ほ
私は刑事に大まかな事情を話し、交番に戻った。刑事は第一発見者の私を帰すことを渋っていたが、交番勤務であることを伝えると、すぐ連絡が取れると踏んだのか、帰してくれた。七瀬の口添えもあった。七瀬が私と情報交換した分を伝えてくれるそうだ。
私は現場から逃げるように立ち去り、箕舟駅前交番に向かった。
早足で歩きながら気づく。──小さな足跡が同じ方向に向かっている。
そういえば、新田さんはこの足跡を追って行ったはず……もしかして。
私は自然、交番ではなく、足跡を辿っていた。
見るうち、その足跡が小さな草履であることに気づく。──草履?
草履を履くのは、人間だ。つまり、この足跡は人間のもの?
いや、子供にしては小さすぎる。
じゃあ、これは何の?
考えて、考えて、埒が明かない、と顔を上げたとき。
目に飛び込んできたのは──
紅い水溜まり、道端の塀に寄りかかり、不自然な方向に首を傾げ、事切れている新田さん。
傾げられた首の根元にはざっくりと切られた跡がある。
そんな凄惨な光景の隅にぽつん、と市松人形が置かれていた。
私が見つめると、それを待っていたかのように、市松人形に変化が起きる。
黒く透明な作り物の目の下に赤黒いものが溢れ、つぅっ、と白い頬を伝う。
市松人形は泣いていた。
血の涙を流して。