俺にヴァースの使い方を教えてくれないか?」

「ええ、もちろん」


俺はアリスに洞窟の外でヴァースの使い方について習うことにした。どうせ数日かかるのだ。時間は十分にある。


「よし、では始めるかの」


それぞれがやることを見つけて、行動を始めた。

この時はまだ知らなかった。俺らの前に、悪の組織が近づいているということを。


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